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安定
しおりを挟むしばらくの時間が過ぎて、その日、体調が悪くなかった。
慌てて布団を捲ってみるけど、そこに子どもの姿はない。
「き、気のせい、だった……?」
昨日までが嘘のように、調子が悪くない。
なのに、子は生まれていない。
勘違いだったんだ。本当に、体調を崩していただけなんだ。
分かって、あまりの嬉しさに胸がドキンと跳ねた。
少し太った気もするけど、動けば問題はない。
嬉しくなって、勢いのまま久々に部屋から顔を出した。
「ノ、ノアが出歩いているだと……!?」
この一カ月、体調が悪いと顔を見せてくれなかったノアが。
急いで立ち上がって、部屋に向かった。
そうか、もう良くなったのか。今日は祝いだ。
途中からは部屋へ入ることも拒否されるようになって、顔を見ることすら久々だった。
「ノア、体調が良くなったのか。入るぞ」
ドアをノックして声をかけていると、「エリクス?」と後ろから声がかかった。
「ノ、ノア……!もう大丈夫なのか。苦しいところはないのか」
肩を掴んで、変わらないその顔を観察する。
あの日からのぐったりとしていた顔とは違って、その顔は緩く微笑んだ。
「もう大丈夫です。心配かけて、ごめんなさい」
「いい。無事ならそれでいいんだ」
医者に見せようとしても、ノアは頑なに断った。
入ることを許されるのは世話をするメイドだけで、この白い肌に触れるのはいつぶりだろう。
「よかった……声も聞けず、寂しかったんだぞ、ノア」
「ごめんなさい。俺も、寂しかったです」
随分と素直になったものだ。
額から髪を上げるように頭へ手を滑らせて、見えた肌に口を付ける。
「ノア。俺たちはなにも気にしないから、辛いことがあれば言って欲しい」
「……でも……」
「お前を失う方が、怖いんだ」
気を遣って、1人で苦しんでほしくなんてない。
金はいくらでもある。名医に見せることだって出来る。
なにも出来ないことが、1番悔しい。何度も経験してきた。
「ノア」
「……ふふ、甘えん坊なんですか、エリクスは」
「お前が、1ヶ月も顔を見せないからだ」
抱きしめて、久々の匂いを堪能した。
「飯は、食えるのか。胃に優しいものの方がいいのか」
なるべく負担をかけないように。
食べれると言うから晩飯は一緒に食べて、久々の寝室に2人で戻った。
「ん……エリクス……」
「どうした」
「……この1ヶ月間近く、俺の代わりは、いたんですか」
「……いるわけがないだろう。俺はそこまで、欲に塗れていない」
それどころか、こいつが心配で心配で、仕事にまであまり手をつけられなかった。性欲どころじゃなかった。
流行病に罹ったんじゃないかと、あるかも分からないことを危惧しては、容態が変わったのではと毎日こわかった。
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