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5章 帝国
01 ミレーヌ・イルデガルド
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帝国に入った俺たちだが、早速帝国兵……帝国では王国と違って騎士団ではなく帝国軍が組織されているらしい……に囲まれてしまった。
レイジがいるとはいえ相手は数十人からなる集団で、相手に死人が出る……神様の加護があるからこっちの心配はしてなかった……かと思ったが、彼らは俺たちと事を構えるつもりはなかったらしい。
「警戒させてしまってすみませんでした」
帝国兵の中心にいた小柄な少女が謝罪をしてくる。
彼女は兵士ではなく、帝国をまとめる皇帝の娘で今回の遠征の責任者として同行しているらしい。
「まあ、流石に兵士に囲まれたときにはびっくりしたけど、こっちに実害はなかったからいいよ。……それよりもどうしてあんな場所で待ち構えていたんだ?」
俺たちの詳しい行動は誰も知らない……俺たちですらどの村に何日滞在していつになったら次の国に向かうのかわかっていないのだから当然だ。
どんな俺たちを先回りするように兵士を展開していた事実は流石に見過ごせない。
「ウィリアム殿から話を聞いていたのですよ」
クスクスと軽く笑いながら少女は話してくれる。
ウィリアムっていうと、俺の知り合いでは王国の騎士団長、シェリルバイト領のウィリアムさんしかいないのだが……。
「ウィリアムって王国の?」
「ええ、王国のシェリルバイト伯爵の騎士団長、ウィリアム殿です」
「伯爵?」
あれ? 確か、ジョシュアさん……今は爵位を譲ってランドールさんか……は子爵だったような。
「貴方達が王国を出国した後に陞爵したそうですよ。断りは入れたそうですが、王国の食糧事情を改善した功績、王宮で専横していた貴族の失脚から断り切れなかったとか」
あっちゃー、それって明らかに俺のせいだよな。
うーん、シェリルバイトの人たちには悪いことしたかな。
「シェリルバイト家は元々子爵なのがおかしいくらいに王国に貢献している家ですから、以前から陞爵の打診はあったんですよ。ですから、そんなに罪悪感にまみれた顔をしなくても大丈夫ですよ」
やっちまった的な顔をしていた俺に少女が声をかけてくれる。
まあ、確かにイーリスとかから聞いたシェリルバイト家の歴史的な話でも結構な家柄ってことだったし、領民にも好かれていたしな。
俺のせいってことは変わらないだろうけど、王国とシェリルバイト家にとっていい方向に向かうように祈っておくか。
「そういえば、まだ自己紹介もしてなかったな。俺はマサト、なんていうかいろんな国をまわって料理の技術を教えているんだ。んで、こっちが護衛をしてくれてるレイジ、こっちが一緒に料理を教えてくれいているミーナだ」
「護衛って言うほど戦ってない気もするけど」
「マサトさんの一番弟子のミーナです」
「存じていますよ、そのあたりもウィリアム殿に聞いていますからね。わたくしはミレーヌ・イルデガルド。イルデガルド帝国の第八皇女です」
皇女様! いや、なんかお偉いさんだっていうのは周囲の雰囲気や呼び方からわかっていたが、本人の口から言われるとびっくりするな。
「ええと……あんまり学がないもんで失礼な話し方ならすみません」
この世界だと敬語とか謙譲語がどうなってるのかわからないし、そもそも俺の中の前の世界の知識でもその辺の詳しい情報はないんだよな。
「貴方たちは救国の英雄なのですから言葉遣いなど気にしなくても大丈夫ですよ」
「救国の英雄?」
「ウィリアム殿から聞いていますよ。貴方のもたらした料理のおかげで王国は救われたと。民の心身は救われ、横暴な貴族を失脚させられたと」
まあ、結果だけを切り取ればそうかもしれないが、正直自分のやってきたことをそういいようにだけ言われるとむず痒いな。
「ウィリアムさんってまだこの国にいるんですか? というよりも僕たちよりも早くこの国についてるってことは聖王国お横切ってきたんですか?」
あー、レイジの言うことも気になってたんだよな。
ランドールさんはシェリルバイト家は聖王国とは仲が悪いって言ってたから、聖王国に許可を取って横断してきたとは思えないんだよな。
というか、聖王国に入ってたのなら確実に俺たちの消息をたどって合流してきそうなもんだし。
「ウィリアム殿は迷宮都市への街道を利用して帝国にやってきたのですよ。迷宮都市周辺は強い魔獣が多く危険なのですが、ウィリアム殿単独で帝国へやってきたので、こちらもびっくりしたのですよ」
あー、なるほど。聖王国とは仲が悪いから刺激しないように三国で共同管理してる迷宮都市経由で帝国に入ってきたってことか。
「じゃあ、ウィリアムさんはまだ帝国にいるってことか?」
「いいえ、やはりシェリルバイト領での仕事もあるからと情報を共有してすぐに帰国なさいました。こちらとしても、単独での行動は危険だと言ったのですが、来れたのだから帰れるとの一点張りで」
あー、ウィリアムさんらしいって言えばらしいのかな、結構あの人脳筋なところあるからな。
とはいえ、王国の現有戦力の中ではトップに位置する人材でもあるから、多分本当に危険はないと判断しての行動なんだろうな。
「ウィリアムさんのことは分かりましたけど、本当に私たちが皇女様に対して普通の態度でいいんですか?」
「大丈夫ですよ。皇女とはいっても皇位継承権は十三位。帝国では男児が皇位を優先的に次ぐので兄弟が五人、女児だけでも上に七人もいるわたくしは帝国内ではさして重要な存在ではないのです」
「皇位継承権?」
「王様になれる権利のことだな。帝国だから皇帝かな」
王国や聖王国ではあんまり上層部に関わってこなかったけど、少なくとも十三人兄弟っていうのは多い方なんだろうな。
「帝国は周囲の小国を保護しながら大きくなった国ですので、皇妃が多いのです」
なるほどね。誤解を恐れない言い方をすれば人質、有力者の娘を帝室に差し出す代わりに保護してくれと願い出た形か。
「わたくしも母も帝室にとっては替えの利く存在。ですから貴方たちが気安く接しても問題はないのですよ」
レイジがいるとはいえ相手は数十人からなる集団で、相手に死人が出る……神様の加護があるからこっちの心配はしてなかった……かと思ったが、彼らは俺たちと事を構えるつもりはなかったらしい。
「警戒させてしまってすみませんでした」
帝国兵の中心にいた小柄な少女が謝罪をしてくる。
彼女は兵士ではなく、帝国をまとめる皇帝の娘で今回の遠征の責任者として同行しているらしい。
「まあ、流石に兵士に囲まれたときにはびっくりしたけど、こっちに実害はなかったからいいよ。……それよりもどうしてあんな場所で待ち構えていたんだ?」
俺たちの詳しい行動は誰も知らない……俺たちですらどの村に何日滞在していつになったら次の国に向かうのかわかっていないのだから当然だ。
どんな俺たちを先回りするように兵士を展開していた事実は流石に見過ごせない。
「ウィリアム殿から話を聞いていたのですよ」
クスクスと軽く笑いながら少女は話してくれる。
ウィリアムっていうと、俺の知り合いでは王国の騎士団長、シェリルバイト領のウィリアムさんしかいないのだが……。
「ウィリアムって王国の?」
「ええ、王国のシェリルバイト伯爵の騎士団長、ウィリアム殿です」
「伯爵?」
あれ? 確か、ジョシュアさん……今は爵位を譲ってランドールさんか……は子爵だったような。
「貴方達が王国を出国した後に陞爵したそうですよ。断りは入れたそうですが、王国の食糧事情を改善した功績、王宮で専横していた貴族の失脚から断り切れなかったとか」
あっちゃー、それって明らかに俺のせいだよな。
うーん、シェリルバイトの人たちには悪いことしたかな。
「シェリルバイト家は元々子爵なのがおかしいくらいに王国に貢献している家ですから、以前から陞爵の打診はあったんですよ。ですから、そんなに罪悪感にまみれた顔をしなくても大丈夫ですよ」
やっちまった的な顔をしていた俺に少女が声をかけてくれる。
まあ、確かにイーリスとかから聞いたシェリルバイト家の歴史的な話でも結構な家柄ってことだったし、領民にも好かれていたしな。
俺のせいってことは変わらないだろうけど、王国とシェリルバイト家にとっていい方向に向かうように祈っておくか。
「そういえば、まだ自己紹介もしてなかったな。俺はマサト、なんていうかいろんな国をまわって料理の技術を教えているんだ。んで、こっちが護衛をしてくれてるレイジ、こっちが一緒に料理を教えてくれいているミーナだ」
「護衛って言うほど戦ってない気もするけど」
「マサトさんの一番弟子のミーナです」
「存じていますよ、そのあたりもウィリアム殿に聞いていますからね。わたくしはミレーヌ・イルデガルド。イルデガルド帝国の第八皇女です」
皇女様! いや、なんかお偉いさんだっていうのは周囲の雰囲気や呼び方からわかっていたが、本人の口から言われるとびっくりするな。
「ええと……あんまり学がないもんで失礼な話し方ならすみません」
この世界だと敬語とか謙譲語がどうなってるのかわからないし、そもそも俺の中の前の世界の知識でもその辺の詳しい情報はないんだよな。
「貴方たちは救国の英雄なのですから言葉遣いなど気にしなくても大丈夫ですよ」
「救国の英雄?」
「ウィリアム殿から聞いていますよ。貴方のもたらした料理のおかげで王国は救われたと。民の心身は救われ、横暴な貴族を失脚させられたと」
まあ、結果だけを切り取ればそうかもしれないが、正直自分のやってきたことをそういいようにだけ言われるとむず痒いな。
「ウィリアムさんってまだこの国にいるんですか? というよりも僕たちよりも早くこの国についてるってことは聖王国お横切ってきたんですか?」
あー、レイジの言うことも気になってたんだよな。
ランドールさんはシェリルバイト家は聖王国とは仲が悪いって言ってたから、聖王国に許可を取って横断してきたとは思えないんだよな。
というか、聖王国に入ってたのなら確実に俺たちの消息をたどって合流してきそうなもんだし。
「ウィリアム殿は迷宮都市への街道を利用して帝国にやってきたのですよ。迷宮都市周辺は強い魔獣が多く危険なのですが、ウィリアム殿単独で帝国へやってきたので、こちらもびっくりしたのですよ」
あー、なるほど。聖王国とは仲が悪いから刺激しないように三国で共同管理してる迷宮都市経由で帝国に入ってきたってことか。
「じゃあ、ウィリアムさんはまだ帝国にいるってことか?」
「いいえ、やはりシェリルバイト領での仕事もあるからと情報を共有してすぐに帰国なさいました。こちらとしても、単独での行動は危険だと言ったのですが、来れたのだから帰れるとの一点張りで」
あー、ウィリアムさんらしいって言えばらしいのかな、結構あの人脳筋なところあるからな。
とはいえ、王国の現有戦力の中ではトップに位置する人材でもあるから、多分本当に危険はないと判断しての行動なんだろうな。
「ウィリアムさんのことは分かりましたけど、本当に私たちが皇女様に対して普通の態度でいいんですか?」
「大丈夫ですよ。皇女とはいっても皇位継承権は十三位。帝国では男児が皇位を優先的に次ぐので兄弟が五人、女児だけでも上に七人もいるわたくしは帝国内ではさして重要な存在ではないのです」
「皇位継承権?」
「王様になれる権利のことだな。帝国だから皇帝かな」
王国や聖王国ではあんまり上層部に関わってこなかったけど、少なくとも十三人兄弟っていうのは多い方なんだろうな。
「帝国は周囲の小国を保護しながら大きくなった国ですので、皇妃が多いのです」
なるほどね。誤解を恐れない言い方をすれば人質、有力者の娘を帝室に差し出す代わりに保護してくれと願い出た形か。
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