異世界に転生したので錬金術師としてダラダラ過ごします

高坂ナツキ

文字の大きさ
2 / 12

002 異世界転生……失敗?

しおりを挟む
 真っ白な空間から追い出されたかと思えば、そこは既に異世界だった。
 足元は石畳が並び、目の前には土を均したかのような大きな道が見える。
 石畳に沿って並ぶ建物はレンガや石で作られているようで、明らかに僕が住んでいた場所とは街並みも建築様式も違うのが見て取れる。

 もちろん、異世界だと断定できるのはそこを歩く人々からも見て取れて、金や赤、あるいはピンクや緑など、元の世界では早々お目にかかれない髪色をした人々が歩いている。
 道行く人の中には剣などの武器を下げている人や、鎧を着ている人もいて、否が応でも元の世界とは別の……まさに異世界にやってきたことを実感させる。

「しかし、この格好は目立たないか?」

 自分の体を見下ろせば、出社前だったのでスーツ姿に手提げのカバン、道を歩いている人たちは似たような服装の人はおらず、明らかに自分が異質であることが理解できる。

「せめて上着は、カバンの中に入れておくか」

 そのほかの持ち物も確認すると、腕時計は動いているが、スマホは完全に機能が停止していることがわかる。
 おそらくスマホはこの世界ではオーバーテクノロジー過ぎるので、神様の判断で機能しないようにされているのだろう。
 あとは財布に入れていた現金が見たこともない通貨に換えられている……紙幣は無くなり、入っているのは銅や銀、金で出来ているであろう硬貨のみ。

「現地通貨が手に入るのは助かりますけど、レートも教えてほしかったなぁ」

 とりあえず、神様が教えてくれたギルド? の場所も聞きたいし、路上にある屋台で買い物がてら情報収集をしてみようか。
 さすがに出社前だったから、カバンの中には昼に食べようと思っていたサンドイッチと紅茶くらいしか入ってないし……って、こっちもペットボトルじゃなくて革袋、フィルム包装じゃなくて紙で包まれているものに変わっている。
 ペットボトルもフィルム包装も、この世界にはないってことね。

「すみません、こちらの果物をいただけますか?」

「なんだい、バカ丁寧だね。それだったら、大銅貨3枚だよ」

「こちらで大丈夫ですか?」

 財布の中にあった銅で出来ているであろう硬貨のうち、大きい方を3枚おばちゃんに見せる。

「ああ、ピッタリだね」

「ついでにお聞きしたいのですが、この辺にギルドはありますか? 田舎から出てきたばかりで、地理に疎くて」

「なんだいなんだい、困りごとかい? この道をまっすぐ進んで盾と剣の彫り物がされてる看板の建物にあるよ」

 果物を買ったから、というわけでもないだろうが、おばちゃんは愛想よくギルドの場所を教えてくれる。
 だんだんと、異世界へとやってきた緊張感も解けてきたのか、周囲の風景も、よく目に入り始める。
 さっきは、つい金額を聞いてしまったが、露店の屋台では商品名と価格を掲げているところも多く、この世界の識字率の高さを実感する。

 それに先ほどのおばちゃんとの会話、僕は日本語を話したつもりだったけれど、齟齬もなく会話もできたし、周囲にある文字も普通に読める。
 この世界の、あるいはこの国の標準語が日本語なのかと思ったけれど、よくよく目を凝らせば自分の知らない言語であることもわかり……うーん、神様が不便のないようにしてくれたのかな?

 そんな風に周囲をきょろきょろ観察しながら、しばらく歩くとおばちゃんが言っていたように盾と剣が彫られている看板を出している建物が見えてきた。
 周囲の建物と一緒で石造りの建物で、中の雰囲気はうかがえない……うーん、入りづらいなぁ。
 とはいえ、うだうだ言っていても泊るところや、この世界の知識が手に入るわけじゃないし、行動するしかないね。

「すみません……」

 断りの言葉を口にしつつ、扉を開けてみたのだけど、一気に後悔の念が押し寄せてきた。
 扉の向こうに広がっていたのは場末の酒場のような雰囲気で、そこには何人かの男がテーブルを囲んでタバコを吸いつつ、酒を飲んでいる風景だった。
 いかにも冒険者、という雰囲気ではあるものの、タバコも吸わなければ、酒もそこまで飲まない僕にとっては歓迎できるような雰囲気ではない。

「あっ!? なんだ、てめえ!」

 一番近くに座っていたスキンヘッドの男性が、唐突に怒声を上げる。

「ああ、依頼人か? だったら、こっちに来い」

 その男性の向こう側、カウンターに座っていた男性が、こちらに声をかける。いきなり怒鳴りつけてきた、スキンヘッドの男性は酔っぱらっているのか、僕がびくつく姿を見て大笑いをしている。
 ……うーん、神様に言われて来たところだけれど、第一印象は最悪だし、本当にここで世話になるがいいのだろうか?

「すみません、田舎から出てきたばかりで、仕事や住むところを探しているんですが」

「ああ、入会希望者か。この水晶に手を載せろ」

 カウンターの男性は酒を飲んでいる他の人たちよりはとっつきやすいが、明らかに面倒だという姿勢を崩さない。
 とはいえ、これがこの世界の普通である可能性もあるし、言われるがままに水晶に手を載せる。

「……ええと。……はっ! おいおい、こいつぁ、お笑い草だ。ダブルマイナーのゴミがウチに入りたいってよ!」

 何やら水晶をのぞき込んでいた男性だが、唐突に顔色が変わり、建物内にいる人全員に聞こえるような大声を出し始める……ってか、ダブルマイナーってなんだ?

「おいおい、ゴミのくせに二つ星ギルドである、ウチに入ろうってのか!?」

「ってか、天職は何だよ? あ? 錬金術師と付与魔術師? 要らねー、ゴミだろゴミ!」

 唐突に割って入ってきた酔っ払いたちが、何かわめいているが、僕には何が何だか。
 神様……ギルドに行けって、全然うまくいかないんですが。

「おら、役立たず! てめえみたいのは、ウチには要らねえんだよ!」

「錬金術師なんてゴミ天職を捨ててから、来な!」

 神様への恨み言を考えていると、唐突に酔っ払いたちに扉の外へと投げ飛ばされる。
 錬金術師だということで、蔑まれていることはわかるが、ここまで言われるのかまったくわからない。

「ぐっ!」

 投げ飛ばされるなんて前の世界では未経験、それに背中を強く打ったのか、まったく動けない……そうか、人って投げ飛ばされると動けなくなるもんなんだなぁ。

「そらよ! 二度と来るんじゃねえぞ!」

 建物の前で痛みをこらえて動けずにいた僕に対して、酔っ払いたちはどこからか水入りの樽を持ち出して、僕にぶっかけてきた。
 あまりの仕打ちに怒りよりも呆然としてしまう……どうして、こうなったんだ?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

魔法が使えない落ちこぼれ貴族の三男は、天才錬金術師のたまごでした

茜カナコ
ファンタジー
魔法使いよりも錬金術士の方が少ない世界。 貴族は生まれつき魔力を持っていることが多いが錬金術を使えるものは、ほとんどいない。 母も魔力が弱く、父から「できそこないの妻」と馬鹿にされ、こき使われている。 バレット男爵家の三男として生まれた僕は、魔力がなく、家でおちこぼれとしてぞんざいに扱われている。 しかし、僕には錬金術の才能があることに気づき、この家を出ると決めた。

二度目の勇者は救わない

銀猫
ファンタジー
 異世界に呼び出された勇者星谷瞬は死闘の果てに世界を救い、召喚した王国に裏切られ殺された。  しかし、殺されたはずの殺されたはずの星谷瞬は、何故か元の世界の自室で目が覚める。  それから一年。人を信じられなくなり、クラスから浮いていた瞬はクラスメイトごと異世界に飛ばされる。飛ばされた先は、かつて瞬が救った200年後の世界だった。  復讐相手もいない世界で思わぬ二度目を得た瞬は、この世界で何を見て何を成すのか?  昔なろうで投稿していたものになります。

過労死した家具職人、異世界で快適な寝具を作ったら辺境の村が要塞になりました ~もう働きたくないので、面倒ごとは自動迎撃ベッドにお任せします

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
ブラック工房で働き詰め、最後は作りかけの椅子の上で息絶えた家具職人の木崎巧(キザキ・タクミ)。 目覚めると、そこは木材資源だけは豊富な異世界の貧しい開拓村だった。 タクミとして新たな生を得た彼は、もう二度とあんな働き方はしないと固く誓う。 最優先事項は、自分のための快適な寝具の確保。 前世の知識とこの世界の素材(魔石や魔物の皮)を組み合わせ、最高のベッド作りを開始する。 しかし、完成したのは侵入者を感知して自動で拘束する、とんでもない性能を持つ魔法のベッドだった。 そのベッドが村をゴブリンの襲撃から守ったことで、彼の作る家具は「快適防衛家具」として注目を集め始める。 本人はあくまで安眠第一でスローライフを望むだけなのに、貴族や商人から面倒な依頼が舞い込み始め、村はいつの間にか彼の家具によって難攻不落の要塞へと姿を変えていく。

『ゴミ溜め場の聖女』と蔑まれた浄化師の私、一族に使い潰されかけたので前世の知識で独立します

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
呪いを浄化する『浄化師』の一族に生まれたセレン。 しかし、微弱な魔力しか持たない彼女は『ゴミ溜め場の聖女』と蔑まれ、命を削る危険な呪具の浄化ばかりを押し付けられる日々を送っていた。 ある日、一族の次期当主である兄に、身代わりとして死の呪いがかかった遺物の浄化を強要される。 死を覚悟した瞬間、セレンは前世の記憶を思い出す。――自分が、歴史的な遺物を修復する『文化財修復師』だったことを。 「これは、呪いじゃない。……経年劣化による、素材の悲鳴だ」 化学知識と修復技術。前世のスキルを応用し、奇跡的に生還したセレンは、搾取されるだけの人生に別れを告げる。 これは、ガラクタ同然の呪具に秘められた真の価値を見出す少女が、自らの工房を立ち上げ、やがて国中の誰もが無視できない存在へと成り上がっていく物語。

足手まといだと言われて冒険者パーティから追放されたのに、なぜか元メンバーが追いかけてきました

ちくわ食べます
ファンタジー
「ユウト。正直にいうけど、最近のあなたは足手まといになっている。もう、ここらへんが限界だと思う」 優秀なアタッカー、メイジ、タンクの3人に囲まれていたヒーラーのユウトは、実力不足を理由に冒険者パーティを追放されてしまう。 ――僕には才能がなかった。 打ちひしがれ、故郷の実家へと帰省を決意したユウトを待ち受けていたのは、彼の知らない真実だった。

社畜生活に疲れた俺が転生先で拾ったのは喋る古代ゴーレムだった。のんびり修理屋を開店したら、なぜか伝説の職人だと勘違いされている件

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
過労の末に命を落とした俺、相田巧(アイダタクミ)が目を覚ますと、そこは剣と魔法の異世界だった。神様から授かったスキルは「分解」と「再構築」という、戦闘には向かない地味なもの。 もうあくせく働くのはごめんだと、静かな生活を求めて森を彷徨っていると、一体の小さなゴーレムを発見する。古代文明の遺物らしいそのゴーレムは、俺のスキルで修理すると「マスター」と喋りだした。 俺はタマと名付けたゴーレムと一緒に、街で小さな修理屋を開業する。壊れた農具から始まり、動かなくなった魔道具まで、スキルを駆使して直していく日々。ただのんびり暮らしたいだけなのに、俺の仕事が完璧すぎるせいで、いつの間にか「どんなものでも蘇らせる伝説の職人」だと噂が広まってしまい……。

神の加護を受けて異世界に

モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。 その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。 そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。

薬師だからってポイ捨てされました!2 ~俺って実は付与も出来るんだよね~

黄色いひよこ
ファンタジー
薬師のロベルト=グリモワール=シルベスタは偉大な師匠(神様)とその脇侍の教えを胸に自領を治める為の経済学を学ぶ為に隣国に留学。逸れを終えて国(自領)に戻ろうとした所、異世界の『勇者召喚』に巻き込まれ、周りにいた数人の男女と共に、何処とも知れない世界に落とされた。 『異世界勇者巻き込まれ召喚』から数年、帰る事違わず、ロベルトはこの異世界で逞しく生きていた。 勇者?そんな物ロベルトには関係無い。 魔王が居るようだが、倒されているのかいないのか、解らずとも世界はあいも変わらず巡っている。 とんでもなく普通じゃないお師匠様とその脇侍に薬師の業と、魔術とその他諸々とを仕込まれた弟子ロベルトの、危難、災難、巻き込まれ痛快世直し異世界道中。 はてさて一体どうなるの? と、言う話のパート2、ここに開幕! 【ご注意】 ・このお話はロベルトの一人称で進行していきますので、セリフよりト書きと言う名のロベルトの呟きと、突っ込みだけで進行します。文字がびっしりなので、スカスカな文字列を期待している方は、回れ右を推奨します。 なるべく読みやすいようには致しますが。 ・この物語には短編の1が存在します。出来れば其方を読んで頂き、作風が大丈夫でしたら此方へ来ていただければ幸いです。 勿論、此方だけでも読むに当たっての不都合は御座いません。 ・所々挿し絵画像が入ります。 大丈夫でしたらそのままお進みください。

処理中です...