料理を作って異世界改革

高坂ナツキ

文字の大きさ
117 / 150
5章 帝国

02 料理依頼

しおりを挟む
「お話ししたいことはいろいろありますけれど、皇帝陛下もお待ちですのでそろそろ出発しましょうか」

 帝国の皇女であるミレーヌがいるからか、帝国側は馬車を用意してくれていた。

「帝国には魔獣じゃない馬がいるんだ」

「……ああ、王国ではそういえばグリーンホースという魔獣に車を牽かせているのでしたね」

「そうそう、聖王国ではブラックカウに牽かせた牛車があったな」

「帝国で車を牽かせるの利用しているのはブラウンホース、王国のグリーンホースとは違って獣ですが、その分、力も弱いです」

「四人も乗って大丈夫なのか?」

「二頭立てなので大丈夫ですよ。兵士の方には周囲の警戒もあるので歩いてもらうことになりますけどね」

 警戒……まあ、帝国は小国を保護、つまりは併呑して大きくなったって言ってたからな。

「マサトさん、警戒するってことは危険があるってことですか」

「マサト兄ちゃん、僕も外を歩いていこうか?」

「ああ、多分大丈夫だろ。料理を食べてない人間相手ならレイジは過剰戦力になりかねないしな」

 帝国内では料理の技術は広めていないし、ウィリアムさんが単独で帝国にやってきたのなら料理の技術は伝えられていないだろう。
 イーリスやロバート、ボブがいれば違ったかもしれないけど、ウィリアムさんは完全に食べる専門だったしな。

「さっきミレーヌが言ってただろ? 帝国は周囲の小国を保護することで大きくなったって」

「そうです。周囲の小国は魔王や魔獣の被害を恐れて、それまで最大規模だった帝国に庇護を求めました」

「保護されたのに帝国の兵士に襲い掛かる人がいるんですか?」

 ミーナの言い分ももっともだ、普通の状況なら助けてもらったなら感謝するのが当たり前。

「国の上層部が居なくなった結果、庇護されたのなら国民は感謝しかないだろうけどな。……だけど、王族や貴族が残ってたなら話は別だろうな」

「そうです。有力者の娘を差し出した小国の中には、自国を守れるほどの力があれば取って代われると考えている国も少なくはないのです」

「帝国の一部になったのに上に逆らうってこと?」

「レイジの言いたいこともわかるよ。王国では……というよりもシェリルバイト家は王族に忠誠を誓って行動していたからね」

 ジョシュアさんやランドールさんはいち早く料理の技術を取り入れることになって、王国でも屈指の戦闘力と豊富な食糧資源を手に入れていた。
 だけど、シェリルバイト家の人が王家に反旗を翻すことはなかった。

「王国の貴族……それも国を興した時点で騎士として王族に付き従っていた二十家は特に忠誠心が強いですからね」

「帝国に保護を求めた小国の王族はそうじゃない。自分たちの保身のために強国を頼っただけで、王としてのプライドは健在ってことだろうね」

「守ってもらったのに裏切るなんて信じられませんね」

 ミーナの言うことは分かるんだけど、やっぱりきちんとしていたシェリルバイト領の出身だから人の悪意とかがよくわからないんだろうな。

「あの村長とかジョシュアさんたちを見ていればその感想もわかるけど、多分、王国にもそういう考えの人はいたと思うぞ」

 王宮で俺を襲ってきたあのよくわからない貴族とかな。

「そういうわけで、帝室が囲ってるということをアピールするためにもわたくしが貴方たちの迎えに来たというわけです」

「まあ、こっちとしても馬車を出してもらって、助かってるからね」

 聖王国は結局徒歩でまわったけど結構時間食ったからな。
 聖王国は平原だったから徒歩でもそれほど辛くはなかったけど、帝国は見ただけでも山が多いのがわかる。
 王国ほどには森はなさそうだけど、村や町をまわりながら行動するとなるとかなり回り道することになるだろうな。

「そういえば皇帝陛下に会うってことは向かう先は帝都なんだろ? どのくらいかかるんだ?」

「馬車を使って三日ほどですね。……それで、お願いなのですが……道中、兵士たちにマサト様の料理を振舞ってはいただけませんか?」

 料理か……確かに兵士に振舞うっていうのは料理の技術を広めるためには楽な手段ではあるんだよな。

「それは無理ですよ」

 俺が断ろうと思った矢先にミーナが断ってしまった。

「それはどういう?」

「ああ、手持ちの食料が少ないんですよ。兵士の方はざっと見た感じでも三十人以上はいるでしょう?」

「偵察に出ているものも合わせれば五十人です」

「こっちは三人で旅してきましたからね。手持ちの食料も三人が十分に食べられる量はあるんですけど、流石に五十人分を三日は無理ってことですよ」

「では、大丈夫ですね。馬車はこれ以外にもう二台あって、そちらには食料を冷やしながら運んでいるんですよ」

 なるほど、兵士に囲まれた馬車がまだあったことに位は気づいていたけど、あれには食料が積んであったのか。
 てっきり重傷者とかが出た場合の看護用の馬車かと思ってたよ。

「では、兵士に中から何人かと、ミレーヌが手伝ってくれれば兵士に料理を振舞うことは可能だよ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします

未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢 十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう 好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ 傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する 今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

異世界の片隅で引き篭りたい少女。

月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!  見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに 初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、 さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。 生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。 世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。 なのに世界が私を放っておいてくれない。 自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。 それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ! 己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。 ※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。 ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。  

男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる

暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。 授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。

処理中です...