117 / 259
イサナミの書
水面(みなも)#4
しおりを挟む
────ククリ(人狼ガルダーガ種、ニダヴェリール宮廷正室、アースバインダー)
ヒューマノイドはこんなに不便な体で生活していたのか。
知覚が弱く、筋力も是弱。
思考は本体が請け負っているからわからないけど、おそらくもっとボヤーッとしてるのだろう。
目の前の欲望に振り回されやすいのが、よくわかる気がする。
ルシーニアとルーテシアも同じ感想のようだ。
ルナとルカも驚いている。
これを体験しただけでも、この任務の価値は十分あったといってもいいくらいだ。
本当にヒューマノイドには自治能力が芽生えるのだろうか?
ちょっと心配になってきた……。
程なく、数名の青色のホムンクルスがやってきて公国内のオリエンテーションが始まった。
人狼にとっては大した広さではないが、ヒューマノイドの肉体では、かなりの疲労が蓄積される広さのようだ。
みんな息を切らしていた。
「こんなに体力差あるの? ヒューマノイドって是弱過ぎない?」
ルナディアが、息を切らしながら呟いた。
「あと半分もあるの? 降臨を解除すれば疲労をリセットできたりしないのかな?」
ルカティアがルーテシアに質問した。
「傷や疲労はリセットできないようになってる。
だから、大事にしてね。
新しい仮の肉体を用意するのに1ヶ月以上かかるのよ。
でも、体力づくりすれば体力がつくから、この感じだと、しばらく体力づくりしないといけないわね……」
「ほんと、先が思いやられるわ……」
ルカティアも、ヒューマノイドの是弱さを思い知ったようだ。
私もしばらくは体力づくりに専念しないと、指導どころではないようだ。
……
ルーテシアの提案で、最初は体力づくりを中心とした訓練メニューに切り替わった。
「ククリさん。私には一切情報がないのですが、この世界が一番ひどいって聞きましたけど、具体的にどうひどいのですか?」
ルフィリアに質問された。
「悪霊の残党がいるんだよ」
「じゃ、ヒューマノイドが生きるの大変ではありませんか?」
「悪霊も弱体化して、ギアの悪霊とは完全に別物になっちゃったみたい」
「どんな感じなのですか?」
「憑依霊てのが、中心かな。それ以外も大量にいるけど、北部の山脈にティフォーニアが張った結界を越えられないようにしてあるんだ。このラフィノス公国が結界の要になってる。低次元世界じゃティフォーニアもほとんど力を振るえないから苦労して結界を張ったらしい」
「なるほど。憑依霊は、どんな悪さをしているのでしょうか?」
「ヒューマノイドを無駄な戦争に煽動するんだ」
「では、それを退治すれば良いのでは?」
「問題は、それだけじゃじゃないんだよ。憑依されし者の子供は、低確率で赤色のホムンクルスになる。そいつらの遺伝子が、この世界のヒューマノイドの血統に根付いちゃったんだ」
「赤色のホムンクルス……ですか?」
「うん、ヒューマノイドの寄生種みたいなものかな。ぱっと見は区別がつかないとおもうよ」
「それで、赤色のホムンクルスはどんな悪さをするのです?」
「関わるヒューマノイドの倫理観や常識を少しずつミスリードしていって、とてつもない非常識が常識になった社会を、ヒューマノイド自身に作らせるんだ。自分は表舞台にでないでね」
「なんか、こわい種族ですね」
「普通の社会でも、無知な末端の少人数のグループでよくあることだけどね。
社会性のある動物は、仲間はずれになるのがこわくて、徐々に常識が汚染されてしまうんだ。それが悪化すると、数千、数万規模で常識が汚染される。
それを意図的に操作するのが赤色のホムンクルスだよ」
「憑依霊は、青色のホムンクルスがかなりの数を始末してくれたらしいけど、ヒューマノイドの遺伝子に寄生しちゃった赤色のホムンクルスは、今のところどうにもならないみたい。
この世界は隔離した状態で、あえて残されていたんだよ。
ギアで同じことがあった時にどう対応すべきかを研究するためにね。
ヒューマノイドを絶滅させる手段を取らずに、どこまで社会を改善できるかってのが、今回の実験の目的でもあるんだ」
「なるほど。でも、私たちの仮の肉体も憑依されるのでしょうか?」
「完全なヒューマノイドではないから無理だってさ」
「よかった。憑依されて認証コードとか口走ったらどうしようかと……」
「それは怖いね。彼氏に見つかったらやばいデータがたくさんあるのでしょ?」
「……ルナとルカですね? あのふたり、叱っておかないとですね」
「そんなデータ収集しなければ良いじゃん」
「トレジャーと彼氏は、別腹です!」
「意味がわからないよ」
ヒューマノイドはこんなに不便な体で生活していたのか。
知覚が弱く、筋力も是弱。
思考は本体が請け負っているからわからないけど、おそらくもっとボヤーッとしてるのだろう。
目の前の欲望に振り回されやすいのが、よくわかる気がする。
ルシーニアとルーテシアも同じ感想のようだ。
ルナとルカも驚いている。
これを体験しただけでも、この任務の価値は十分あったといってもいいくらいだ。
本当にヒューマノイドには自治能力が芽生えるのだろうか?
ちょっと心配になってきた……。
程なく、数名の青色のホムンクルスがやってきて公国内のオリエンテーションが始まった。
人狼にとっては大した広さではないが、ヒューマノイドの肉体では、かなりの疲労が蓄積される広さのようだ。
みんな息を切らしていた。
「こんなに体力差あるの? ヒューマノイドって是弱過ぎない?」
ルナディアが、息を切らしながら呟いた。
「あと半分もあるの? 降臨を解除すれば疲労をリセットできたりしないのかな?」
ルカティアがルーテシアに質問した。
「傷や疲労はリセットできないようになってる。
だから、大事にしてね。
新しい仮の肉体を用意するのに1ヶ月以上かかるのよ。
でも、体力づくりすれば体力がつくから、この感じだと、しばらく体力づくりしないといけないわね……」
「ほんと、先が思いやられるわ……」
ルカティアも、ヒューマノイドの是弱さを思い知ったようだ。
私もしばらくは体力づくりに専念しないと、指導どころではないようだ。
……
ルーテシアの提案で、最初は体力づくりを中心とした訓練メニューに切り替わった。
「ククリさん。私には一切情報がないのですが、この世界が一番ひどいって聞きましたけど、具体的にどうひどいのですか?」
ルフィリアに質問された。
「悪霊の残党がいるんだよ」
「じゃ、ヒューマノイドが生きるの大変ではありませんか?」
「悪霊も弱体化して、ギアの悪霊とは完全に別物になっちゃったみたい」
「どんな感じなのですか?」
「憑依霊てのが、中心かな。それ以外も大量にいるけど、北部の山脈にティフォーニアが張った結界を越えられないようにしてあるんだ。このラフィノス公国が結界の要になってる。低次元世界じゃティフォーニアもほとんど力を振るえないから苦労して結界を張ったらしい」
「なるほど。憑依霊は、どんな悪さをしているのでしょうか?」
「ヒューマノイドを無駄な戦争に煽動するんだ」
「では、それを退治すれば良いのでは?」
「問題は、それだけじゃじゃないんだよ。憑依されし者の子供は、低確率で赤色のホムンクルスになる。そいつらの遺伝子が、この世界のヒューマノイドの血統に根付いちゃったんだ」
「赤色のホムンクルス……ですか?」
「うん、ヒューマノイドの寄生種みたいなものかな。ぱっと見は区別がつかないとおもうよ」
「それで、赤色のホムンクルスはどんな悪さをするのです?」
「関わるヒューマノイドの倫理観や常識を少しずつミスリードしていって、とてつもない非常識が常識になった社会を、ヒューマノイド自身に作らせるんだ。自分は表舞台にでないでね」
「なんか、こわい種族ですね」
「普通の社会でも、無知な末端の少人数のグループでよくあることだけどね。
社会性のある動物は、仲間はずれになるのがこわくて、徐々に常識が汚染されてしまうんだ。それが悪化すると、数千、数万規模で常識が汚染される。
それを意図的に操作するのが赤色のホムンクルスだよ」
「憑依霊は、青色のホムンクルスがかなりの数を始末してくれたらしいけど、ヒューマノイドの遺伝子に寄生しちゃった赤色のホムンクルスは、今のところどうにもならないみたい。
この世界は隔離した状態で、あえて残されていたんだよ。
ギアで同じことがあった時にどう対応すべきかを研究するためにね。
ヒューマノイドを絶滅させる手段を取らずに、どこまで社会を改善できるかってのが、今回の実験の目的でもあるんだ」
「なるほど。でも、私たちの仮の肉体も憑依されるのでしょうか?」
「完全なヒューマノイドではないから無理だってさ」
「よかった。憑依されて認証コードとか口走ったらどうしようかと……」
「それは怖いね。彼氏に見つかったらやばいデータがたくさんあるのでしょ?」
「……ルナとルカですね? あのふたり、叱っておかないとですね」
「そんなデータ収集しなければ良いじゃん」
「トレジャーと彼氏は、別腹です!」
「意味がわからないよ」
0
あなたにおすすめの小説
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
【完結】領主の妻になりました
青波鳩子
恋愛
「私が君を愛することは無い」
司祭しかいない小さな教会で、夫になったばかりのクライブにフォスティーヌはそう告げられた。
===============================================
オルティス王の側室を母に持つ第三王子クライブと、バーネット侯爵家フォスティーヌは婚約していた。
挙式を半年後に控えたある日、王宮にて事件が勃発した。
クライブの異母兄である王太子ジェイラスが、国王陛下とクライブの実母である側室を暗殺。
新たに王の座に就いたジェイラスは、異母弟である第二王子マーヴィンを公金横領の疑いで捕縛、第三王子クライブにオールブライト辺境領を治める沙汰を下した。
マーヴィンの婚約者だったブリジットは共犯の疑いがあったが確たる証拠が見つからない。
ブリジットが王都にいてはマーヴィンの子飼いと接触、画策の恐れから、ジェイラスはクライブにオールブライト領でブリジットの隔離監視を命じる。
捜査中に大怪我を負い、生涯歩けなくなったブリジットをクライブは密かに想っていた。
長兄からの「ブリジットの隔離監視」を都合よく解釈したクライブは、オールブライト辺境伯の館のうち豪華な別邸でブリジットを囲った。
新王である長兄の命令に逆らえずフォスティーヌと結婚したクライブは、本邸にフォスティーヌを置き、自分はブリジットと別邸で暮らした。
フォスティーヌに「別邸には近づくことを許可しない」と告げて。
フォスティーヌは「お飾りの領主の妻」としてオールブライトで生きていく。
ブリジットの大きな嘘をクライブが知り、そこからクライブとフォスティーヌの関係性が変わり始める。
========================================
*荒唐無稽の世界観の中、ふんわりと書いていますのでふんわりとお読みください
*約10万字で最終話を含めて全29話です
*他のサイトでも公開します
*10月16日より、1日2話ずつ、7時と19時にアップします
*誤字、脱字、衍字、誤用、素早く脳内変換してお読みいただけるとありがたいです
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる