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3.5章 閑話
13 王都の貴族 伯爵令嬢視点
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最近、王都の貴族の中で新しい食べ物の噂が出回っていますわ。
なんでも温かく、今までの野菜や果物とは一線を画すものだとか……。
私は宰相閣下の派閥の伯爵家の令嬢よ。
その私が食べられないものを他の貴族が食べているなんておかしいじゃない。
噂の出どころはシェリルバイトの派閥の貴族たち。
シェリルバイト……ああ、あのお父様が貴族にあるまじき平民のような馬鹿者といつも罵っている家ね。
なんでも領民に寄り添うために爵位をあげずに子爵でいることに誇りを持っているとかなんとか。
馬鹿な人達よね、領民は領主一家に仕える奴隷のようなもの。
その平民たちに寄りそう? なぜそのようなことをしているのか理解不能だわ。
お父様に確認してみても城内でもその新しい食べ物は出回っていないそう。
有り得ないことだわ。
普通、流行というものは上位の家系から回ってくるもの。
本当にシェリルバイト家が新しい食べ物を発見したのならまず先に王族へと献上するはず。
そうしないということは、できない理由があるはず。
私がその不都合な理由を暴いて、貴族にふさわしくない者たちを王都から追い出してやりますわ。
メイドたちに命じてシェリルバイト家に向かうために馬車を準備させると、執事が愚かにも苦言を呈してきましたわ。
なんでも、王都のタウンハウスには暗黙の了解があって、派閥の違う貴族家の近くには近寄らないように、とか。
どうして王都で最大派閥を誇る我が家が、些末な貴族の顔色を窺って出かける先を変えなければならないというのかしら。
……お父様に言ってあのような愚かなことを言い出す執事は、クビにしてもらわないといけないわね。
馬鹿なことを言い出した執事を無視して、御者にはシェリルバイト家のタウンハウスの近くまで行かせましたわ。
そうするとシェリルバイト家のタウンハウス近くには、王都には不釣り合いな木の家ができていましたわ。
貴族区域での建築物は基本的に石造り、我が家のように資材が豊富な家は鍛冶師にレンガを焼かせて作ったり、魔法を使える人材の多い家では土魔法で作ったりもしますわ。
ですが、あのような平民が住むような粗末な家に住む貴族はおりませんわ。
要するにあの粗末なあばら家はシェリルバイト家が新しく作った家。
ならば新しく出回っている食べ物に何かしらの関係があるはずですわ。
現に建物は粗末なくせに家の前には騎士が居て、護衛しているではありませんの。
「何者だ! ここはシェリルバイト家の管理下にある場所だ。用のないものを通すわけにはいかない」
粗末な家に近づくと護衛をしている騎士たちが声をかけてきましたわ。
護衛なのだから当然とはいえ、大きな声で威嚇されるのはやはり不愉快ですわね。
私の家に仕えている護衛騎士が、私を守るように前に出ますわ。
相手は子爵家に仕える騎士、私を守るのは伯爵家に仕える騎士。
さらに人数もあちらの倍以上の人数がいるのですもの、私が譲る道理はありませんわ。
「私が誰だか知ってそのような乱暴な言葉を言っているのかしら。私はイーリス伯爵家の息女よ」
殺気立っていた騎士たちは格上の爵位にひるんだのか、その動きが緩慢になりましたわ。
主の命令があれば他家の人間に対しても強気に出られても、主の命令もなしに貴族を傷つければ極刑に処されてもおかしくないくらいの重罪。
こちらの人数が多いこともあって、騎士たちは押さえつけられるように扉の前からどかされたわ。
メイドに命じて扉を開けさせれば、中には貧相な男と年端もいかない少年少女がいるだけ。
私が貧相な男に食べ物を持ってくるように言っていると、後ろから一目で貴族とわかる服装の男性が入ってきましたわ。
お父様からシェリルバイト子爵はお父様よりも年上と聞いているから、この男性は子爵令息ね。
なら、伯爵令嬢の私よりも位は低いはず。
爵位の違いを教えるためにも話しかけてあげれば、向こうは子爵令息ではなく子爵だと言い出しましたわ。
しかも、暗黙の了解やらなにやら、爵位を継承していないとはいえ格上の相手に対してあまりにも失礼な態度でしたわ。
騎士たちも抑えられてしまったので不承不承ながらも家に帰ることになりましたけど、あとでお父様に言いつけてあの失礼な子爵に罰を与えてもらわなければ気が済みませんわ。
そう思っていたのに、お父様の姿は夜になっても見つからず、なんでも宰相様の家や王城の方でやらなければならない仕事が立て込んでいるとかで戻れないそうですわ。
「なんてことをしてくれたんだっ! このバカ娘が!」
「一体何ですの?」
お父様が王城から戻ったと思ったら執務室に呼ばれて、いきなりこの罵倒ですわ。
お父様は普段から感情に任せて怒鳴り散らすことがありますが、平民ならともかく実の娘に対して八つ当たりはよしてほしいものですわ。
「シェリルバイト子爵のタウンハウスまで勝手に行ったそうだな。王城で子爵に嫌味交じりに苦言を呈されたわ!」
「子爵程度の文句なんてどうでもよいではないですか? 大体お父様だって、子爵のことをいつも腑抜けだの貴族の風上にも置けないだの文句ばかり言っているではないですの」
「馬鹿もの! 家の中で他家の文句を言うのと王城内で相手に直接苦言を呈されるのを一緒にするでない! お前がバカな行いをしたせいで宰相閣下からも領地に戻るように言われてしまったのだぞ!」
お父様は私のせいにしたいみたいですが、たかが子爵が文句を言ったところで宰相様が我が家を遠ざけるなどありませんわ。
どうせお父様がなにかミスをして宰相様に愛想をつかされたのでしょう。
「ではお父様の帰り支度をしなければなりませんわね」
「馬鹿か! お前も一緒に領地に下がるんだ! 爵位も持たぬ小娘が王都に一人で残れるわけがないだろうが! 他に子供がいればお前なぞ放逐してるところだぞ!」
なんですって!
まだ王都で噂になっている新しい食べ物も手に入っていないのに領地に下がるですって!
お父様のとばっちりでとんだ大損ですわ!
まあいいですわ、領地からでもやれることはいろいろありますし。
子爵程度が広められるものならばすぐにでも手に入るでしょう。
自分に都合のいい妄想ばかりしているリッシー伯爵令嬢だが、新しく流行する食事が自分たちの派閥になかなか回ってこないことを今の彼女はまだ知らない。
なんでも温かく、今までの野菜や果物とは一線を画すものだとか……。
私は宰相閣下の派閥の伯爵家の令嬢よ。
その私が食べられないものを他の貴族が食べているなんておかしいじゃない。
噂の出どころはシェリルバイトの派閥の貴族たち。
シェリルバイト……ああ、あのお父様が貴族にあるまじき平民のような馬鹿者といつも罵っている家ね。
なんでも領民に寄り添うために爵位をあげずに子爵でいることに誇りを持っているとかなんとか。
馬鹿な人達よね、領民は領主一家に仕える奴隷のようなもの。
その平民たちに寄りそう? なぜそのようなことをしているのか理解不能だわ。
お父様に確認してみても城内でもその新しい食べ物は出回っていないそう。
有り得ないことだわ。
普通、流行というものは上位の家系から回ってくるもの。
本当にシェリルバイト家が新しい食べ物を発見したのならまず先に王族へと献上するはず。
そうしないということは、できない理由があるはず。
私がその不都合な理由を暴いて、貴族にふさわしくない者たちを王都から追い出してやりますわ。
メイドたちに命じてシェリルバイト家に向かうために馬車を準備させると、執事が愚かにも苦言を呈してきましたわ。
なんでも、王都のタウンハウスには暗黙の了解があって、派閥の違う貴族家の近くには近寄らないように、とか。
どうして王都で最大派閥を誇る我が家が、些末な貴族の顔色を窺って出かける先を変えなければならないというのかしら。
……お父様に言ってあのような愚かなことを言い出す執事は、クビにしてもらわないといけないわね。
馬鹿なことを言い出した執事を無視して、御者にはシェリルバイト家のタウンハウスの近くまで行かせましたわ。
そうするとシェリルバイト家のタウンハウス近くには、王都には不釣り合いな木の家ができていましたわ。
貴族区域での建築物は基本的に石造り、我が家のように資材が豊富な家は鍛冶師にレンガを焼かせて作ったり、魔法を使える人材の多い家では土魔法で作ったりもしますわ。
ですが、あのような平民が住むような粗末な家に住む貴族はおりませんわ。
要するにあの粗末なあばら家はシェリルバイト家が新しく作った家。
ならば新しく出回っている食べ物に何かしらの関係があるはずですわ。
現に建物は粗末なくせに家の前には騎士が居て、護衛しているではありませんの。
「何者だ! ここはシェリルバイト家の管理下にある場所だ。用のないものを通すわけにはいかない」
粗末な家に近づくと護衛をしている騎士たちが声をかけてきましたわ。
護衛なのだから当然とはいえ、大きな声で威嚇されるのはやはり不愉快ですわね。
私の家に仕えている護衛騎士が、私を守るように前に出ますわ。
相手は子爵家に仕える騎士、私を守るのは伯爵家に仕える騎士。
さらに人数もあちらの倍以上の人数がいるのですもの、私が譲る道理はありませんわ。
「私が誰だか知ってそのような乱暴な言葉を言っているのかしら。私はイーリス伯爵家の息女よ」
殺気立っていた騎士たちは格上の爵位にひるんだのか、その動きが緩慢になりましたわ。
主の命令があれば他家の人間に対しても強気に出られても、主の命令もなしに貴族を傷つければ極刑に処されてもおかしくないくらいの重罪。
こちらの人数が多いこともあって、騎士たちは押さえつけられるように扉の前からどかされたわ。
メイドに命じて扉を開けさせれば、中には貧相な男と年端もいかない少年少女がいるだけ。
私が貧相な男に食べ物を持ってくるように言っていると、後ろから一目で貴族とわかる服装の男性が入ってきましたわ。
お父様からシェリルバイト子爵はお父様よりも年上と聞いているから、この男性は子爵令息ね。
なら、伯爵令嬢の私よりも位は低いはず。
爵位の違いを教えるためにも話しかけてあげれば、向こうは子爵令息ではなく子爵だと言い出しましたわ。
しかも、暗黙の了解やらなにやら、爵位を継承していないとはいえ格上の相手に対してあまりにも失礼な態度でしたわ。
騎士たちも抑えられてしまったので不承不承ながらも家に帰ることになりましたけど、あとでお父様に言いつけてあの失礼な子爵に罰を与えてもらわなければ気が済みませんわ。
そう思っていたのに、お父様の姿は夜になっても見つからず、なんでも宰相様の家や王城の方でやらなければならない仕事が立て込んでいるとかで戻れないそうですわ。
「なんてことをしてくれたんだっ! このバカ娘が!」
「一体何ですの?」
お父様が王城から戻ったと思ったら執務室に呼ばれて、いきなりこの罵倒ですわ。
お父様は普段から感情に任せて怒鳴り散らすことがありますが、平民ならともかく実の娘に対して八つ当たりはよしてほしいものですわ。
「シェリルバイト子爵のタウンハウスまで勝手に行ったそうだな。王城で子爵に嫌味交じりに苦言を呈されたわ!」
「子爵程度の文句なんてどうでもよいではないですか? 大体お父様だって、子爵のことをいつも腑抜けだの貴族の風上にも置けないだの文句ばかり言っているではないですの」
「馬鹿もの! 家の中で他家の文句を言うのと王城内で相手に直接苦言を呈されるのを一緒にするでない! お前がバカな行いをしたせいで宰相閣下からも領地に戻るように言われてしまったのだぞ!」
お父様は私のせいにしたいみたいですが、たかが子爵が文句を言ったところで宰相様が我が家を遠ざけるなどありませんわ。
どうせお父様がなにかミスをして宰相様に愛想をつかされたのでしょう。
「ではお父様の帰り支度をしなければなりませんわね」
「馬鹿か! お前も一緒に領地に下がるんだ! 爵位も持たぬ小娘が王都に一人で残れるわけがないだろうが! 他に子供がいればお前なぞ放逐してるところだぞ!」
なんですって!
まだ王都で噂になっている新しい食べ物も手に入っていないのに領地に下がるですって!
お父様のとばっちりでとんだ大損ですわ!
まあいいですわ、領地からでもやれることはいろいろありますし。
子爵程度が広められるものならばすぐにでも手に入るでしょう。
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