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大崩落
鎮守鎖(アースバインダー)の牢獄にて
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────ガイゼルヘル(人狼アルデバドス種、アルデバドス族・長老、アールヴヘイム王侯第4席、アースバインダー)
我が主、フリギアン=ギアが崩御なされた。
世界龍の加護を失ったアールヴヘイムの大地は、程なくして、巨大な地響きとともに引き裂かれ、虚無なる奈落へと崩れ落ちた。
私自身の肉体も、大地から消失してしまった。
だが、姿が消えても、自我はあり、思考も記憶も明瞭で、自分の領地内であれば大地の様子も知覚できた。ただし、領地の外へ出ることはできず、何物にも触れられず、干渉できず、何者からも知覚されることがなかった。
私は、領地に縛られた亡霊と化したのだ。
しかし、ヒューマノイドを筆頭とした低次元生命体は消失から免れていた。
自然法則すら変わってしまった新しい世界なかで、彼らは、彼らなりに、試行錯誤しながら生き抜く術を模索しつづけているようだった。
微笑ましいと思う一方で、欠片になってしまったとはいえ我らの聖なる大地を、下等生物が我が物顔で闊歩し欲望に任せて開拓する様を、傍観することしかできないのは、耐え難い屈辱であった。
だが、幾千の時を経ても、この苦悩と屈辱の牢獄から抜けだす術は見つけられなかった。
かつて、霊長とは我らアールヴヘイムの王侯のための呼称だった。
しかし今では、下等なヒューマノイドの末裔が、大地の覇者と称し、文明を持ち、万物の霊長を自負するまでに増長している。
ヒューマノイドは、聡明なホムンクルス種の開発過程で産み落とされた、知能の低い失敗生物だ。
下劣で無知、傲慢で強欲、好戦的で邪悪、利益や快楽のために嬉々として同族を裏切り・殺し、目先の欲望にだけ忠実な劣等種族なのだ。
獣化することができ、俊敏な運動能力、無尽蔵の体力、強靭な牙と爪を有していたなら、補助戦力や伝令として利用価値はあったのだが、もともとは文官の補助を前提に開発された脆弱な種族なのだ。
肝心の知能が並外れて足りていないのであれば、失敗作と断定することしかできなかった。
そのため、すべて廃棄処分されたはずだったのだが、その過程で数匹が逃走し、繁殖を繰り返して雑草のように増えてしまったのだ。
ヒューマノイドは実験体であるため寿命が短くなるよう設計されている。それゆえに、我々は、数匹程度ならすぐに滅びるものと甘く見ていた。
だが、野良化したヒューマノイドは、想像以上に繁殖能力が向上してしまったのだ。
間引いても間引いても、逃げ延びた数匹で繁殖を繰り返し、着実にコロニーを増やしていった。
ちょうどその頃、研究所からロールアウトされ、実用段階に入ったばかりのホムンクルス達が、ヒューマノイドの繁殖力の高さに注目し、奴隷や家畜、実験用素体としての有用な用途を提案してきた。
我々は、ホムンクルス種の力量を測りたかったこともあり、任せることにした。
彼らはヒューマノイドを自身の管理下に置き、間引かれる恐怖と食料調達の不安を解消してやることで、瞬く間に、野良のヒューマノイドの完全回収を完遂させると、彼らの提案通り、家畜化されたヒューマノイドはよく働き、手先も器用で、手軽に個体を増やせる、便利な生物であることを証明してみせた。
だが、その後、ヒューマノイドの性能を再評価するため、厳重に隔離された環境を用意し、知識と教養を与え、より高い知能と品性を有するコロニーを育成する実験を行ったことがあった。
しかしながら、十分な知能を有する個体は一匹も育たず、また、どの個体も品性の下劣さに改善の兆候が全くみられないどころか、今までとは比較にならないほどの邪悪な個体が多数確認されるようになっていた。
実験は即時中止され、コロニーは完全焼却、以後、ヒューマノイドに奴隷や家畜以上の役割を与えることを禁止するとともに、知識や教養から厳重に隔離することを徹底することになったのである。
私は諦めない。
どれだけ時間がかかろうと、必ず、この牢獄から脱出する。
そして、大地に巣食う有害種共を一匹残らず滅殺するのだ。
我が主、フリギアン=ギアが崩御なされた。
世界龍の加護を失ったアールヴヘイムの大地は、程なくして、巨大な地響きとともに引き裂かれ、虚無なる奈落へと崩れ落ちた。
私自身の肉体も、大地から消失してしまった。
だが、姿が消えても、自我はあり、思考も記憶も明瞭で、自分の領地内であれば大地の様子も知覚できた。ただし、領地の外へ出ることはできず、何物にも触れられず、干渉できず、何者からも知覚されることがなかった。
私は、領地に縛られた亡霊と化したのだ。
しかし、ヒューマノイドを筆頭とした低次元生命体は消失から免れていた。
自然法則すら変わってしまった新しい世界なかで、彼らは、彼らなりに、試行錯誤しながら生き抜く術を模索しつづけているようだった。
微笑ましいと思う一方で、欠片になってしまったとはいえ我らの聖なる大地を、下等生物が我が物顔で闊歩し欲望に任せて開拓する様を、傍観することしかできないのは、耐え難い屈辱であった。
だが、幾千の時を経ても、この苦悩と屈辱の牢獄から抜けだす術は見つけられなかった。
かつて、霊長とは我らアールヴヘイムの王侯のための呼称だった。
しかし今では、下等なヒューマノイドの末裔が、大地の覇者と称し、文明を持ち、万物の霊長を自負するまでに増長している。
ヒューマノイドは、聡明なホムンクルス種の開発過程で産み落とされた、知能の低い失敗生物だ。
下劣で無知、傲慢で強欲、好戦的で邪悪、利益や快楽のために嬉々として同族を裏切り・殺し、目先の欲望にだけ忠実な劣等種族なのだ。
獣化することができ、俊敏な運動能力、無尽蔵の体力、強靭な牙と爪を有していたなら、補助戦力や伝令として利用価値はあったのだが、もともとは文官の補助を前提に開発された脆弱な種族なのだ。
肝心の知能が並外れて足りていないのであれば、失敗作と断定することしかできなかった。
そのため、すべて廃棄処分されたはずだったのだが、その過程で数匹が逃走し、繁殖を繰り返して雑草のように増えてしまったのだ。
ヒューマノイドは実験体であるため寿命が短くなるよう設計されている。それゆえに、我々は、数匹程度ならすぐに滅びるものと甘く見ていた。
だが、野良化したヒューマノイドは、想像以上に繁殖能力が向上してしまったのだ。
間引いても間引いても、逃げ延びた数匹で繁殖を繰り返し、着実にコロニーを増やしていった。
ちょうどその頃、研究所からロールアウトされ、実用段階に入ったばかりのホムンクルス達が、ヒューマノイドの繁殖力の高さに注目し、奴隷や家畜、実験用素体としての有用な用途を提案してきた。
我々は、ホムンクルス種の力量を測りたかったこともあり、任せることにした。
彼らはヒューマノイドを自身の管理下に置き、間引かれる恐怖と食料調達の不安を解消してやることで、瞬く間に、野良のヒューマノイドの完全回収を完遂させると、彼らの提案通り、家畜化されたヒューマノイドはよく働き、手先も器用で、手軽に個体を増やせる、便利な生物であることを証明してみせた。
だが、その後、ヒューマノイドの性能を再評価するため、厳重に隔離された環境を用意し、知識と教養を与え、より高い知能と品性を有するコロニーを育成する実験を行ったことがあった。
しかしながら、十分な知能を有する個体は一匹も育たず、また、どの個体も品性の下劣さに改善の兆候が全くみられないどころか、今までとは比較にならないほどの邪悪な個体が多数確認されるようになっていた。
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