ブルー・クレセンツ・ノート

キクイチ

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メメント

カルペ・ディエム#1

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────ククリ(人狼ルガルガルダーガ種、ニダヴェリール宮廷正室、アースバインダー)


 私が産まれるよりも遥か昔、フリギアン=ギアは、眷属を選定する際、アルデバドス族の他にロデリク族という別の戦闘種族を競争させ、その勝者を正式な眷属として迎い入れることにした。

 そして、戦場として選定されたのが、後に不毛の大地ノドと呼ばれるようになる大地だった。

 両種族は覇権を争い、熾烈な戦闘を繰り広げた。

 ロデリクは、アルデバドス以上に戦闘に特化し、体格も多きく、強力な戦闘種族だった。

 秩序と名誉を重んじるアルデバドスの戦士とは対照的に、手段を選ばない確実な殺戮を重視するロデリクの戦士は、まさに脅威だったらしい。

 アルデバドスは、幾度も危機的な状況に追い詰められた。

 しかし、そんな絶望の淵で、反撃の狼煙のろしをあげたのが、グーンデイル公を筆頭にした精鋭部隊だった。グーンデイル公の部隊は、副官のアーグゥイン公、弓の名手フォールクヴェイル公等、稀代の精鋭揃いの特殊部隊として快進撃を始めた。

 大陸各地に分散していたアルデバドスの戦士たちは、彼らの元に集い、さらに強力な軍隊へと成長して行った。ガイセルヘルさんや、後の不毛の大地ノドのアースバインダーとなるブリュンヒルデもその中の1人だった。

 そしてついに、グーンデイル公は、ロデリクの族長ルスの首を取ることに成功したのだ。

 族長を失ったロデリク族は、総崩れになった。もともと、無法者の多い種族のため、絶対的な権威カリスマをもって統治をしていた族長ルスが失われたことで、皆、自分が王として君臨しようと争い始めたらしい。
 グーンデイル公は、その隙をついて、大地の覇権を制したのだ。

 その後、ロデリク族の残党は、各地に分散し、近隣の町や村を襲って生計を立てていたため、とても治安の悪い大地になってしまったことを口実に、ロデリクを嫌うアルデバドス族は、ヨトゥンヘイムのガルダーガ族の協力の元、不毛の大地ノド全体を強力な結界で隔離して、殺戮兵器の実験場にしてしまったのだった。

 多数の実験により砂漠化が進み過ぎたため、実験を中止し、大規模な緑地化計画が進められ、アースワームという地中を泳ぐ巨大な生物を筆頭に、大地に良い影響を及ぼす生物を大量に放ち、独自の生態系を保つように改良されるこのになった。

 結界のおかげで、大崩落の際、不毛の大地ノドは、低次元化の被害を最小限に抑えられ、人狼ルガルが存在できる唯一の低次元世界となった。
 
 ロデリク族は、緑地化計画が進み浮遊都市が生活の中心となった現在になっても、この大地で生き続け、どこからか入手した飛空挺の技術を利用してロングシップという特殊な飛空挺を開発し、浮遊都市を襲撃し、強奪を繰返しているらしい。

 太古に起こったアルデバドスとロデリクの対立は、ユグドラシルの大地となった現在でも続いているのだった。


 ……


 久々にみた不毛の大地ノドは、以前より緑地が若干増えた気がした。大地の緑地化計画は、数十万年以上の気の長い計画のため、アースワームたちの仕事もまだ続きそうだ。

 この大地の知的生命体は、獰猛な生物の闊歩する地上や海上で生活することはできないため、無色のホムンクルススターゲイザーの移動要塞の技術を利用したいくつかの浮遊都市を建造し、その上で生活を営んでいる。

 各浮遊都市にはアルデバドス族の中隊が配備されているが、治政のほとんどはヒューマノイドに任せているらしい。行き過ぎたことをしでかした場合は粛清されるが、粛清が実施されたのは初期の時代くらいで、現在は堅調な発展を遂げているとのことだった。

 不毛の大地ノドのラフィノス公国は、アースバインダー・ブリュンヒルデの宮殿のある浮遊都市を大幅に改装して設立されている。

 私とガイゼルヘルさん、そしてリエルが目指しているのは、そのラフィノス公国である。

 片道切符の転送装置で、不毛の大地ノドに上陸し、内部から転移ゲートを組み立てることで、アストレアとの往来を実現させる計画だ。
 
 ティファーニアは、様々な技術資料をこの世界に持ち込んでは、ラフィノス公国の文官、紫色のホムンクルスバンシーたちに研究させているようだが、ギアの大地とは大きく異なる世界構造のため、ほとんど応用できないらしかった。


「ククリ、出番だ。アースワームの群れが来た。撹乱して一箇所に集めてくれ」
 ガイゼルヘルさんから指示が出た。

「了解。後始末はよろしくね」

「ああ、まかせろ」


 ……


 アースワームを片付け、砂漠を小一時間ほど疾走すると、
 ようやく硬い岩盤のある安全地帯に到着した。

 ガイゼルヘルさんはこの大地の安全地帯を熟知している。地図に記載しきれない細かな地形もすべて頭に入っているようだ。おかげで、途中の道のりも最小限の戦闘で済んでいる。
 あとはラフィノス族とのランデブーポイントまで走り抜ければいいだけだった。

 
「あいかわらず、ひどい匂いだね」

「しかたないさ。これが新たな緑地を作るんだ」

 私は法術式を展開し、ガイゼルヘルさんの体を洗浄してあげた。

「すまんな」

「いいよ、トドメ刺すの任せちゃったから。こっちがお礼を言いたいくらいだし。
 休憩挟まずに全力で走り抜けても1週間くらいかかるかな?」

「ああ、それくらいだろう。この大地は、他の大地の数倍は広いから少しの移動も大変だよ」

「そういえば、殺戮兵器の研究って最終的にどうなったの?」

「役に立たないどころか、大地を殺していただけだったよ。
 ほんとうに実りのない実験だった。
 俺は大反対していたが、ヨトゥンヘイムとの差を埋めるのに皆必死だったから、
 判断を誤ったのだろうな」

「グーンデイルさんは?」

「反対派だけど、立場上、中立を保ってたな。辛そうだった」

船頭せんどうが多いのもこまりものだね。72柱ななじゅうふたはしらって多すぎでしょ?」

「フリギアン=ギアが、いろんな視点をもった、より多くの者にとことん討議をさせたがったからな。秘蔵っ子のエリューデイルは、参加させてもらえなかったから、実際は71柱ななじゅうひとはしらだったけど」

「エリューデイルは、ほんと気に入られていたんだね」

「あいつの性格と能力は、みんなが認めていたからな。本人に自覚がないのが玉に瑕だが」

「天然だしね」

「そういうところも含めて、気に入られてたのだろう」

「リエル、随分静かだけど、大丈夫?」

「はい……なんとか……」

「新しい体にまだ慣れてない感じだね。体調が悪いとかない?」

 アースワームの匂いに慣れないようで、いまにも吐きそうな感じだ。
 私はリエルの背中を摩ってあげた。

「ありがとうございます……足引っ張っちゃってもうしわけありません……」

「気にしない気にしない、最初はみんなそうだから」

「そうだな、俺も最初は何度も吐いた。そのうち慣れるから辛抱しろ。
 二人はそこで休んでろ、ちょっと周辺を調べてくる」

 ガイゼルヘルさんはそういうと獣化して一人で走って行った。

 私は浄化結界を組み立て、リエルに肩を貸して一緒に中に入り、リエルが背負っていた荷物を外して、仰向けに寝かせてあげた。
 リエルは少し楽になったようだ。


 リエルと私はアースバインダーになったばかりだ。

 私はニダヴェリール宮廷に、リエルはアストレア宮廷にバインドされている。

 ただ、リエルの場合は、諸般の事情により、性別が変わってしまっているのだ。
 そのせいか体調面でかなり苦労しているようだった。

 ちなみに、リエルが女性になった理由は、アストレアの宮廷の正室として向かい入れられたからだ。

 世界龍オーヴァーロードの出産はかなり危険が伴うのと、着床率がとても低いので、リエルには申し訳ないが、ティフォーニアがリエルを娶る形になったのだ。

 現在は、リエルとティフォーニアの生態情報をもとにヴェルキエーレの受精卵を開発中らしい。

 その流れで、なぜか私もルシーニアの正室にされ、特別性の鎮守鎖アースバインダーでバインドされてしまったのである。
 
「ククリさんはだいじょうぶなのですか? この匂い」

「うん、フラガ=ラ=ハやってたときに何度もここにきてるからね」

「なるほど……覚悟はしていたけど、想像以上にきついので驚きました」

「全身洗浄する?」

「いえ、もうだいぶ楽になったので、がんばれそうです」

「そうかい、無理しないでね」

「はい」

「行けそうか?」
 ガイゼルヘルさんが戻ってきた。

「大丈夫です、行けます」

「そうか、くれぐれも無理はするなよ」

 なんだかんだいって優しい先輩である。


 ……


「すごいね、ガイゼルヘルさん、ここまでこの大地を知り尽くるしてるとはおもわなかった」

「まぁな。昔は嫌ってほどかけまわされていたからな。とりあえず、野営の準備をしよう」

「「了解」」

 私とリエルは野営の準備に取り掛かった。

 ガイゼルヘルさんが近道を熟知していたおかげて、かなり前倒しの日程で、ランデブーポイントに到着してしまったのだ。
 
 私は、念波でディー=トライプに状況を伝えた。

 ラフィノス公国の浮遊都市は予定通りとのことだった。

 
「ガイゼルヘルさんも苦労してたんだね」

「外郭世界を走り回されていたお前ほどじゃないよ」

「私の場合は、エオリアン=ユーフィリアなりの配慮だと思うよ。『ククリ』の甥っ子ってだけでヨトゥンヘイムに居場所なんてなかったからね」

「それで、命がけの外界任務ってのは、割に合わんだろう」

「まあそうだけどね。でも変なこと悩まずに済んだのはありがたかったね」

「お前、〝死にたがり〟だったのか?」

「あはは、実はそう。内緒だよ? でも、手を抜くと育ての親の『ククリ』に顔向けできないとおもってたから、次の任務なら死ねるかなって、いつも期待してたよ」

「そんなそぶり、一切見せないやつだったよな。飄々ひょうひょうとして、気さくなやつでさ」

「普段は平静でいられたからね。単に死に場所を探していただけって感じだよ。ヨトゥンヘイムの筆頭神官なんて、死んでなんぼの役職だから。結局、死ねなくて、殺されたけどね、フラガは。フラガとしては、ニダヴェリールはよい死に場所だったとおもってる。丁寧に火葬して埋葬までしてくれたからね。ヨトゥンヘイムだったら、ゴミと一緒に処理されるだけだろうね。見せしめとして。アルデバドスだって、死に場所探して生きてるようなものでしょ?」

「一人前の戦士はそんな感じだな。それ以外のは口だけのゴロツキだ」

「いいの? 出身種族バカにして」

「種族としては後発のティターノのほうが有能だったよ。
 アルデバドスの連中は是弱なティターノをバカにしたくて仕方なかったようだが、戦士としてもティターノの連中の狡猾さは飛び抜けていたからな。無駄に強化されてない分、柔軟な戦闘ができたのが気に障ったのだろう」

「ブリュンヒルデの部下達って、アルデバドスだけだよね?
 ティターノ嫌っていたの?」

「いあ、フリギアン=ギアが龍都に集めていたから、他には配属されなかったな。あいつはティターノを欲しがって何度もフリギアン=ギアに直談判してたらしい」

「彼女は、人を見る目があるのかもね。でも、それじゃ、ほんとうにエリューデイルしか生き残っていないの? ティターノは」

「その可能性がたかいな」

「それは気の毒だね……」

「さすがのエリューデイルも、そのことについては悔しがっていたよ」


 ……


 浮遊要塞に合流すると、早速、転移装置の設営にとりかかかった。
 
 ティフォーニアと紫のホムンクルスバンシー達で、ある程度作業は進めていてくれてはいたものの、繊細なところは、ルークとゼディーから講習を受けたリエルとガイゼルヘルさんが受け持つことになっていたのだ。私には、別の任務があるのだが、まだ取りかかれないため、二人のお手伝いをしていた。

しばらくすると、ブリュンヒルデが部下を連れてやってきた。

「敵襲よ、ロデリクが攻めてきた」

「おい、ブリュンヒルデ、俺とククリも連れて行ってくれ。奴らの実態を調査するのも今回の任務の1つだ」

 ガイセルヘルが答えた。

「ガイゼルヘルが付いてきてくれるなら心強いわね。腕は鈍ってない?
 ククリは一緒にきて大丈夫なの?
 やつら相変わらず厄介よ?」

「ああ、問題ない。
 リエル、留守番頼むぞ」

「了解です、お気をつけて!」
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