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進軍
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玉座の間には、3名の魔人と、15名の近衛部隊がいた。
その他に弓や魔術使いの伏兵が数名いたが、ユキヒラが始末しておいた。
勇者達は強力な異能を放ち、近衛部隊を一蹴した。
腐っても勇者だ、能力だけはピカイチだった。
と、先ほどユキヒラを非難した勇者が前に進むと魔人に降伏を勧め始めた。
<こいつはさっきから何をしてるのだ?
どちらにしても魔人は殺されるのだ。降伏するわけなかろうに……。
これでは、魔人に戦闘準備をさせているようなものだ。
下手をすれば転移魔法で逃げられてしまう>
痺れを切らしたユキヒラは、魔人の背後へと回り込み、縮地のスキルで距離をつめた。
<十六夜の先!!!>
魔人は跡形もなく消え去った。
ユキヒラは、長剣を鞘に納めると、無言のまま玉座の間をあとにした。
後ろで、勇者がなにか喚いていたが、よく聞こえなかった。
……
ユキヒラは、ガラテインの執務室にいた。
「ご苦労だった。
魔人と元勇者の始末もしてくれたそうだな」
「不本意だったが、横取りさせてもらった。
勇者達が青過ぎて話にならない。
あれでは、仮にターゲットを撃破できたとしても無駄な被害がでるぞ。
指揮官をつけた方が良いと思われるが?」
「非情になりきれない子供達だからな……。
とはいえ強力な異能を持った戦士達だ、
下手に自尊心を傷つければ裏切りの火種にもなりかねん」
「だとしたら、申し訳ないことをした。
俺がその自尊心とやらを傷つけてきたからな。
戦場で子守をさせられるのは勘弁してほしい。
勇者達とは別の任務を割り当ててくれ。
でないと、俺が、ガキどもを切り捨てることになるぞ」
「うむ、申し訳ないことをした。
任務については、検討させてもらう」
「ところで、勇者召喚をまだ続けるつもりなのか?」
「上層部の意向は変わらない。
君の言い分もよくわかっているよ。
俺自身も反対派だからな」
「難しい立場だな、同情するよ。
ただ、自殺行為に等しいぞ。敵を有利にしているだけだ。
俺はイサナミの人間だ、足を引っ張る奴がいれば、たとえ味方でも迷わず切り捨てるからな」
「それも十分わかってる。
だからこそ君にきてもらったのだ」
……
さらなる増援部隊との合流に合わせて、要塞都市を2つ奪還した。
要塞都市ルシーニアと要塞都市ルーテシアだ。
結界の解除と開門はユキヒラが担当したが、新たに合流した勇者達がいたので、元勇者や首領の討伐は勇者部隊が対応した。
だが、相手の戦力の割には、味方に予想以上の大きな被害が出ていた。
しかも、帰還した勇者部隊は険悪なムードになっていた。
戦場で言い合いになったらしい、その隙に攻撃されたのだそうだ。
その被害は一部の正規兵達にも及んだ。
帰還後、ガラテインが仲裁していたが、結局折り合いがつかず、勇者達は3つの部隊に分割された。
さすがに正規兵たちも、今回ばかりは黙っていることができなかったようだ。
酒場で、勇者たちと喧嘩になったのだ。
仲の悪い勇者たちの口論を仲裁しようとしたところ、逆ギレされたことが原因らしい。
正規兵の隊長たちも、上層部に勇者の質の悪さの問題を具申していた。
一部の冒険者が要塞都市ルーテシアの冒険者ギルド長ティルフィンに呼び出された。
皆、高ランク冒険者だ。
彼らには、勇者達の行動の監視の任務が与えられた。
とくに、主要施設への出入りと魔族との接触について、気をつけるように言われた。最悪の場合、殺しても良いと指示された。
……
次の増援部隊との合流まで、ユキヒラは、前線付近で敵情視察を行っていた。
地理的に、あと2つの要塞都市を奪還できれば、前線の防衛が多少楽になるのだ。
それまでは、気が抜けない状況だった。
流石に魔王軍も、増援を配備し守りを固めているようだ。
これ以上、時間が長引けば、さらなる増援が駆けつけ、進軍してくるだろう。
ユキヒラが、要塞都市ルシーニアの作戦本部に戻ると、増援部隊が到着し、進軍の準備を行なっていた。
要塞都市ゼディーと要塞都市ルークの同時攻略計画が進められていたのだ。
ゼディーを攻略した時点で、敵の増援が要塞都市ルークに到着し、そのまま進軍してくることが予想されるため、要塞都市ルークで合流される前に、精鋭部隊でルークの主要施設を奪い敵を足止めする計画だ。主力部隊が要塞都市ゼディーを陥落させたのち、ルークに到着するまでの間、持ち堪えることが精鋭部隊の任務となっている。
ユキヒラは、ゼディーの主要施設を解放したら、精鋭部隊に合流してルークへ向かうことになっていた。
ユキヒラが出立の準備を進めていると、ルシーニアの冒険者ギルド長エクシアとゼディー攻略の指揮をとるストークス卿がやってきた。
「ユキヒラ殿、いまよろしいですか?」
エクシアが声をかけてきた。
「何かあったのか?」
「じつは任務の変更をお願いしたいのです」
エクシアがそういうと、ストークス卿が続けた。
「ゼディー攻略の際、元勇者の殲滅を貴殿に任せたいのだ」
「……ルークへ向かう精鋭部隊との合流が遅れてもよいのか?」
「そちらは大丈夫だ。冒険者部隊を追加で派遣することになった。
貴殿にはゼディー陥落まで協力願いたいのだ。
できれば玉座の制圧にも参加してもらいたい」
「……了解した。ところで、勇者部隊はどう動くのだろうか?」
「全員、ルーク攻略の精鋭部隊に参加することになった。
ゼディー攻略作戦に勇者は参加しない」
「……なるほど。了解した」
ユキヒラがゼディー攻略部隊と合流すると、進軍が始まった。
……
ガラテインは、ルーク攻略作戦の精鋭部隊に参加することになった。
3分割した勇者部隊を再び一つに纏め直し、その部隊の勇者長に任命されたのだ。
勇者部隊には、作戦を支援するため、高ランク冒険者が10名加わることになった。総勢30名の部隊になった。正規兵を合わせると精鋭部隊は総勢500名になった。
勇者部隊の雰囲気は異様だった。
勇者達は互いに険悪であり、それを側から眺めている冒険者達の視線は冷め切っていた。
ガラテインは一抹の不安を抱きつつも、この部隊で、増援がくるまで持ち堪えねばならないという使命感に燃えていた。
……
女勇者ハルカは、今回の作戦に大きな不安を抱いていた。
ルーク攻略戦にイサナミ使いのユキヒラが参加しないと聞かされたからだ。
彼は、要塞都市ティフォーニアの攻略戦では、鮮やかな手際で強敵を難なく撃破してくれた。しかし、ルーテシアとルシーニアの攻略戦では、別行動となり、彼ならば難なく撃破してくれたであろう強敵を撃破するのに、とても苦労させられたからだ。
リーダー格のトモキはトラブルメーカーだ。
まったく空気を読まず、自分のやりたいようにやろうとして、失敗すれば他人のせいにし、思い通りにならないことがあれば、他人に暴言を吐きまくる。
みんな、彼の相手をするのをいやがって、放置して離れていってしまうのだ。
トモキが生きてこられたのは、優秀な勇者達から嫌われて前線に行く機会がもらえず、辺境の街でわがまま放題させてもらっていたからだ。
そのツケが今になって回ってきているのだ。
前線を経験している勇者とは全く剃りが合わず、実力もないくせにリーダー気取りで、相手を捲し立てる。
彼がいなければよかったと、何度思ったことか。
自分の召喚時期がもう少し早ければ、彼と同じパーティにならずに済んだのだ。
勇者部隊が3分割され、トモキと別のパーティになれたときはとてもうれしかったが、すぐに同じパーティに戻されたときは愕然とした。彼はガラテインの言うことも全く聞かないからだ。
ハルカは、そんなふうに思いながら、これまでにないほどの苦戦が予想されるルーク攻略戦に臨んでいた。
その他に弓や魔術使いの伏兵が数名いたが、ユキヒラが始末しておいた。
勇者達は強力な異能を放ち、近衛部隊を一蹴した。
腐っても勇者だ、能力だけはピカイチだった。
と、先ほどユキヒラを非難した勇者が前に進むと魔人に降伏を勧め始めた。
<こいつはさっきから何をしてるのだ?
どちらにしても魔人は殺されるのだ。降伏するわけなかろうに……。
これでは、魔人に戦闘準備をさせているようなものだ。
下手をすれば転移魔法で逃げられてしまう>
痺れを切らしたユキヒラは、魔人の背後へと回り込み、縮地のスキルで距離をつめた。
<十六夜の先!!!>
魔人は跡形もなく消え去った。
ユキヒラは、長剣を鞘に納めると、無言のまま玉座の間をあとにした。
後ろで、勇者がなにか喚いていたが、よく聞こえなかった。
……
ユキヒラは、ガラテインの執務室にいた。
「ご苦労だった。
魔人と元勇者の始末もしてくれたそうだな」
「不本意だったが、横取りさせてもらった。
勇者達が青過ぎて話にならない。
あれでは、仮にターゲットを撃破できたとしても無駄な被害がでるぞ。
指揮官をつけた方が良いと思われるが?」
「非情になりきれない子供達だからな……。
とはいえ強力な異能を持った戦士達だ、
下手に自尊心を傷つければ裏切りの火種にもなりかねん」
「だとしたら、申し訳ないことをした。
俺がその自尊心とやらを傷つけてきたからな。
戦場で子守をさせられるのは勘弁してほしい。
勇者達とは別の任務を割り当ててくれ。
でないと、俺が、ガキどもを切り捨てることになるぞ」
「うむ、申し訳ないことをした。
任務については、検討させてもらう」
「ところで、勇者召喚をまだ続けるつもりなのか?」
「上層部の意向は変わらない。
君の言い分もよくわかっているよ。
俺自身も反対派だからな」
「難しい立場だな、同情するよ。
ただ、自殺行為に等しいぞ。敵を有利にしているだけだ。
俺はイサナミの人間だ、足を引っ張る奴がいれば、たとえ味方でも迷わず切り捨てるからな」
「それも十分わかってる。
だからこそ君にきてもらったのだ」
……
さらなる増援部隊との合流に合わせて、要塞都市を2つ奪還した。
要塞都市ルシーニアと要塞都市ルーテシアだ。
結界の解除と開門はユキヒラが担当したが、新たに合流した勇者達がいたので、元勇者や首領の討伐は勇者部隊が対応した。
だが、相手の戦力の割には、味方に予想以上の大きな被害が出ていた。
しかも、帰還した勇者部隊は険悪なムードになっていた。
戦場で言い合いになったらしい、その隙に攻撃されたのだそうだ。
その被害は一部の正規兵達にも及んだ。
帰還後、ガラテインが仲裁していたが、結局折り合いがつかず、勇者達は3つの部隊に分割された。
さすがに正規兵たちも、今回ばかりは黙っていることができなかったようだ。
酒場で、勇者たちと喧嘩になったのだ。
仲の悪い勇者たちの口論を仲裁しようとしたところ、逆ギレされたことが原因らしい。
正規兵の隊長たちも、上層部に勇者の質の悪さの問題を具申していた。
一部の冒険者が要塞都市ルーテシアの冒険者ギルド長ティルフィンに呼び出された。
皆、高ランク冒険者だ。
彼らには、勇者達の行動の監視の任務が与えられた。
とくに、主要施設への出入りと魔族との接触について、気をつけるように言われた。最悪の場合、殺しても良いと指示された。
……
次の増援部隊との合流まで、ユキヒラは、前線付近で敵情視察を行っていた。
地理的に、あと2つの要塞都市を奪還できれば、前線の防衛が多少楽になるのだ。
それまでは、気が抜けない状況だった。
流石に魔王軍も、増援を配備し守りを固めているようだ。
これ以上、時間が長引けば、さらなる増援が駆けつけ、進軍してくるだろう。
ユキヒラが、要塞都市ルシーニアの作戦本部に戻ると、増援部隊が到着し、進軍の準備を行なっていた。
要塞都市ゼディーと要塞都市ルークの同時攻略計画が進められていたのだ。
ゼディーを攻略した時点で、敵の増援が要塞都市ルークに到着し、そのまま進軍してくることが予想されるため、要塞都市ルークで合流される前に、精鋭部隊でルークの主要施設を奪い敵を足止めする計画だ。主力部隊が要塞都市ゼディーを陥落させたのち、ルークに到着するまでの間、持ち堪えることが精鋭部隊の任務となっている。
ユキヒラは、ゼディーの主要施設を解放したら、精鋭部隊に合流してルークへ向かうことになっていた。
ユキヒラが出立の準備を進めていると、ルシーニアの冒険者ギルド長エクシアとゼディー攻略の指揮をとるストークス卿がやってきた。
「ユキヒラ殿、いまよろしいですか?」
エクシアが声をかけてきた。
「何かあったのか?」
「じつは任務の変更をお願いしたいのです」
エクシアがそういうと、ストークス卿が続けた。
「ゼディー攻略の際、元勇者の殲滅を貴殿に任せたいのだ」
「……ルークへ向かう精鋭部隊との合流が遅れてもよいのか?」
「そちらは大丈夫だ。冒険者部隊を追加で派遣することになった。
貴殿にはゼディー陥落まで協力願いたいのだ。
できれば玉座の制圧にも参加してもらいたい」
「……了解した。ところで、勇者部隊はどう動くのだろうか?」
「全員、ルーク攻略の精鋭部隊に参加することになった。
ゼディー攻略作戦に勇者は参加しない」
「……なるほど。了解した」
ユキヒラがゼディー攻略部隊と合流すると、進軍が始まった。
……
ガラテインは、ルーク攻略作戦の精鋭部隊に参加することになった。
3分割した勇者部隊を再び一つに纏め直し、その部隊の勇者長に任命されたのだ。
勇者部隊には、作戦を支援するため、高ランク冒険者が10名加わることになった。総勢30名の部隊になった。正規兵を合わせると精鋭部隊は総勢500名になった。
勇者部隊の雰囲気は異様だった。
勇者達は互いに険悪であり、それを側から眺めている冒険者達の視線は冷め切っていた。
ガラテインは一抹の不安を抱きつつも、この部隊で、増援がくるまで持ち堪えねばならないという使命感に燃えていた。
……
女勇者ハルカは、今回の作戦に大きな不安を抱いていた。
ルーク攻略戦にイサナミ使いのユキヒラが参加しないと聞かされたからだ。
彼は、要塞都市ティフォーニアの攻略戦では、鮮やかな手際で強敵を難なく撃破してくれた。しかし、ルーテシアとルシーニアの攻略戦では、別行動となり、彼ならば難なく撃破してくれたであろう強敵を撃破するのに、とても苦労させられたからだ。
リーダー格のトモキはトラブルメーカーだ。
まったく空気を読まず、自分のやりたいようにやろうとして、失敗すれば他人のせいにし、思い通りにならないことがあれば、他人に暴言を吐きまくる。
みんな、彼の相手をするのをいやがって、放置して離れていってしまうのだ。
トモキが生きてこられたのは、優秀な勇者達から嫌われて前線に行く機会がもらえず、辺境の街でわがまま放題させてもらっていたからだ。
そのツケが今になって回ってきているのだ。
前線を経験している勇者とは全く剃りが合わず、実力もないくせにリーダー気取りで、相手を捲し立てる。
彼がいなければよかったと、何度思ったことか。
自分の召喚時期がもう少し早ければ、彼と同じパーティにならずに済んだのだ。
勇者部隊が3分割され、トモキと別のパーティになれたときはとてもうれしかったが、すぐに同じパーティに戻されたときは愕然とした。彼はガラテインの言うことも全く聞かないからだ。
ハルカは、そんなふうに思いながら、これまでにないほどの苦戦が予想されるルーク攻略戦に臨んでいた。
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