113 / 140
閑話
113 辺境伯会議・後編
しおりを挟む
「おおっ! このウイスキーボンボンってのは単純にチョコレートの中に酒が入ってるだけかと思ったら、妙に美味いな!」
「一応、今回持ってきたのは陛下が好きな種類にしたから、お酒自体が良いのかも……ま、私は未成年なので酒の良し悪しは分からんが」
「ちょっと! カレーもウチの方で出回っているのと全然味が違うんだけどっ! こんなに鮮烈じゃないわよ!」
「ああ、唐辛子……虫除けの実と呼ばれていたもので辛味を足して、香辛料の組み合わせも考えたものなので」
「ふむ、ウイスキーボンボンはともかく、カレーは儂には辛すぎかの」
「僕はカレーは好きだけどね。ウイスキーボンボンは中身をワインにしてほしいかな~」
やはりというかなんというか、ノルベルト北東辺境伯とクラウディア南辺境伯の食いつきが良いな。
北東辺境伯は雪深いというか、敵国が攻めてくるのが常に雪に覆われている山なので、ウイスキーやチョコレートなどの遭難時に有用な非常食には興味があるのだろう。
南辺境伯は南大陸から香辛料や、それを使った料理が流れてくるので、カレーも知っていたらしい。
ま、南大陸のカレーは香辛料を使っただけの薬膳スープのようなもので、大して美味くないけどな。
「味は分かってもらったと思うんで、ここからは商談といきましょうか」
「ほう? 商談?」
「ノルベルトはウイスキーボンボン、クラウディアはカレーに興味がある」
「ああ、そうだな」
「興味っていうか、ウチのカレーとの違いが気になるわね」
「というわけで、ノルベルト……というか北東辺境伯領にはウイスキーボンボンの優先販売権を、クラウディアにはカレーのレシピをプレゼントしたい」
俺が提案した瞬間は「何言ってるんだこいつ」みたいな顔をしていた2人だが、徐々に事態を飲み込めたのか喜色を浮かべる。
「マックス! 優先販売権ということは、ウイスキーボンボンを欲しいだけ仕入れて良いってことか!?」
「こっちの生産力もあるから無限にとはいかないけど、概ねそうだね」
「……陛下が怒らないか?」
「そっちは根回し済み。卸値は10個入りでこのくらいだから、考えて発注してね」
「マックス、カレーのレシピって、このカレーよね?」
「そう。だけど、タダで渡すわけじゃないよ」
「……わかってるわよ。何が望み?」
「南辺境伯領での香辛料の増産」
「それだけ?」
「ゲルハルディ領じゃ、香辛料の栽培が上手くいかなくてね。こっちが南大陸からの侵略を撃退したことで、そっちを攻めてる国が縮小したんでしょ?」
俺がバルディ領で撃退した南大陸の侵略者は、南辺境伯領からヴァイセンベルク王国を攻めていた国と同じだったらしく、勝手に海上から侵略を行ったことで南大陸から総スカンを食らったらしい。
ヴァイセンベルク王国にとって交易品が重要なのと同じように、南大陸でもヴァイセンベルク王国からの交易品は重要。
陸路で攻めるならともかく、海路を使って攻め込むとこれからの交易に差し障るということで、周辺国から攻め込まれたらしい。
しかも、俺が捕虜にしたのはその国の第二王子だったらしく、責任として王家の交代、領土の縮小が行われ、南辺境伯領と陸路で接することもできなくなったらしい。
「よく知ってるわね。ま、こっちも友好国が隣国になったから内政を充実させようとしてたとこだからね。それくらいで、レシピが貰えるならいいわよ」
「じゃ、ウチはゲルハルディ周辺の分を賄うから、それ以外は南辺境伯領の担当ってことで」
「え!? 多くない!?」
「多くない多くない。南辺境伯領のほうが南大陸に気候が似てるんだから、育てやすいはずだって」
ま、根拠はないがな。
とはいえ、香辛料は1年を通してある程度の気温がないと育ちにくかったはずだから、1年中暑いというか、雪の降らない南辺境伯領の方が適してるだろう。
「儂らは蚊帳の外じゃの」
「まあ、仕方がないっすよ」
「2人にも一応あるよ。じつはウイスキーボンボンはエーリッヒが要望してたように、ウイスキー以外でも作れるんだよね」
「ほう」
「えっ! じゃあ、ワイン入り……とか要望できるってこと?」
「そうそう。で、陛下は王領のウイスキーで頼んできたけど、これからお酒の消費量が跳ね上がると思うんだよね」
「ふむ、儂の北西辺境伯領も、エーリッヒの治める西辺境伯領もワインやウイスキーが有名」
「ってことは、今の内からワインやウイスキーの生産量を上げておけば」
「良いのが出来たら、ウイスキーボンボンに使うし、そうでなくても減った分の補填になれば収入が増えるんじゃない?」
「ほうほう」
「それは良いこと聞いたっすね」
「まあ、チョコレートは南大陸からの輸入に頼ってるから、ウイスキーボンボンの生産量には限界があるけどね。それもクラウディアが南辺境伯領で栽培を成功させてくれれば」
「おっ、クラウディアの責任が重くなったな」
「ちょっと、マックス。ゲルハルディ領でも生産しなさいよ!」
「いや~、試してみたけど、全然無理で。ま、栽培が無理でも南辺境伯領の方がカカオの輸入はしやすいでしょ?」
「む、確かにカカオは内陸からの輸入だから、ウチの方が交易しやすいけど」
とりあえず、最初の辺境伯会議はうまくいったかな。
北東辺境伯との商談はフィッシャー商会とアンドレ商会に任せるとして、南辺境伯領に向かわせる香辛料の農業指南者も選定しておかないとな。
「一応、今回持ってきたのは陛下が好きな種類にしたから、お酒自体が良いのかも……ま、私は未成年なので酒の良し悪しは分からんが」
「ちょっと! カレーもウチの方で出回っているのと全然味が違うんだけどっ! こんなに鮮烈じゃないわよ!」
「ああ、唐辛子……虫除けの実と呼ばれていたもので辛味を足して、香辛料の組み合わせも考えたものなので」
「ふむ、ウイスキーボンボンはともかく、カレーは儂には辛すぎかの」
「僕はカレーは好きだけどね。ウイスキーボンボンは中身をワインにしてほしいかな~」
やはりというかなんというか、ノルベルト北東辺境伯とクラウディア南辺境伯の食いつきが良いな。
北東辺境伯は雪深いというか、敵国が攻めてくるのが常に雪に覆われている山なので、ウイスキーやチョコレートなどの遭難時に有用な非常食には興味があるのだろう。
南辺境伯は南大陸から香辛料や、それを使った料理が流れてくるので、カレーも知っていたらしい。
ま、南大陸のカレーは香辛料を使っただけの薬膳スープのようなもので、大して美味くないけどな。
「味は分かってもらったと思うんで、ここからは商談といきましょうか」
「ほう? 商談?」
「ノルベルトはウイスキーボンボン、クラウディアはカレーに興味がある」
「ああ、そうだな」
「興味っていうか、ウチのカレーとの違いが気になるわね」
「というわけで、ノルベルト……というか北東辺境伯領にはウイスキーボンボンの優先販売権を、クラウディアにはカレーのレシピをプレゼントしたい」
俺が提案した瞬間は「何言ってるんだこいつ」みたいな顔をしていた2人だが、徐々に事態を飲み込めたのか喜色を浮かべる。
「マックス! 優先販売権ということは、ウイスキーボンボンを欲しいだけ仕入れて良いってことか!?」
「こっちの生産力もあるから無限にとはいかないけど、概ねそうだね」
「……陛下が怒らないか?」
「そっちは根回し済み。卸値は10個入りでこのくらいだから、考えて発注してね」
「マックス、カレーのレシピって、このカレーよね?」
「そう。だけど、タダで渡すわけじゃないよ」
「……わかってるわよ。何が望み?」
「南辺境伯領での香辛料の増産」
「それだけ?」
「ゲルハルディ領じゃ、香辛料の栽培が上手くいかなくてね。こっちが南大陸からの侵略を撃退したことで、そっちを攻めてる国が縮小したんでしょ?」
俺がバルディ領で撃退した南大陸の侵略者は、南辺境伯領からヴァイセンベルク王国を攻めていた国と同じだったらしく、勝手に海上から侵略を行ったことで南大陸から総スカンを食らったらしい。
ヴァイセンベルク王国にとって交易品が重要なのと同じように、南大陸でもヴァイセンベルク王国からの交易品は重要。
陸路で攻めるならともかく、海路を使って攻め込むとこれからの交易に差し障るということで、周辺国から攻め込まれたらしい。
しかも、俺が捕虜にしたのはその国の第二王子だったらしく、責任として王家の交代、領土の縮小が行われ、南辺境伯領と陸路で接することもできなくなったらしい。
「よく知ってるわね。ま、こっちも友好国が隣国になったから内政を充実させようとしてたとこだからね。それくらいで、レシピが貰えるならいいわよ」
「じゃ、ウチはゲルハルディ周辺の分を賄うから、それ以外は南辺境伯領の担当ってことで」
「え!? 多くない!?」
「多くない多くない。南辺境伯領のほうが南大陸に気候が似てるんだから、育てやすいはずだって」
ま、根拠はないがな。
とはいえ、香辛料は1年を通してある程度の気温がないと育ちにくかったはずだから、1年中暑いというか、雪の降らない南辺境伯領の方が適してるだろう。
「儂らは蚊帳の外じゃの」
「まあ、仕方がないっすよ」
「2人にも一応あるよ。じつはウイスキーボンボンはエーリッヒが要望してたように、ウイスキー以外でも作れるんだよね」
「ほう」
「えっ! じゃあ、ワイン入り……とか要望できるってこと?」
「そうそう。で、陛下は王領のウイスキーで頼んできたけど、これからお酒の消費量が跳ね上がると思うんだよね」
「ふむ、儂の北西辺境伯領も、エーリッヒの治める西辺境伯領もワインやウイスキーが有名」
「ってことは、今の内からワインやウイスキーの生産量を上げておけば」
「良いのが出来たら、ウイスキーボンボンに使うし、そうでなくても減った分の補填になれば収入が増えるんじゃない?」
「ほうほう」
「それは良いこと聞いたっすね」
「まあ、チョコレートは南大陸からの輸入に頼ってるから、ウイスキーボンボンの生産量には限界があるけどね。それもクラウディアが南辺境伯領で栽培を成功させてくれれば」
「おっ、クラウディアの責任が重くなったな」
「ちょっと、マックス。ゲルハルディ領でも生産しなさいよ!」
「いや~、試してみたけど、全然無理で。ま、栽培が無理でも南辺境伯領の方がカカオの輸入はしやすいでしょ?」
「む、確かにカカオは内陸からの輸入だから、ウチの方が交易しやすいけど」
とりあえず、最初の辺境伯会議はうまくいったかな。
北東辺境伯との商談はフィッシャー商会とアンドレ商会に任せるとして、南辺境伯領に向かわせる香辛料の農業指南者も選定しておかないとな。
112
あなたにおすすめの小説
神々に見捨てられし者、自力で最強へ
九頭七尾
ファンタジー
三大貴族の一角、アルベール家の長子として生まれた少年、ライズ。だが「祝福の儀」で何の天職も授かることができなかった彼は、『神々に見捨てられた者』と蔑まれ、一族を追放されてしまう。
「天職なし。最高じゃないか」
しかし彼は逆にこの状況を喜んだ。というのも、実はこの世界は、前世で彼がやり込んでいたゲーム【グランドワールド】にそっくりだったのだ。
天職を取得せずにゲームを始める「超ハードモード」こそが最強になれる道だと知るライズは、前世の知識を活かして成り上がっていく。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!
えながゆうき
ファンタジー
妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!
剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
俺に王太子の側近なんて無理です!
クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。
そう、ここは剣と魔法の世界!
友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。
ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。
ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします
未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢
十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう
好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ
傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する
今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる