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008 錬金術師協会
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師匠に歓迎会を開いてもらった翌日、僕はお酒のダメージはなかったけれど、師匠は二日酔いになっているらしく、頭を抱えていた。
「師匠、お水です。具合が悪いようなら寝ていたほうが良いのでは?」
前の世界なら、こういう時はしじみスープでも作るのだが、この世界ではしじみがあるのかどうか、それ以前に同じ成分があるのかどうかもわからない。
「ありがと。……でも、協会の方に連絡も入れないとだし、ポーション飲むわ」
「ポーション?」
「ええ、そっちの棚に入っている緑の瓶を取ってちょうだい」
師匠が指さす先には薬品棚があり、そこには色とりどりの瓶が飾られている。その中から、指定された緑色の瓶を取りだし、師匠へと渡す。
「ポーションって、あのポーションですか?」
「どの、かはわからないけれど。ポーションは錬金術師が作る薬の一種で、稀人様からは万能薬とも呼ばれているわ。二日酔いなんかの軽い症状なら、この下級ポーションで治るわ」
そう言うと、師匠はグイっと緑色の瓶を飲み干す……すると、見る見るうちに顔色が良くなり、頭を押さえていた手も離せるようになった。
「ポーション……僕にも作れますか?」
「カズはまだ無理だね。ポーションを作るためには、抽出と合成のスキルが必要になるから。しばらくは、鉄鉱石の分解と鉄の再構成が仕事だよ」
「なるほど……わかりました」
確かに薬品を作るためには鉄鉱石のように分解ではなく、必要な成分だけを抜き出す抽出が必要なるだろう。
「で、今日はカズを錬金術師協会に連れて行って、登録をするから」
「協会……ギルドとは違うんですね」
「簡単に言うと、ギルドを取りまとめているところ……かな? 個人の依頼はギルドに直接持ち込まれるけど、ギルド同士の依頼は協会を通して行うのが普通。だから、冒険者ギルドの狼藉についても報告しなきゃなんだよね」
ああ、僕を助けた時のことか。そういえば、師匠は簡単に冒険者ギルドにポーションを卸さないと宣言していたけれど、大丈夫なのだろうか?
「協会から怒られたりはしないんですか?」
「ん? ああ、冒険者ギルドのことね。大丈夫、大丈夫。あそこは、錬金術師ギルドへの対応も悪くて、誰も受け持ちたがらないから、うちみたいな弱小ギルドに依頼されてたからね」
師匠は軽く言っているが、目は笑っていない。自分で自分のギルドを弱小だというのは、葛藤があるんだろうなぁ。
「僕をギルドに入れたことについては、何か言われないんですか?」
自分でいうのもなんだが、どこから来たのかも定かではない人間を雇うなんて、普通の人なら怪しむだろう。
異世界人は、この世界では稀人と呼ばれて認知されているようだが、それを保証する何かがあるわけでもないのだから。
「ああ、それは大丈夫。稀人様は幸運の証だから。各国では稀人様を見つけた際には、保護するように法律が整っているし、稀人様の意志は何よりも優先されるから」
「なにそれ?」
「まあだから、カズがウチに居たいと思えば、誰もそれを邪魔はできないし、逆にカズがウチから出ていきたいと思えば、引き留める権利は私にはないから」
うーん、よくわからないな。稀人って、要するに異世界転生者でしょう? それを便利に使うでもなく意志を優先させる?
「でも、稀人の知識を有効活用するなら、意志なんて無視したほうが良いのでは?」
「うん、そういう考えの人もいたよ。だけどね、稀人様は神様の愛し子。自分が送り出したのに、不遇な扱いを受けていると思えば、神様がどうでるかなんてわかるよね?」
なるほど。前の世界よりも、この世界は神様が身近なのだろう。
「実際に問題が起きたことはあるんですか?」
「ええ、あるわよ。稀人様を迫害した家に雷が落ちた。稀人様を騙そうとした人が、逆に不正を暴かれて失脚した。……そういった話は枚挙に暇がないわ」
「なるほど」
雷はともかく、不正に関しては身から出た錆では? という気もしなくはないが、師匠が言うからには神様の関与があったという証拠があるのだろう。
しかし、神の愛し子か。確かに、あの白い空間で出会った神様は、こちらに対して好意的ではあったけれど、そこまで言われるほどかな?
「だからね……だから、ウチから出て行かないで欲しいな」
「出ていくつもりはないですよ、師匠。助けていただいた恩もありますし。そもそも、この世界のことなんて何一つわかりませんからね」
これは本音。師匠には恩もあるし、師匠に放り出されたら、この世界で生きていける自信なんてない。
「そう? じゃあ、それを信じて協会に行こうかしら」
師匠はそう言うと、僕を連れてギルドを出る。協会は割と近くにあるらしく、街の案内を受けつつ十数分歩くと、すぐに見えてくる。
師匠の錬金術師ギルドは普通の一軒家だったが、協会は真っ白な建物で、いくつもの窓が見えることから、内部もかなり広いのだろう。
「オリアーニ錬金術師ギルドよ。協会長はいる?」
「ああ、エレオノーラさん。協会長ですか?」
「そう。受け持っていた冒険者ギルドがバカなことをしたから、その報告よ」
師匠が受付にそう告げると、受付の中にいた人はすぐに奥へと入っていき、数分が経った。
「エレオノーラ、何か問題が起きたそうだな」
奥から出てきたのは、白衣を着た壮年の男性。白髪に眼鏡と、いかにも研究者といういで立ちだが、これが協会長?
「協会長。そちらから、依頼されていた冒険者ギルドですが、錬金術師をバカにするような発言を行ったために、取引を停止しました」
「ああ、知っている。昨日のうちに件の冒険者ギルドから、釈明が来たからね。……本来なら、双方の言い分を調査するところなのだが……どうしたものか」
「協会長! 彼らは錬金術師をポーションを作るだけの能なしと蔑んだんですよ!」
「ああ、そう大声を張るな。もちろん、そんなギルドにポーションを卸すだけ無駄だから、取引停止は問題ない。……ただ、件のギルドは、今朝がたボヤが起きてなくなってしまったんだよ」
「……なくなった?」
「ああ、死人は出なかったらしいが、消火のために踏み込んだ建物内から、不正書類が数多く見つかってね。冒険者協会からギルドの認定証をはく奪されているんだ。本来なら、錬金術師をバカにするような連中には報復するところだが、なくなってしまったギルドには報復などできないだろう?」
うーん、師匠も協会長も、かなり怖い話をしている。……しかし、ボヤが起きて不正書類が見つかるなんて、さっき師匠に聞いた話みたいだな。
「……協会長。内密の話があるので、会長室でお話しできないでしょうか?」
「……ふむ、それはキミの隣にいる青年に関わることかね?」
師匠は、協会長の言葉にコクリと首肯して答える。
……うーん、師匠には悪いけど、面倒なことになったな。
「師匠、お水です。具合が悪いようなら寝ていたほうが良いのでは?」
前の世界なら、こういう時はしじみスープでも作るのだが、この世界ではしじみがあるのかどうか、それ以前に同じ成分があるのかどうかもわからない。
「ありがと。……でも、協会の方に連絡も入れないとだし、ポーション飲むわ」
「ポーション?」
「ええ、そっちの棚に入っている緑の瓶を取ってちょうだい」
師匠が指さす先には薬品棚があり、そこには色とりどりの瓶が飾られている。その中から、指定された緑色の瓶を取りだし、師匠へと渡す。
「ポーションって、あのポーションですか?」
「どの、かはわからないけれど。ポーションは錬金術師が作る薬の一種で、稀人様からは万能薬とも呼ばれているわ。二日酔いなんかの軽い症状なら、この下級ポーションで治るわ」
そう言うと、師匠はグイっと緑色の瓶を飲み干す……すると、見る見るうちに顔色が良くなり、頭を押さえていた手も離せるようになった。
「ポーション……僕にも作れますか?」
「カズはまだ無理だね。ポーションを作るためには、抽出と合成のスキルが必要になるから。しばらくは、鉄鉱石の分解と鉄の再構成が仕事だよ」
「なるほど……わかりました」
確かに薬品を作るためには鉄鉱石のように分解ではなく、必要な成分だけを抜き出す抽出が必要なるだろう。
「で、今日はカズを錬金術師協会に連れて行って、登録をするから」
「協会……ギルドとは違うんですね」
「簡単に言うと、ギルドを取りまとめているところ……かな? 個人の依頼はギルドに直接持ち込まれるけど、ギルド同士の依頼は協会を通して行うのが普通。だから、冒険者ギルドの狼藉についても報告しなきゃなんだよね」
ああ、僕を助けた時のことか。そういえば、師匠は簡単に冒険者ギルドにポーションを卸さないと宣言していたけれど、大丈夫なのだろうか?
「協会から怒られたりはしないんですか?」
「ん? ああ、冒険者ギルドのことね。大丈夫、大丈夫。あそこは、錬金術師ギルドへの対応も悪くて、誰も受け持ちたがらないから、うちみたいな弱小ギルドに依頼されてたからね」
師匠は軽く言っているが、目は笑っていない。自分で自分のギルドを弱小だというのは、葛藤があるんだろうなぁ。
「僕をギルドに入れたことについては、何か言われないんですか?」
自分でいうのもなんだが、どこから来たのかも定かではない人間を雇うなんて、普通の人なら怪しむだろう。
異世界人は、この世界では稀人と呼ばれて認知されているようだが、それを保証する何かがあるわけでもないのだから。
「ああ、それは大丈夫。稀人様は幸運の証だから。各国では稀人様を見つけた際には、保護するように法律が整っているし、稀人様の意志は何よりも優先されるから」
「なにそれ?」
「まあだから、カズがウチに居たいと思えば、誰もそれを邪魔はできないし、逆にカズがウチから出ていきたいと思えば、引き留める権利は私にはないから」
うーん、よくわからないな。稀人って、要するに異世界転生者でしょう? それを便利に使うでもなく意志を優先させる?
「でも、稀人の知識を有効活用するなら、意志なんて無視したほうが良いのでは?」
「うん、そういう考えの人もいたよ。だけどね、稀人様は神様の愛し子。自分が送り出したのに、不遇な扱いを受けていると思えば、神様がどうでるかなんてわかるよね?」
なるほど。前の世界よりも、この世界は神様が身近なのだろう。
「実際に問題が起きたことはあるんですか?」
「ええ、あるわよ。稀人様を迫害した家に雷が落ちた。稀人様を騙そうとした人が、逆に不正を暴かれて失脚した。……そういった話は枚挙に暇がないわ」
「なるほど」
雷はともかく、不正に関しては身から出た錆では? という気もしなくはないが、師匠が言うからには神様の関与があったという証拠があるのだろう。
しかし、神の愛し子か。確かに、あの白い空間で出会った神様は、こちらに対して好意的ではあったけれど、そこまで言われるほどかな?
「だからね……だから、ウチから出て行かないで欲しいな」
「出ていくつもりはないですよ、師匠。助けていただいた恩もありますし。そもそも、この世界のことなんて何一つわかりませんからね」
これは本音。師匠には恩もあるし、師匠に放り出されたら、この世界で生きていける自信なんてない。
「そう? じゃあ、それを信じて協会に行こうかしら」
師匠はそう言うと、僕を連れてギルドを出る。協会は割と近くにあるらしく、街の案内を受けつつ十数分歩くと、すぐに見えてくる。
師匠の錬金術師ギルドは普通の一軒家だったが、協会は真っ白な建物で、いくつもの窓が見えることから、内部もかなり広いのだろう。
「オリアーニ錬金術師ギルドよ。協会長はいる?」
「ああ、エレオノーラさん。協会長ですか?」
「そう。受け持っていた冒険者ギルドがバカなことをしたから、その報告よ」
師匠が受付にそう告げると、受付の中にいた人はすぐに奥へと入っていき、数分が経った。
「エレオノーラ、何か問題が起きたそうだな」
奥から出てきたのは、白衣を着た壮年の男性。白髪に眼鏡と、いかにも研究者といういで立ちだが、これが協会長?
「協会長。そちらから、依頼されていた冒険者ギルドですが、錬金術師をバカにするような発言を行ったために、取引を停止しました」
「ああ、知っている。昨日のうちに件の冒険者ギルドから、釈明が来たからね。……本来なら、双方の言い分を調査するところなのだが……どうしたものか」
「協会長! 彼らは錬金術師をポーションを作るだけの能なしと蔑んだんですよ!」
「ああ、そう大声を張るな。もちろん、そんなギルドにポーションを卸すだけ無駄だから、取引停止は問題ない。……ただ、件のギルドは、今朝がたボヤが起きてなくなってしまったんだよ」
「……なくなった?」
「ああ、死人は出なかったらしいが、消火のために踏み込んだ建物内から、不正書類が数多く見つかってね。冒険者協会からギルドの認定証をはく奪されているんだ。本来なら、錬金術師をバカにするような連中には報復するところだが、なくなってしまったギルドには報復などできないだろう?」
うーん、師匠も協会長も、かなり怖い話をしている。……しかし、ボヤが起きて不正書類が見つかるなんて、さっき師匠に聞いた話みたいだな。
「……協会長。内密の話があるので、会長室でお話しできないでしょうか?」
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師匠は、協会長の言葉にコクリと首肯して答える。
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