1 / 259
大崩落
鎮守鎖(アースバインダー)の牢獄にて
しおりを挟む
────ガイゼルヘル(人狼アルデバドス種、アルデバドス族・長老、アールヴヘイム王侯第4席、アースバインダー)
我が主、フリギアン=ギアが崩御なされた。
世界龍の加護を失ったアールヴヘイムの大地は、程なくして、巨大な地響きとともに引き裂かれ、虚無なる奈落へと崩れ落ちた。
私自身の肉体も、大地から消失してしまった。
だが、姿が消えても、自我はあり、思考も記憶も明瞭で、自分の領地内であれば大地の様子も知覚できた。ただし、領地の外へ出ることはできず、何物にも触れられず、干渉できず、何者からも知覚されることがなかった。
私は、領地に縛られた亡霊と化したのだ。
しかし、ヒューマノイドを筆頭とした低次元生命体は消失から免れていた。
自然法則すら変わってしまった新しい世界なかで、彼らは、彼らなりに、試行錯誤しながら生き抜く術を模索しつづけているようだった。
微笑ましいと思う一方で、欠片になってしまったとはいえ我らの聖なる大地を、下等生物が我が物顔で闊歩し欲望に任せて開拓する様を、傍観することしかできないのは、耐え難い屈辱であった。
だが、幾千の時を経ても、この苦悩と屈辱の牢獄から抜けだす術は見つけられなかった。
かつて、霊長とは我らアールヴヘイムの王侯のための呼称だった。
しかし今では、下等なヒューマノイドの末裔が、大地の覇者と称し、文明を持ち、万物の霊長を自負するまでに増長している。
ヒューマノイドは、聡明なホムンクルス種の開発過程で産み落とされた、知能の低い失敗生物だ。
下劣で無知、傲慢で強欲、好戦的で邪悪、利益や快楽のために嬉々として同族を裏切り・殺し、目先の欲望にだけ忠実な劣等種族なのだ。
獣化することができ、俊敏な運動能力、無尽蔵の体力、強靭な牙と爪を有していたなら、補助戦力や伝令として利用価値はあったのだが、もともとは文官の補助を前提に開発された脆弱な種族なのだ。
肝心の知能が並外れて足りていないのであれば、失敗作と断定することしかできなかった。
そのため、すべて廃棄処分されたはずだったのだが、その過程で数匹が逃走し、繁殖を繰り返して雑草のように増えてしまったのだ。
ヒューマノイドは実験体であるため寿命が短くなるよう設計されている。それゆえに、我々は、数匹程度ならすぐに滅びるものと甘く見ていた。
だが、野良化したヒューマノイドは、想像以上に繁殖能力が向上してしまったのだ。
間引いても間引いても、逃げ延びた数匹で繁殖を繰り返し、着実にコロニーを増やしていった。
ちょうどその頃、研究所からロールアウトされ、実用段階に入ったばかりのホムンクルス達が、ヒューマノイドの繁殖力の高さに注目し、奴隷や家畜、実験用素体としての有用な用途を提案してきた。
我々は、ホムンクルス種の力量を測りたかったこともあり、任せることにした。
彼らはヒューマノイドを自身の管理下に置き、間引かれる恐怖と食料調達の不安を解消してやることで、瞬く間に、野良のヒューマノイドの完全回収を完遂させると、彼らの提案通り、家畜化されたヒューマノイドはよく働き、手先も器用で、手軽に個体を増やせる、便利な生物であることを証明してみせた。
だが、その後、ヒューマノイドの性能を再評価するため、厳重に隔離された環境を用意し、知識と教養を与え、より高い知能と品性を有するコロニーを育成する実験を行ったことがあった。
しかしながら、十分な知能を有する個体は一匹も育たず、また、どの個体も品性の下劣さに改善の兆候が全くみられないどころか、今までとは比較にならないほどの邪悪な個体が多数確認されるようになっていた。
実験は即時中止され、コロニーは完全焼却、以後、ヒューマノイドに奴隷や家畜以上の役割を与えることを禁止するとともに、知識や教養から厳重に隔離することを徹底することになったのである。
私は諦めない。
どれだけ時間がかかろうと、必ず、この牢獄から脱出する。
そして、大地に巣食う有害種共を一匹残らず滅殺するのだ。
我が主、フリギアン=ギアが崩御なされた。
世界龍の加護を失ったアールヴヘイムの大地は、程なくして、巨大な地響きとともに引き裂かれ、虚無なる奈落へと崩れ落ちた。
私自身の肉体も、大地から消失してしまった。
だが、姿が消えても、自我はあり、思考も記憶も明瞭で、自分の領地内であれば大地の様子も知覚できた。ただし、領地の外へ出ることはできず、何物にも触れられず、干渉できず、何者からも知覚されることがなかった。
私は、領地に縛られた亡霊と化したのだ。
しかし、ヒューマノイドを筆頭とした低次元生命体は消失から免れていた。
自然法則すら変わってしまった新しい世界なかで、彼らは、彼らなりに、試行錯誤しながら生き抜く術を模索しつづけているようだった。
微笑ましいと思う一方で、欠片になってしまったとはいえ我らの聖なる大地を、下等生物が我が物顔で闊歩し欲望に任せて開拓する様を、傍観することしかできないのは、耐え難い屈辱であった。
だが、幾千の時を経ても、この苦悩と屈辱の牢獄から抜けだす術は見つけられなかった。
かつて、霊長とは我らアールヴヘイムの王侯のための呼称だった。
しかし今では、下等なヒューマノイドの末裔が、大地の覇者と称し、文明を持ち、万物の霊長を自負するまでに増長している。
ヒューマノイドは、聡明なホムンクルス種の開発過程で産み落とされた、知能の低い失敗生物だ。
下劣で無知、傲慢で強欲、好戦的で邪悪、利益や快楽のために嬉々として同族を裏切り・殺し、目先の欲望にだけ忠実な劣等種族なのだ。
獣化することができ、俊敏な運動能力、無尽蔵の体力、強靭な牙と爪を有していたなら、補助戦力や伝令として利用価値はあったのだが、もともとは文官の補助を前提に開発された脆弱な種族なのだ。
肝心の知能が並外れて足りていないのであれば、失敗作と断定することしかできなかった。
そのため、すべて廃棄処分されたはずだったのだが、その過程で数匹が逃走し、繁殖を繰り返して雑草のように増えてしまったのだ。
ヒューマノイドは実験体であるため寿命が短くなるよう設計されている。それゆえに、我々は、数匹程度ならすぐに滅びるものと甘く見ていた。
だが、野良化したヒューマノイドは、想像以上に繁殖能力が向上してしまったのだ。
間引いても間引いても、逃げ延びた数匹で繁殖を繰り返し、着実にコロニーを増やしていった。
ちょうどその頃、研究所からロールアウトされ、実用段階に入ったばかりのホムンクルス達が、ヒューマノイドの繁殖力の高さに注目し、奴隷や家畜、実験用素体としての有用な用途を提案してきた。
我々は、ホムンクルス種の力量を測りたかったこともあり、任せることにした。
彼らはヒューマノイドを自身の管理下に置き、間引かれる恐怖と食料調達の不安を解消してやることで、瞬く間に、野良のヒューマノイドの完全回収を完遂させると、彼らの提案通り、家畜化されたヒューマノイドはよく働き、手先も器用で、手軽に個体を増やせる、便利な生物であることを証明してみせた。
だが、その後、ヒューマノイドの性能を再評価するため、厳重に隔離された環境を用意し、知識と教養を与え、より高い知能と品性を有するコロニーを育成する実験を行ったことがあった。
しかしながら、十分な知能を有する個体は一匹も育たず、また、どの個体も品性の下劣さに改善の兆候が全くみられないどころか、今までとは比較にならないほどの邪悪な個体が多数確認されるようになっていた。
実験は即時中止され、コロニーは完全焼却、以後、ヒューマノイドに奴隷や家畜以上の役割を与えることを禁止するとともに、知識や教養から厳重に隔離することを徹底することになったのである。
私は諦めない。
どれだけ時間がかかろうと、必ず、この牢獄から脱出する。
そして、大地に巣食う有害種共を一匹残らず滅殺するのだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】前提が間違っています
蛇姫
恋愛
【転生悪役令嬢】は乙女ゲームをしたことがなかった
【転生ヒロイン】は乙女ゲームと同じ世界だと思っていた
【転生辺境伯爵令嬢】は乙女ゲームを熟知していた
彼女たちそれぞれの視点で紡ぐ物語
※不定期更新です。長編になりそうな予感しかしないので念の為に変更いたしました。【完結】と明記されない限り気が付けば増えています。尚、話の内容が気に入らないと何度でも書き直す悪癖がございます。
ご注意ください
読んでくださって誠に有難うございます。
転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする
初
ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。
リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。
これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
世の中は意外と魔術で何とかなる
ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。
神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。
『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』
平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。
一般トレジャーハンターの俺が最強の魔王を仲間に入れたら世界が敵になったんだけど……どうしよ?
大好き丸
ファンタジー
天上魔界「イイルクオン」
世界は大きく分けて二つの勢力が存在する。
”人類”と”魔族”
生存圏を争って日夜争いを続けている。
しかしそんな中、戦争に背を向け、ただひたすらに宝を追い求める男がいた。
トレジャーハンターその名はラルフ。
夢とロマンを求め、日夜、洞窟や遺跡に潜る。
そこで出会った未知との遭遇はラルフの人生の大きな転換期となり世界が動く
欺瞞、裏切り、秩序の崩壊、
世界の均衡が崩れた時、終焉を迎える。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる