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5章 帝国
09 ピザ
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「材料は小麦粉、紫トマト、キラーバード、ベーコン、あとはカマンベールチーズかな」
「パンと一緒ならドライイーストとかお塩もですか?」
「そうそう、ただ最近作ってるようなパンとは違って、ミルクとかバターは入れないな。その代わりにオリーブオイルと使う」
「具材はこれじゃなきゃダメなの?」
「いや、割となに乗せてもいいんだけど、材料が少ないからな」
キラーバードの肉は食いきれなくて冷凍されてるものが結構残ってるからそれで、紫トマトはトマトソースを作る用と具材用だな。
ナスとかピーマンとかがあればもうちょっと色合いが出せるんだけど、ないしなぁ……それに魚介系も手に入ってないからシーフードってわけにもいかんし。
「とりあえず、ピザ生地はパンと同じで寝かせる時間が必要だから、先に作って寝かせてる間にトマトソースと具材を用意しようか」
「時間がかかるのか?」
「出来上がるのに二時間くらいはかかるから、今から作り始めるけど出来上がるのは夕方過ぎだぞ」
料理について何の知識もないリヒトは分からないかもしれないが、料理っていうのは時間がかかるものなんだ。
「流石にそれだけの時間、ここで遊んでるわけにはいかねーな」
「ですから、皇帝陛下は執務に戻ってください」
「だからお父様と呼べと……まあいい、じゃあミレーヌはマサトを手伝ってやれ」
「……なぜわたくしが」
「皇帝としてマサト達を歓待しろと命じたろ」
言うだけ言って、リヒトは食堂から出ていった。
「まあ、リヒトの言うことじゃないけどミレーヌにも手伝ってもらえればありがたいな。初めての料理ってこともあるけど、普通に七十人前は多い」
「……はあー、わかりましたわ」
一枚で二人前としても三十五枚は作らなきゃいけないからな、一人でも人手は多い方がありがたい。
もちろん料理人の天職持ちの兵士たちにも手伝ってもらうことになってる……まあ、さっきまでリヒトがいたから今は食堂の外にいるけど、リヒトが居なくなった以上入ってもらわないとな。
「レイジ、外にいる料理人の天職持ちの兵士の人たちを呼んできてもらっていいか?」
「はーい」
「マサト様は……陛下と仲が良くなったですね?」
「仲……よくなったのか? お互いに面倒だから堅苦しい話し方をやめただけだぞ」
「でも、陛下はわたくしたち家族にはあのようにお話しされません」
うーん、さっきはミレーヌ相手にも結構気安い話し方してたけどなー。
「まあ、皇帝としての立場もあるし、俺に対してはそうしなきゃ俺が嫌がると思ったんじゃないのか?」
「マサトさん、王国でもかしこまった話し方するの嫌がっていましたもんね」
そうなんだよな~、やろうと思えばできないこともないんだけど、やっぱり適当に話してる方が気が楽だしな~。
「それに、リヒトは人質外交として各国の有力者の娘と結婚してるんだろ? 多分、誰かに肩入れしてると思われると面倒事が増えるんじゃないのか?」
「……面倒事」
「俺は家族に対する記憶がないからよくわからんが、リヒトが家族のことをないがしろにしてるってことはないんじゃないかな」
皇位を誰が継ぐかに気をもんでたり……多分ここに来たのも食堂を見たかったのもあるだろうけど、ミレーヌの様子を見に来たんじゃないのかな。
俺といれば皇帝としての立場じゃなくて、ただのリヒトとして接することができる……まあ、これは俺の想像、っていうか妄想かな。
「マサト兄ちゃん、みんなを連れてきたよ」
「よし、じゃあまずはパン生地作りからだな。十人いるから目標は一人四枚分だぞ」
リヒトの考えはリヒトにしかわからない、わからないものを考え続けるよりも手を動かした方が気がまぎれることもある。
だから、まあ俺がミレーヌのためにしてやれるのはいろんな料理を教えてやるくらいだな。
「つ……疲れました」
「だろうねえ、でも今回は料理人の天職持ちが多くて助かったよ」
王国にいた時はこれよりも少人数でもっと大量の料理を作ってたしな。
「でも、作れば作るほどに慣れていくというか……どうすれば上手にできるかが頭に入ってくる感じがしました」
「ああ、多分それは天職のおかげだろうな。ミレーヌは特に発酵職人で、パン生地は発酵を使うからボーナス的な何かがあったんじゃないか?」
王国のイーリスもパンに関する料理だけ異様に上手かったからな。
「……発酵……マサト様が見せてくれた醤油や味噌以外にもあるんですね」
「ピザに使ったチーズもそうだし、結構いろんなものがあるぞ」
何だっけ? 微生物を使って通常とは違う状態になること? 食用に耐えられたら発酵でだめだったら腐ったってことでいいのか?
「チーズ……ピザにのせていた黄色いやつですよね」
「聖王国でミルクと発酵に必要な植物が手に入ったから見よう見まねというか、聞きかじりの知識で作ってみたけど、まあなんとか形になったっていうレベルのな」
「これもわたくしが手伝うのですか?」
「手伝ってくれればこのピザももっと、美味くなると思うんだよな~。……ってわけで、ここにいるメンバーで先に試食をしておくか」
「いいのですか? 皇帝陛下よりも先に食べてしまって?」
「いやいや、これはきちんと出来てるかの確認だから」
そう、試食っていうのは料理のクォリティを確かめる行為で、つまみ食いとは違うからな。
「味付けはテリヤキチキンと、ベーコンと紫トマトの二種類だから、みんなそれぞれ食べてみてくれよ」
テリヤキチキンはキラーバードの肉を薄く切って軽く焼いてから照り焼きのたれに絡めてある。
こっちの方にはマヨネーズを回しかけてあるから、こってり系の味付けが好きな人が好みそうだな。
ベーコンのほうは基本的に生で食べても大丈夫なものしか乗せてないから、そのまま食べやすい大きさに切ってから焼いてある。
こっちは塩コショウだけの味付けでマヨネーズなんかを使うのはやめた。
バジルがあればもっとさっぱりできたけどないものは仕方がないから諦めた形だな。
「わたし、こっちの紫トマトを使った方が酸っぱくて好きです」
「僕はこっちのテリヤキチキンのほうがいいかな」
まあ、好みに差が出るよな。
「マサト様、ピザというのはこれ以外にも種類があるのですか?」
「俺が知ってるだけでも、魚介を乗せたシーフードとか果物を乗せたトロピカル、肉も牛肉や豚肉を使ったり、野菜もいろいろだな」
とにもかくにも材料が足りないからな、今回は在庫が多めの材料で作ったけど本当はもう少しバランスのいいトッピングにもしたかったんだよな。
「魚介?」
「海とか川にいる獣や魔獣のこと……でいいのか?」
「村にもいたけどマサト兄ちゃんが食用にできないって嘆いてたやつだよね」
そうなんだよな~、村の中には洗濯用に使ってた川があって、そこには小魚が泳いでたんだけど食用不可だったんだよな。
それからも領都とか王都で川や湖を覗いてみても魚がいないか食用にできないのしかいなくてな~。
「海……マサト様、帝国の北側には海があるのですよ」
「おおっ、マジ?」
魚介が手に入ったら、ピザと言わずにスープにしてもメインにしても幅がかなり広がるんだよな~。
それに醤油関係も大豆から醤油を作るよりも、魚から作る魚醤のほうが簡単に作れるしな。
「北の方はわたくしではなく、一番上のお兄様の管轄ですので詳しく聞いてみないと生き物が居るかどうかはわかりませんが……」
「いやいや、情報があるだけで助かるって。集めた獣の鑑定をするときにでもリヒトに他の食材探しもお願いしないとな」
「帝国としても食材になるものが増えるのはうれしいことですから、皇帝陛下も快く承諾してくれると思いますよ」
まあ、そうなら助かるんだけどな。
もし、集めるのがダメって言われるとここから離れて食材探しに行かないといけなくなるしな~。
「まあ、とりあえずこのピザは成功……みたいだな、みんないい笑顔で食ってくれてるし」
「マサトさん的にはどうだったんですか?」
「うーん、四十点くらい?」
やっぱりというかチーズの熟成が足りてないのと、そもそもピザ用に作ったチーズじゃないのもあるんだが、味に深みがないんだよな。
それに、ピザって言うと何種類かのチーズを混ぜて作るのがセオリーなんだけど、これは一種類だから結構味がべたってなってるんだよな。
「厳しいですね」
「まあ、ミレーヌが手伝ってくれたらもっとおいしくなるってことで」
「パンと一緒ならドライイーストとかお塩もですか?」
「そうそう、ただ最近作ってるようなパンとは違って、ミルクとかバターは入れないな。その代わりにオリーブオイルと使う」
「具材はこれじゃなきゃダメなの?」
「いや、割となに乗せてもいいんだけど、材料が少ないからな」
キラーバードの肉は食いきれなくて冷凍されてるものが結構残ってるからそれで、紫トマトはトマトソースを作る用と具材用だな。
ナスとかピーマンとかがあればもうちょっと色合いが出せるんだけど、ないしなぁ……それに魚介系も手に入ってないからシーフードってわけにもいかんし。
「とりあえず、ピザ生地はパンと同じで寝かせる時間が必要だから、先に作って寝かせてる間にトマトソースと具材を用意しようか」
「時間がかかるのか?」
「出来上がるのに二時間くらいはかかるから、今から作り始めるけど出来上がるのは夕方過ぎだぞ」
料理について何の知識もないリヒトは分からないかもしれないが、料理っていうのは時間がかかるものなんだ。
「流石にそれだけの時間、ここで遊んでるわけにはいかねーな」
「ですから、皇帝陛下は執務に戻ってください」
「だからお父様と呼べと……まあいい、じゃあミレーヌはマサトを手伝ってやれ」
「……なぜわたくしが」
「皇帝としてマサト達を歓待しろと命じたろ」
言うだけ言って、リヒトは食堂から出ていった。
「まあ、リヒトの言うことじゃないけどミレーヌにも手伝ってもらえればありがたいな。初めての料理ってこともあるけど、普通に七十人前は多い」
「……はあー、わかりましたわ」
一枚で二人前としても三十五枚は作らなきゃいけないからな、一人でも人手は多い方がありがたい。
もちろん料理人の天職持ちの兵士たちにも手伝ってもらうことになってる……まあ、さっきまでリヒトがいたから今は食堂の外にいるけど、リヒトが居なくなった以上入ってもらわないとな。
「レイジ、外にいる料理人の天職持ちの兵士の人たちを呼んできてもらっていいか?」
「はーい」
「マサト様は……陛下と仲が良くなったですね?」
「仲……よくなったのか? お互いに面倒だから堅苦しい話し方をやめただけだぞ」
「でも、陛下はわたくしたち家族にはあのようにお話しされません」
うーん、さっきはミレーヌ相手にも結構気安い話し方してたけどなー。
「まあ、皇帝としての立場もあるし、俺に対してはそうしなきゃ俺が嫌がると思ったんじゃないのか?」
「マサトさん、王国でもかしこまった話し方するの嫌がっていましたもんね」
そうなんだよな~、やろうと思えばできないこともないんだけど、やっぱり適当に話してる方が気が楽だしな~。
「それに、リヒトは人質外交として各国の有力者の娘と結婚してるんだろ? 多分、誰かに肩入れしてると思われると面倒事が増えるんじゃないのか?」
「……面倒事」
「俺は家族に対する記憶がないからよくわからんが、リヒトが家族のことをないがしろにしてるってことはないんじゃないかな」
皇位を誰が継ぐかに気をもんでたり……多分ここに来たのも食堂を見たかったのもあるだろうけど、ミレーヌの様子を見に来たんじゃないのかな。
俺といれば皇帝としての立場じゃなくて、ただのリヒトとして接することができる……まあ、これは俺の想像、っていうか妄想かな。
「マサト兄ちゃん、みんなを連れてきたよ」
「よし、じゃあまずはパン生地作りからだな。十人いるから目標は一人四枚分だぞ」
リヒトの考えはリヒトにしかわからない、わからないものを考え続けるよりも手を動かした方が気がまぎれることもある。
だから、まあ俺がミレーヌのためにしてやれるのはいろんな料理を教えてやるくらいだな。
「つ……疲れました」
「だろうねえ、でも今回は料理人の天職持ちが多くて助かったよ」
王国にいた時はこれよりも少人数でもっと大量の料理を作ってたしな。
「でも、作れば作るほどに慣れていくというか……どうすれば上手にできるかが頭に入ってくる感じがしました」
「ああ、多分それは天職のおかげだろうな。ミレーヌは特に発酵職人で、パン生地は発酵を使うからボーナス的な何かがあったんじゃないか?」
王国のイーリスもパンに関する料理だけ異様に上手かったからな。
「……発酵……マサト様が見せてくれた醤油や味噌以外にもあるんですね」
「ピザに使ったチーズもそうだし、結構いろんなものがあるぞ」
何だっけ? 微生物を使って通常とは違う状態になること? 食用に耐えられたら発酵でだめだったら腐ったってことでいいのか?
「チーズ……ピザにのせていた黄色いやつですよね」
「聖王国でミルクと発酵に必要な植物が手に入ったから見よう見まねというか、聞きかじりの知識で作ってみたけど、まあなんとか形になったっていうレベルのな」
「これもわたくしが手伝うのですか?」
「手伝ってくれればこのピザももっと、美味くなると思うんだよな~。……ってわけで、ここにいるメンバーで先に試食をしておくか」
「いいのですか? 皇帝陛下よりも先に食べてしまって?」
「いやいや、これはきちんと出来てるかの確認だから」
そう、試食っていうのは料理のクォリティを確かめる行為で、つまみ食いとは違うからな。
「味付けはテリヤキチキンと、ベーコンと紫トマトの二種類だから、みんなそれぞれ食べてみてくれよ」
テリヤキチキンはキラーバードの肉を薄く切って軽く焼いてから照り焼きのたれに絡めてある。
こっちの方にはマヨネーズを回しかけてあるから、こってり系の味付けが好きな人が好みそうだな。
ベーコンのほうは基本的に生で食べても大丈夫なものしか乗せてないから、そのまま食べやすい大きさに切ってから焼いてある。
こっちは塩コショウだけの味付けでマヨネーズなんかを使うのはやめた。
バジルがあればもっとさっぱりできたけどないものは仕方がないから諦めた形だな。
「わたし、こっちの紫トマトを使った方が酸っぱくて好きです」
「僕はこっちのテリヤキチキンのほうがいいかな」
まあ、好みに差が出るよな。
「マサト様、ピザというのはこれ以外にも種類があるのですか?」
「俺が知ってるだけでも、魚介を乗せたシーフードとか果物を乗せたトロピカル、肉も牛肉や豚肉を使ったり、野菜もいろいろだな」
とにもかくにも材料が足りないからな、今回は在庫が多めの材料で作ったけど本当はもう少しバランスのいいトッピングにもしたかったんだよな。
「魚介?」
「海とか川にいる獣や魔獣のこと……でいいのか?」
「村にもいたけどマサト兄ちゃんが食用にできないって嘆いてたやつだよね」
そうなんだよな~、村の中には洗濯用に使ってた川があって、そこには小魚が泳いでたんだけど食用不可だったんだよな。
それからも領都とか王都で川や湖を覗いてみても魚がいないか食用にできないのしかいなくてな~。
「海……マサト様、帝国の北側には海があるのですよ」
「おおっ、マジ?」
魚介が手に入ったら、ピザと言わずにスープにしてもメインにしても幅がかなり広がるんだよな~。
それに醤油関係も大豆から醤油を作るよりも、魚から作る魚醤のほうが簡単に作れるしな。
「北の方はわたくしではなく、一番上のお兄様の管轄ですので詳しく聞いてみないと生き物が居るかどうかはわかりませんが……」
「いやいや、情報があるだけで助かるって。集めた獣の鑑定をするときにでもリヒトに他の食材探しもお願いしないとな」
「帝国としても食材になるものが増えるのはうれしいことですから、皇帝陛下も快く承諾してくれると思いますよ」
まあ、そうなら助かるんだけどな。
もし、集めるのがダメって言われるとここから離れて食材探しに行かないといけなくなるしな~。
「まあ、とりあえずこのピザは成功……みたいだな、みんないい笑顔で食ってくれてるし」
「マサトさん的にはどうだったんですか?」
「うーん、四十点くらい?」
やっぱりというかチーズの熟成が足りてないのと、そもそもピザ用に作ったチーズじゃないのもあるんだが、味に深みがないんだよな。
それに、ピザって言うと何種類かのチーズを混ぜて作るのがセオリーなんだけど、これは一種類だから結構味がべたってなってるんだよな。
「厳しいですね」
「まあ、ミレーヌが手伝ってくれたらもっとおいしくなるってことで」
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