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5章 帝国
08 リヒト
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「王国よりの使者から話には聞いていたが、よくぞ参られた」
「こちらこそ、お迎えをいただき恐縮です」
俺の目の前には玉座と呼ぶべきだろう、豪奢な椅子に座った男性が一人。
あらかじめミレーヌに教えてもらっているが、リヒト・イルデガルド、イルデガルド帝国の皇帝だ。
ミレーヌの話では、性格は冷徹で家族であっても贔屓はしない……常に帝国全土のことを考えて行動する人間……らしいのだが、正直こうして目の前にしてみた感じではそこまでではなさそうな……。
「くっくっくっく」
とかなんとか適当に話しながら考えていると、急にリヒト皇帝が笑い出した。
俺の付け焼刃の尊敬語や謙譲語が狂っていたのか?
「悪い悪い。……なあ、お互い堅苦しい話し方は苦手だろ? もっと胸襟を開いて話さねーか?」
「……えーと」
「言葉遣いが荒いくらいで不敬罪になんか問わねーから安心しろって」
なんとなくわかってはいたが、やはりこっちの方が素の人間か。
ミレーヌからは冷徹な人間と聞いていたが、王国の騎士くらいには鍛えてるガタイをしてるし、なんかイメージとあわなかったんだよな。
「……んー、まあそこまで言うなら堅苦しい言い回しはやめますかね」
とはいえ、流石に明らかに年上の人間に対してため口は聞けないから適当な丁寧語だけど。
「そうそう、あんまり堅苦しい話し方だと、頼み事もしづらいしよ」
「料理に関してですか?」
「そうなんだよ。王国のウィリアムが来た時によ、こう、自慢するんだよ。……陛下はご存じないかもしれませんがキラーバードの肉を揚げた料理は至高で噛めば噛むほど肉汁が出てきて幸せなんですよ……とかなんとか」
ああ~、ウィリアムさんが来たとは聞いてたけど、皇帝に対して結構不遜というか、飾らない会話ができるんだな。
「そもそも、食いもんが温かいっつーのもよくわからんし。……執事や宰相なんかに火魔法で野菜を焼いてみるかと聞けばお前さんが来るまで待った方がいいの一点張りでよ」
「料理なら今日からでも作らせてもらいますよ」
「本当かっ!」
初めに聞いていたよりも結構コロコロ感情が変わるというか、冷徹な印象は全くないな。
「ミレーヌを含めて兵士の中にも料理人の天職持ちがいたので、その人たちに手伝ってもらうのと、食材は提供してもらいますけど」
「ああ、そうそう。ミレーヌのやつ天職が料理人なんだよな。……どうよ、使いもんになりそうか?」
「実はミレーヌはこれまでの間、料理を作ってないので何とも言えないんですよね」
「はっ? ここまで数日は一緒だったんだろ? 皇女だから甘やかしたのか?」
「俺がそんな人間に見えますか?」
「見えねーな。お前さんは相手の立場で態度をコロコロ変えるようには見えん」
出会ってから全然時間も経ってないが、結構この人と俺の思考は似通っているんだよな。
相手の立場を考えて猫をかぶることはあっても思想の上では相手の立場なんか考えずに、自分のすべきことをしろって考えるタイプ。
「ミレーヌは皇位に興味がないそうで、料理人として目立てば皇帝に近づくのがいやらしいですよ。俺の料理を手伝う条件に、皇帝に好意に興味がないことを伝えてほしいと言われたし」
「リヒトでいいって、俺もマサトって呼ぶからよ。……それにしてもミレーヌがそんなことをね~」
「だから、ミレーヌの能力がどの程度のものかはわからないんですよね」
「は~、なるほどな。それにしても俺の子供たちはみんな皇帝に興味がないやつばっかりなんだよな」
「そうなのか?」
「俺が保護した国から嫁さんをもらいまくってたのを見てるからな。長男含めて男連中は二の舞になりたくないって皇位を否定するんだよ」
まあ、貴族に生まれたのなら血筋を残すのを考えなきゃいけないけど、皇帝という位に複数の嫁がついてくるならしり込みするのも仕方がないか。
「娘もな~、教育だけはきっちりやってるから国を傾けるようなやつはいないんだが、優秀な奴ほど力を隠したがるんだよな~」
「そもそも男児優先って聞いてたけど?」
「ああ、そりゃあ、保護した国のやつらからの突き上げが酷いからよ。女が皇帝になったら人質外交がしづらくなるだろ?」
まあ、男性は複数の女性を同時にはらませられるけど、女性はそうはいかないからな。
「周辺国への配慮からそうなってるのか」
「その辺も含めて一度宰相とかと話し合わねーとな」
結構、権力者っていうのも大変なんだな。
「まあ、とりあえずミレーヌも兵士も好きに使っていいからよ。帝城にいる主要人物たちの料理を頼むぜ」
「で、どうしてここに皇帝陛下がいるのですか!?」
皇帝……リヒトとの謁見が終わってから、帝城の人たちに料理を振舞うことになったが、どんな風に何を作るのかを知りたいっていうんで、結局リヒトは付いてきた。
まあ、食堂を作成する場所として帝城の中庭を借りることになったんだけど、食堂に危険がないかも知らなきゃならん、とか言われたら、まあ断れないよな。
「危険がないかの確認だよ、っつーかミレーヌこそ律儀にマサトのこと待ってたのな」
「陛下がマサト様の歓待をしろと命じたからじゃないですかっ」
「っつーか、なんで陛下なんて呼ぶんだよ。お父様って呼べよ」
「一度でもそのような呼び方をしたことがありますか? いや、ないですよね?」
「いや、確か三歳くらいの頃まではそう呼んでたぞ」
なんだろう……お互いに言葉の欧州って感じなんだけど、まあ仲が悪いって言うわけでもなさそうだから放っておいてもいいかな。
とりあえず、指定された場所に食堂を作成してしまおう。
ウィリアムさんが食堂の最大サイズを教えておいてくれたらしく、レベル4の食堂を作成するのに十分以上の場所が確保されてるな。
「マサト兄ちゃん、あれ放っておいていいの?」
「皇帝と皇女の口喧嘩とか割って入るほど無謀じゃないし、帝城の主要人物だけとはいえ大人数の料理を頼まれてるから構ってる暇はないぞー」
「何を作るんですか?」
「温かいっていうのと、肉を使ったっていうのがリヒトのリクエストなんだよな」
唐揚げとかステーキとかでもいいけど、道中で結構作ったから正直目新しさがないんだよな。
とはいっても食材自体もそう多くはないし。
「リヒト、帝城にある食材って何があるんだ?」
「あー、王国とそう変わらねえと思うが緑菜や紫トマトはあるぞ」
「肉は?」
「そっちは専門家の意見もなしに集められないとか言ってたから、サンプル程度の量しかねーな」
まあ、俺がつくまでは食べられるかどうかの判断も無理だから仕方がないか。
ってことは、使える肉はキラーバードになるな。
「うーん、カマンベールチーズなら熟成は足りてないけど出せるか……」
ピザにしようかな、本当はセミハードのゴーダチーズができてからのほうがいいんだけど、流石に熟成が足りないってレベルじゃないしな。
聖王国で発酵用の植物をリリーに渡されてから割とすぐに、チーズ作りを始めたからカマンベールチーズならなんとかギリギリ熟成できてるんだよな。
まあ、味を追求するならあと数週間は熟成しておきたかったけど。
「あのチーズを使ったお料理にするんですか?」
「ああー、マサト兄ちゃんが聖王国でせっせと作ってたやつ? 料理に使うには時間がかかるって言ってなかったっけ?」
「本当はもう少し待った方がいいんだろうけど、鑑定では食用に足るって出てるから大丈夫だと思うぞ」
「ほー、聖王国で作ってたってことは他に誰も食べたことが無いってことか?」
「そうなるな。リヒト、帝城の主要人物って言ってたけど、具体的には何人くらいなんだ?」
「帝室が俺を含めて三十一人、あとは宰相とか郡の主要なメンバーとかを合わせて大体六十人くらいか?」
カマンベールチーズもそこまで在庫があるわけじゃないけど、六十人前、俺たちの分も併せて七十人前くらいは用意するとして……まあ、足りるか。
「よし、じゃあピザを作るか」
「ピザ」
「パンの上にいろんな具材をのっけてチーズをのせて焼く料理だな。帝国の人たちは料理自体が初めてだから、手で持って食べられる方が楽だろ」
「今までの食事でもフォークやナイフは使ってたぞ」
「だろうけど、王国の人もそうだけど柔らかいものを切ってばっかりだったから、肉とかを切るのは不慣れだろ」
王国でも最初の内はステーキとか豚カツとか切って出してたもんな。
戦闘系の天職持ちの人たちは小器用に切ってたけど、やっぱり普段使ってる獲物と大きさが違うから不自然な感じにはなってたし。
「まあ、一番は俺が食べたいだけだけどな」
「マサト兄ちゃん、僕も僕も」
「わたしだって新しい料理なら気になりますよっ」
ってことで、帝国一発目の料理はピザだ!
「こちらこそ、お迎えをいただき恐縮です」
俺の目の前には玉座と呼ぶべきだろう、豪奢な椅子に座った男性が一人。
あらかじめミレーヌに教えてもらっているが、リヒト・イルデガルド、イルデガルド帝国の皇帝だ。
ミレーヌの話では、性格は冷徹で家族であっても贔屓はしない……常に帝国全土のことを考えて行動する人間……らしいのだが、正直こうして目の前にしてみた感じではそこまでではなさそうな……。
「くっくっくっく」
とかなんとか適当に話しながら考えていると、急にリヒト皇帝が笑い出した。
俺の付け焼刃の尊敬語や謙譲語が狂っていたのか?
「悪い悪い。……なあ、お互い堅苦しい話し方は苦手だろ? もっと胸襟を開いて話さねーか?」
「……えーと」
「言葉遣いが荒いくらいで不敬罪になんか問わねーから安心しろって」
なんとなくわかってはいたが、やはりこっちの方が素の人間か。
ミレーヌからは冷徹な人間と聞いていたが、王国の騎士くらいには鍛えてるガタイをしてるし、なんかイメージとあわなかったんだよな。
「……んー、まあそこまで言うなら堅苦しい言い回しはやめますかね」
とはいえ、流石に明らかに年上の人間に対してため口は聞けないから適当な丁寧語だけど。
「そうそう、あんまり堅苦しい話し方だと、頼み事もしづらいしよ」
「料理に関してですか?」
「そうなんだよ。王国のウィリアムが来た時によ、こう、自慢するんだよ。……陛下はご存じないかもしれませんがキラーバードの肉を揚げた料理は至高で噛めば噛むほど肉汁が出てきて幸せなんですよ……とかなんとか」
ああ~、ウィリアムさんが来たとは聞いてたけど、皇帝に対して結構不遜というか、飾らない会話ができるんだな。
「そもそも、食いもんが温かいっつーのもよくわからんし。……執事や宰相なんかに火魔法で野菜を焼いてみるかと聞けばお前さんが来るまで待った方がいいの一点張りでよ」
「料理なら今日からでも作らせてもらいますよ」
「本当かっ!」
初めに聞いていたよりも結構コロコロ感情が変わるというか、冷徹な印象は全くないな。
「ミレーヌを含めて兵士の中にも料理人の天職持ちがいたので、その人たちに手伝ってもらうのと、食材は提供してもらいますけど」
「ああ、そうそう。ミレーヌのやつ天職が料理人なんだよな。……どうよ、使いもんになりそうか?」
「実はミレーヌはこれまでの間、料理を作ってないので何とも言えないんですよね」
「はっ? ここまで数日は一緒だったんだろ? 皇女だから甘やかしたのか?」
「俺がそんな人間に見えますか?」
「見えねーな。お前さんは相手の立場で態度をコロコロ変えるようには見えん」
出会ってから全然時間も経ってないが、結構この人と俺の思考は似通っているんだよな。
相手の立場を考えて猫をかぶることはあっても思想の上では相手の立場なんか考えずに、自分のすべきことをしろって考えるタイプ。
「ミレーヌは皇位に興味がないそうで、料理人として目立てば皇帝に近づくのがいやらしいですよ。俺の料理を手伝う条件に、皇帝に好意に興味がないことを伝えてほしいと言われたし」
「リヒトでいいって、俺もマサトって呼ぶからよ。……それにしてもミレーヌがそんなことをね~」
「だから、ミレーヌの能力がどの程度のものかはわからないんですよね」
「は~、なるほどな。それにしても俺の子供たちはみんな皇帝に興味がないやつばっかりなんだよな」
「そうなのか?」
「俺が保護した国から嫁さんをもらいまくってたのを見てるからな。長男含めて男連中は二の舞になりたくないって皇位を否定するんだよ」
まあ、貴族に生まれたのなら血筋を残すのを考えなきゃいけないけど、皇帝という位に複数の嫁がついてくるならしり込みするのも仕方がないか。
「娘もな~、教育だけはきっちりやってるから国を傾けるようなやつはいないんだが、優秀な奴ほど力を隠したがるんだよな~」
「そもそも男児優先って聞いてたけど?」
「ああ、そりゃあ、保護した国のやつらからの突き上げが酷いからよ。女が皇帝になったら人質外交がしづらくなるだろ?」
まあ、男性は複数の女性を同時にはらませられるけど、女性はそうはいかないからな。
「周辺国への配慮からそうなってるのか」
「その辺も含めて一度宰相とかと話し合わねーとな」
結構、権力者っていうのも大変なんだな。
「まあ、とりあえずミレーヌも兵士も好きに使っていいからよ。帝城にいる主要人物たちの料理を頼むぜ」
「で、どうしてここに皇帝陛下がいるのですか!?」
皇帝……リヒトとの謁見が終わってから、帝城の人たちに料理を振舞うことになったが、どんな風に何を作るのかを知りたいっていうんで、結局リヒトは付いてきた。
まあ、食堂を作成する場所として帝城の中庭を借りることになったんだけど、食堂に危険がないかも知らなきゃならん、とか言われたら、まあ断れないよな。
「危険がないかの確認だよ、っつーかミレーヌこそ律儀にマサトのこと待ってたのな」
「陛下がマサト様の歓待をしろと命じたからじゃないですかっ」
「っつーか、なんで陛下なんて呼ぶんだよ。お父様って呼べよ」
「一度でもそのような呼び方をしたことがありますか? いや、ないですよね?」
「いや、確か三歳くらいの頃まではそう呼んでたぞ」
なんだろう……お互いに言葉の欧州って感じなんだけど、まあ仲が悪いって言うわけでもなさそうだから放っておいてもいいかな。
とりあえず、指定された場所に食堂を作成してしまおう。
ウィリアムさんが食堂の最大サイズを教えておいてくれたらしく、レベル4の食堂を作成するのに十分以上の場所が確保されてるな。
「マサト兄ちゃん、あれ放っておいていいの?」
「皇帝と皇女の口喧嘩とか割って入るほど無謀じゃないし、帝城の主要人物だけとはいえ大人数の料理を頼まれてるから構ってる暇はないぞー」
「何を作るんですか?」
「温かいっていうのと、肉を使ったっていうのがリヒトのリクエストなんだよな」
唐揚げとかステーキとかでもいいけど、道中で結構作ったから正直目新しさがないんだよな。
とはいっても食材自体もそう多くはないし。
「リヒト、帝城にある食材って何があるんだ?」
「あー、王国とそう変わらねえと思うが緑菜や紫トマトはあるぞ」
「肉は?」
「そっちは専門家の意見もなしに集められないとか言ってたから、サンプル程度の量しかねーな」
まあ、俺がつくまでは食べられるかどうかの判断も無理だから仕方がないか。
ってことは、使える肉はキラーバードになるな。
「うーん、カマンベールチーズなら熟成は足りてないけど出せるか……」
ピザにしようかな、本当はセミハードのゴーダチーズができてからのほうがいいんだけど、流石に熟成が足りないってレベルじゃないしな。
聖王国で発酵用の植物をリリーに渡されてから割とすぐに、チーズ作りを始めたからカマンベールチーズならなんとかギリギリ熟成できてるんだよな。
まあ、味を追求するならあと数週間は熟成しておきたかったけど。
「あのチーズを使ったお料理にするんですか?」
「ああー、マサト兄ちゃんが聖王国でせっせと作ってたやつ? 料理に使うには時間がかかるって言ってなかったっけ?」
「本当はもう少し待った方がいいんだろうけど、鑑定では食用に足るって出てるから大丈夫だと思うぞ」
「ほー、聖王国で作ってたってことは他に誰も食べたことが無いってことか?」
「そうなるな。リヒト、帝城の主要人物って言ってたけど、具体的には何人くらいなんだ?」
「帝室が俺を含めて三十一人、あとは宰相とか郡の主要なメンバーとかを合わせて大体六十人くらいか?」
カマンベールチーズもそこまで在庫があるわけじゃないけど、六十人前、俺たちの分も併せて七十人前くらいは用意するとして……まあ、足りるか。
「よし、じゃあピザを作るか」
「ピザ」
「パンの上にいろんな具材をのっけてチーズをのせて焼く料理だな。帝国の人たちは料理自体が初めてだから、手で持って食べられる方が楽だろ」
「今までの食事でもフォークやナイフは使ってたぞ」
「だろうけど、王国の人もそうだけど柔らかいものを切ってばっかりだったから、肉とかを切るのは不慣れだろ」
王国でも最初の内はステーキとか豚カツとか切って出してたもんな。
戦闘系の天職持ちの人たちは小器用に切ってたけど、やっぱり普段使ってる獲物と大きさが違うから不自然な感じにはなってたし。
「まあ、一番は俺が食べたいだけだけどな」
「マサト兄ちゃん、僕も僕も」
「わたしだって新しい料理なら気になりますよっ」
ってことで、帝国一発目の料理はピザだ!
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