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5章 帝国
05 和風パスタ
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「これがマサト様の作る料理……」
「時間がなかったから簡単なものだけどな」
パスタ一皿っていうのは平民ならいざ知らず、皇女様に出すのは流石に簡易的過ぎるだろう。
とはいえ、この世界では料理自体が珍しく、価値があるものだからこれでも感動している兵士は多いのだが。
「……温かいのですね」
「ははっ」
「何かおかしいことを言いましたか?」
「いやいや、王国でも聖王国でもそうだったけど、みんな温かい料理が珍しいんだなと思って」
この世界の既存の食事と料理の明確な違いは、調理に火を使っているかどうかが大きいんだろうな。
この世界の常識では食べ物は常温か、冷やして食べるもの。
それに対して、俺が作る料理は基本的に熱を通すものだから、食べる側はまず温かいことに感動するらしい。
「でも、これはどうやって食べたらいいんですか?」
「緑菜やベーコンなんかの具材はフォークで突き刺して食べてくれ。パスタはフォークを突き刺してクルクルと巻いて食べればいいよ」
王国でもそうだったが、上流階級の人間はカトラリーを使って野菜や果物を食べる習慣があるらしいから、フォーク自体は使えるだろう。
ジョシュアさんに聞いた話だと一口大に切った、野菜や果物をフォークで食べるのが主流だってことだったしな。
「……わっ……おいしい」
「そいつは良かった」
料理はこの世界では珍しいけど、それだけで全員が全員美味しいと思ってくれるわけじゃない。
上流階級は目新しいというだけで価値を感じてくれるが、平民はいつもの食事のほうが慣れていて楽っていう人も一定数いたからな。
そんな中で美味しいって感じてくれるのは、やっぱりうれしいもんだよな。
「マサトさん、次の準備ができましたよ」
「ああ、じゃあパスタの方も茹でるよ」
ミレーヌは偵察に出してる人員も合わせれば五十人の兵士がいると言っていたが、実は俺たちがどの場所から帝国に入国するかわからなかったために国境線に散らばらせている人員を含んだ話だったらしい。
散っている人員の合流は明日の昼過ぎになるとのことなので、今日の料理は三十人分プラス俺たちの分ということになる。
なんで、さっきよりは少なく十四人分のパスタを茹でることにする。
「マサトさん、小さなフライパンに一人前の具材も準備しましたけど、これでよかったんですか?」
「ああ、ありがとう」
実はミーナに頼んで一人前分の具材は別にとってもらっていた。
これでミレーヌに発酵食品の味を確かめてもらおうという算段だ。
「マサト様、ごちそうさまでした」
「ああ、待ってくれミレーヌ。もう少しそこで待ってもらっててもいいか?」
「? ですが、わたくしがどかないと他の方々が……」
「兵士の人たちのほうが食べるのが早いからミレーヌがどかなくても大丈夫だよ」
身体を動かすからか、それとも緊急時に即応できるためにか、騎士団の人と同じように兵士の人たちも食事が早い。
ミレーヌが感動しつつちまちま食べている間に、どんどんと食べ終わった皿を戻して入れ替わっていた。
さっきまで、料理の仕方を教えてもらっていた料理人の天職持ちの兵士たちは今は皿洗いに精を出している。
「ミレーヌには発酵食品について知っておいてもらいたいと思ってね」
「別の味付け……ということですか」
さっきまで作っていたのはベーコンに多少の香辛料や醤油を使っているが、基本的な味付けは塩のみのパスタ。
今俺が作っているのは醤油を使った和風パスタだ。
ミレーヌだけに味合わせるつもりじゃなくて、ここにいる料理人の天職持ちの兵士全員に食べさせるつもりだから一人前を四等分にする。
「さっきまでのパスタにはどこでも採れる塩を使っていた。このパスタは発酵が必要になる醤油を使った和風パスタになる」
「……僕たちの分はないんだ」
「悪い! 今回は帝国に発酵食品について知ってほしいから料理人の天職持ちの人たちの分しかないんだ」
いや、別にパスタ自体はあるから追加で作れないこともないが、流石に他の兵士の手前、量を明らかに増やしたり蓋更も食べるのはまずいだろう。
ミレーヌに出すのはミレーヌが皇女である点と、味見程度の量しかないという点が大きい。
「夜はお肉を使ったものにしてくれたら許すよ」
「わかったわかった。夜は唐揚げにするからさ」
キラーバードの肉なら冷凍肉があるから、兵士全員にいきわたるくらいの量にはなるだろう。
移動する前に一口大に切って調味液に漬けておかないとな。
「美味しかったとしてもわたくしが料理をするかどうかは別ですよ」
「わかってるって。でも、帝国では発酵食品を含めた調味料を作ろうと思ってるからさ。いろいろ食材の入手を頼むと思うけど、どんな味かわからないと真剣に探してもらえないだろ?」
醤油や味噌なら、大豆というか、豆類の捜索は必須。
魚醤で妥協するにしても魚関係を仕入れてほしいとお願いしても、どんな味でどういった用途で使うか知らなければ面倒くさがるのは目に見えてる。
特にこの世界は単一の食品だけで生活している人が大半なのだから、大量に作れてそこそこの美味しさで妥協してしまうのは仕方がないことだろう。
「わかりました。……では、いただきます」
「時間がなかったから簡単なものだけどな」
パスタ一皿っていうのは平民ならいざ知らず、皇女様に出すのは流石に簡易的過ぎるだろう。
とはいえ、この世界では料理自体が珍しく、価値があるものだからこれでも感動している兵士は多いのだが。
「……温かいのですね」
「ははっ」
「何かおかしいことを言いましたか?」
「いやいや、王国でも聖王国でもそうだったけど、みんな温かい料理が珍しいんだなと思って」
この世界の既存の食事と料理の明確な違いは、調理に火を使っているかどうかが大きいんだろうな。
この世界の常識では食べ物は常温か、冷やして食べるもの。
それに対して、俺が作る料理は基本的に熱を通すものだから、食べる側はまず温かいことに感動するらしい。
「でも、これはどうやって食べたらいいんですか?」
「緑菜やベーコンなんかの具材はフォークで突き刺して食べてくれ。パスタはフォークを突き刺してクルクルと巻いて食べればいいよ」
王国でもそうだったが、上流階級の人間はカトラリーを使って野菜や果物を食べる習慣があるらしいから、フォーク自体は使えるだろう。
ジョシュアさんに聞いた話だと一口大に切った、野菜や果物をフォークで食べるのが主流だってことだったしな。
「……わっ……おいしい」
「そいつは良かった」
料理はこの世界では珍しいけど、それだけで全員が全員美味しいと思ってくれるわけじゃない。
上流階級は目新しいというだけで価値を感じてくれるが、平民はいつもの食事のほうが慣れていて楽っていう人も一定数いたからな。
そんな中で美味しいって感じてくれるのは、やっぱりうれしいもんだよな。
「マサトさん、次の準備ができましたよ」
「ああ、じゃあパスタの方も茹でるよ」
ミレーヌは偵察に出してる人員も合わせれば五十人の兵士がいると言っていたが、実は俺たちがどの場所から帝国に入国するかわからなかったために国境線に散らばらせている人員を含んだ話だったらしい。
散っている人員の合流は明日の昼過ぎになるとのことなので、今日の料理は三十人分プラス俺たちの分ということになる。
なんで、さっきよりは少なく十四人分のパスタを茹でることにする。
「マサトさん、小さなフライパンに一人前の具材も準備しましたけど、これでよかったんですか?」
「ああ、ありがとう」
実はミーナに頼んで一人前分の具材は別にとってもらっていた。
これでミレーヌに発酵食品の味を確かめてもらおうという算段だ。
「マサト様、ごちそうさまでした」
「ああ、待ってくれミレーヌ。もう少しそこで待ってもらっててもいいか?」
「? ですが、わたくしがどかないと他の方々が……」
「兵士の人たちのほうが食べるのが早いからミレーヌがどかなくても大丈夫だよ」
身体を動かすからか、それとも緊急時に即応できるためにか、騎士団の人と同じように兵士の人たちも食事が早い。
ミレーヌが感動しつつちまちま食べている間に、どんどんと食べ終わった皿を戻して入れ替わっていた。
さっきまで、料理の仕方を教えてもらっていた料理人の天職持ちの兵士たちは今は皿洗いに精を出している。
「ミレーヌには発酵食品について知っておいてもらいたいと思ってね」
「別の味付け……ということですか」
さっきまで作っていたのはベーコンに多少の香辛料や醤油を使っているが、基本的な味付けは塩のみのパスタ。
今俺が作っているのは醤油を使った和風パスタだ。
ミレーヌだけに味合わせるつもりじゃなくて、ここにいる料理人の天職持ちの兵士全員に食べさせるつもりだから一人前を四等分にする。
「さっきまでのパスタにはどこでも採れる塩を使っていた。このパスタは発酵が必要になる醤油を使った和風パスタになる」
「……僕たちの分はないんだ」
「悪い! 今回は帝国に発酵食品について知ってほしいから料理人の天職持ちの人たちの分しかないんだ」
いや、別にパスタ自体はあるから追加で作れないこともないが、流石に他の兵士の手前、量を明らかに増やしたり蓋更も食べるのはまずいだろう。
ミレーヌに出すのはミレーヌが皇女である点と、味見程度の量しかないという点が大きい。
「夜はお肉を使ったものにしてくれたら許すよ」
「わかったわかった。夜は唐揚げにするからさ」
キラーバードの肉なら冷凍肉があるから、兵士全員にいきわたるくらいの量にはなるだろう。
移動する前に一口大に切って調味液に漬けておかないとな。
「美味しかったとしてもわたくしが料理をするかどうかは別ですよ」
「わかってるって。でも、帝国では発酵食品を含めた調味料を作ろうと思ってるからさ。いろいろ食材の入手を頼むと思うけど、どんな味かわからないと真剣に探してもらえないだろ?」
醤油や味噌なら、大豆というか、豆類の捜索は必須。
魚醤で妥協するにしても魚関係を仕入れてほしいとお願いしても、どんな味でどういった用途で使うか知らなければ面倒くさがるのは目に見えてる。
特にこの世界は単一の食品だけで生活している人が大半なのだから、大量に作れてそこそこの美味しさで妥協してしまうのは仕方がないことだろう。
「わかりました。……では、いただきます」
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