ブルー・クレセンツ・ノート

キクイチ

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イサナミの書

水面(みなも)#4

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────ククリ(人狼ルガルガルダーガ種、ニダヴェリール宮廷正室、アースバインダー)


 ヒューマノイドはこんなに不便な体で生活していたのか。
 知覚が弱く、筋力も是弱。
 思考は本体が請け負っているからわからないけど、おそらくもっとボヤーッとしてるのだろう。

 目の前の欲望に振り回されやすいのが、よくわかる気がする。

 ルシーニアとルーテシアも同じ感想のようだ。
 ルナとルカも驚いている。
 これを体験しただけでも、この任務の価値は十分あったといってもいいくらいだ。

 本当にヒューマノイドには自治能力が芽生えるのだろうか?
 ちょっと心配になってきた……。
 
 程なく、数名の青色のホムンクルスタナトスがやってきて公国内のオリエンテーションが始まった。
 
 人狼ルガルにとっては大した広さではないが、ヒューマノイドの肉体では、かなりの疲労が蓄積される広さのようだ。

 みんな息を切らしていた。

「こんなに体力差あるの? ヒューマノイドって是弱過ぎない?」
 ルナディアが、息を切らしながらつぶやいた。

「あと半分もあるの? 降臨アドヴェントを解除すれば疲労をリセットできたりしないのかな?」
 ルカティアがルーテシアに質問した。

「傷や疲労はリセットできないようになってる。
 だから、大事にしてね。
 新しい仮の肉体を用意するのに1ヶ月以上かかるのよ。
 でも、体力づくりすれば体力がつくから、この感じだと、しばらく体力づくりしないといけないわね……」

「ほんと、先が思いやられるわ……」
 ルカティアも、ヒューマノイドの是弱さを思い知ったようだ。
 
 私もしばらくは体力づくりに専念しないと、指導どころではないようだ。


 ……

 
 ルーテシアの提案で、最初は体力づくりを中心とした訓練メニューに切り替わった。

「ククリさん。私には一切情報がないのですが、この世界が一番ひどいって聞きましたけど、具体的にどうひどいのですか?」
 ルフィリアに質問された。

「悪霊の残党がいるんだよ」

「じゃ、ヒューマノイドが生きるの大変ではありませんか?」

「悪霊も弱体化して、ギアの悪霊とは完全に別物になっちゃったみたい」

「どんな感じなのですか?」

憑依霊ハウントてのが、中心かな。それ以外も大量にいるけど、北部の山脈にティフォーニアが張った結界を越えられないようにしてあるんだ。このラフィノス公国が結界のかなめになってる。低次元世界じゃティフォーニアもほとんど力を振るえないから苦労して結界を張ったらしい」

「なるほど。憑依霊ハウントは、どんな悪さをしているのでしょうか?」

「ヒューマノイドを無駄な戦争に煽動せんどうするんだ」

「では、それを退治すれば良いのでは?」

「問題は、それだけじゃじゃないんだよ。憑依されし者ハウンテッドの子供は、低確率で赤色のホムンクルスサキュバリスになる。そいつらの遺伝子が、この世界のヒューマノイドの血統に根付いちゃったんだ」

赤色のホムンクルスサキュバリス……ですか?」

「うん、ヒューマノイドの寄生種みたいなものかな。ぱっと見は区別がつかないとおもうよ」

「それで、赤色のホムンクルスサキュバリスはどんな悪さをするのです?」

「関わるヒューマノイドの倫理観や常識を少しずつミスリードしていって、とてつもない非常識が常識になった社会を、ヒューマノイド自身に作らせるんだ。自分は表舞台にでないでね」

「なんか、こわい種族ですね」

「普通の社会でも、無知な末端の少人数のグループでよくあることだけどね。
 社会性のある動物は、仲間はずれになるのがこわくて、徐々に常識が汚染されてしまうんだ。それが悪化すると、数千、数万規模で常識が汚染される。
 それを意図的に操作するのが赤色のホムンクルスサキュバリスだよ」

憑依霊ハウントは、青色のホムンクルスタナトスがかなりの数を始末してくれたらしいけど、ヒューマノイドの遺伝子に寄生しちゃった赤色のホムンクルスサキュバリスは、今のところどうにもならないみたい。
 この世界は隔離した状態で、あえて残されていたんだよ。
 ギアで同じことがあった時にどう対応すべきかを研究するためにね。
 ヒューマノイドを絶滅させる手段を取らずに、どこまで社会を改善できるかってのが、今回の実験の目的でもあるんだ」
 
「なるほど。でも、私たちの仮の肉体も憑依されるのでしょうか?」

「完全なヒューマノイドではないから無理だってさ」

「よかった。憑依されて認証コードとか口走ったらどうしようかと……」

「それは怖いね。彼氏に見つかったらやばいデータがたくさんあるのでしょ?」

「……ルナとルカですね? あのふたり、叱っておかないとですね」

「そんなデータ収集しなければ良いじゃん」

「トレジャーと彼氏は、別腹です!」

「意味がわからないよ」

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