ブルー・クレセンツ・ノート

キクイチ

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ロンギヌスの牙

混乱の墓碑銘

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────フラガ=ラ=ハ(人狼ルガルガルダーガ種、ガルダーガ族、ヨトゥンヘイム筆頭神官)

 ロクリアン=ルシーニアの予想通り、カインの宮殿から回収した3つの装置は、ニダヴェリールとヨトゥンヘイムに、カインに対する大きなアドバンテージをもたらした。

 装置回収の報告を受けたアゾットは、すぐさまニダヴェリールに駆けつけ、まるで新しいおもちゃを買ってもらったばかりの子供のような目をして、調査に入った。

 アゾットの暫定ざんてい調査報告を受け、エオリアン=ユーフィリアは、史上初の「カイン、エオリアン=ユーフィリア、アイオニアン=ゼディー、ドリアン=ルーク、リディアン=ルーテシア、ロクリアン=ルシーニア」による世界龍オーヴァーロード全6名が集う緊急会談を招集した。

 会場は、各外郭世界の瞑想室を相互接続した、仮想空間内だった。

 これまで〝生命の営み〟に非協力的な姿勢をとってきたカイン、ドリアン=ルーク、アイオニアン=ゼディーの3名までもが参加を受諾したことからも、今回の事件の重大性がわかる。

 その席で、ロクリアン=ルシーニアは、カインの宮殿の撤去を決定し、今後、カインがヘルヘイムへ立ち入ることを一切禁じると宣言した。「リディアン=ルーテシアに会いたいときは、瞑想室を使えばよい」と、カインに告げたそうだ。
 それを受けたリディアン=ルーテシアは、その場で、カインがヘルヘイム内部のいたるところに仕掛けていた虚無を排除して、いつもの優雅で温厚な笑みのまま「お父様、死んでも黄泉にはいらっしゃらないでくださいね」とカインに告げたそうだ。

 これには、さすがのカインもショックの色を隠せなかったらしい。
 あのカインとて、一人の父親だったということが世界龍オーヴァーロードに知れ渡った歴史的な瞬間だったという。

 怪物化した3名の王侯エンヘリャルは、カインの助言を得ることができ、すぐに無力化された。また、アゾットの進言で、彼ら3名は、リディアン=ルーテシアによって黄泉に落とされた。
 それによって“虚無”から“死”の眷属へと変更され、リディアン=ルーテシアが新たな主人あるじとなった。アゾットの予測どおり、黄泉に落とされた後も、彼らは亡者になることはなく、ギアの大地の状況にも影響はなかった。

 リディアン=ルーテシアは、彼らに三牙狼ケルベロスという総称を命名し、カインが名付けたロンギヌス、ブリューナク、グングニルの名を再命名した。すでに別人と化していた彼らを、昔の名前で呼ぶことは、本来の彼らに失礼であるとの見解からである。

 また、リディアン=ルーテシアは、会談の席で、ニダヴェリール主導の元、ヨトゥンヘイムとニブルヘイムの協力によって、彼ら三牙狼ケルベロスをヘイルヘイムの最深部に封印してもらい、ニダヴェリールの上級シャーマンに監視してもらうことを要請したらしいのだが、これを受けたアイオニアン=ゼディーが、その場で、二つ返事で快諾したというのだ。
 これには、皆一様に驚かされたらしい。ニブルヘイムが外界に対して積極的に協力するのは初めてのことだったからだ。
 特にこの件に関われなかったドリアン=ルークは、別の意味で相当なショックを受けていたようだ。


 俺はというと、帰投直後の数日間は、ロクリアン=ルシーニアの宮殿で軟禁状態にあったが、くだんの会談が終わった時点で、自由の身になることができた。

 秘匿事項の問題点を憂慮していたリディアン=ルーテシアが、以前から、アイオニアン=ゼディーに接触し、彼の協力を仰いでいたようなのだ。そして、会談の席でそのことを報告したそうだ。既に、対策の準備が完了しており、秘匿する理由がなくなっていたとのことだった。

 そのおかげで、ヘルヘイム内部の移動が楽になりつつ、外界の安全性も維持できるようになった。これにはドリアン=ルークも深く関わっていたというのだから、リディアン=ルーテシアの外交力には驚かされるばかりだ。

 だが俺は、ロクリアン=ルシーニアの宮殿の離れに客間を割り当てられたまま、未だにニダヴェリールから出られない状況にある。

 エオリアン=ユーフィリアとロクリアン=ルシーニアとの間でどのような駆け引きがなされたのかは不明であるが、エオリアン=ユーフィリアの指示で、筆頭神官の役職のまま、しばらくの間、ニダヴェリールに滞在することになったのだ。

 今回の件を受け、有事の際にロクリアン=ルシーニア自らが外界へ出なければならない状態を早急に解消すべく、種族としてまだ若く人材が育ちきっていないルーノ族の上級シャーマンを対象に、カインをはじめとした世界龍オーヴァーロードとの交渉方法や注意点、隠遁法術、生命の基礎法術などについて、開示可能な範囲で、指導をおこなう任務をまかされたのだ。

 だが、ルーノ族の上級シャーマンは、女性の比率が圧倒的に高いため、俺が手を出さないように、ロクリアン=ルシーニア自身が頻繁に様子を見に来るのだ。「忙しい身なのだから、そういう雑務は、参加者でもあるルフィリアにまかせればよいのでは?」と助言したら「だめ、ルフィリアを狙ってるんでしょ!」とさらに警戒させてしまった。その場にいたルフィリアも苦笑いしていた。


 最近のロクリアン=ルシーニアは、毎日のようにエオリアン=ユーフィリアと何かの交渉を繰り返しているらしい。
 会談が終わる度に、抑えきれない怒りをあらわにしながら、俺のところにやってきて、エオリアン=ユーフィリアついて一通り愚痴をこぼしたうえで、最後に俺に水面みなもを奏でさせる、というのが、彼女の日課となっているようだ。


 俺としては、久々の休暇を得られたようなものなので、ほっとしているものの、歴史の転換点ともいえる今の時期に、忙しく働いている皆をみて申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

 
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