ブルー・クレセンツ・ノート

キクイチ

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イサナミの書

月影(つきかげ)#3

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────リエル(人狼ルガルアルビオン・ルーノ種、アストレア宮廷正室、アースバインダー)


 島の悪霊討伐が終わり、詳細調査を実施したのち、大規模工事が始まった。

 青色のホムンクルスタナトス達は、周辺海域の悪霊討伐も行ってくれているようだ。
 ティフォーニアが地形を変動させ、島の北西部、南部、東部に山を隆起させ、島の南東部以外を水源を確保するための山脈で囲い強力な結界を張った。

 島の北西部の山を水面みなも、南部の山を一刃ひとは、東部の山を月影つきかげの総本山として、それぞれの特性にあった修練場の整備が開始された。

 また、島の中央部には、主要施設、宗術そうじゅつ流水りゅうすいの修練場などを建設し、基礎を身につけた若者が、三山さんざんのいずれかに旅立てる環境を整えた。
 島の南東部は、港となり、防衛施設や、貿易用施設などが整備された。
 中央部と南東部の間に、商業施設や教育施設などが整備されていった。
 

 最初のうちは青色のホムンクルスタナトス紫色のホムンクルスバンシーによって各施設を運営することになっているが、徐々にヒューマノイドに移管する予定になっている。


 この島は、イサナミ自治区と名付けられた。
 ヒューマノイドの国家として自立するまでは、結界の接続は行わず、閉じた世界として、準備を進ることになった。

 この島で生活する最初のヒューマノイドとなったのは、ラフィノス公国が赤色のホムンクルスサキュバリスを粛清する際に、孤児となった子供達だった。
 イサナミ自治区は、総勢24名の子供を引き取って、イサナミの道へと導いた。


 俺は、女性体になっているせいか、他の女性陣とおなしくらい子供に懐かれた。
 ティフォーニアの子供を産んだらこんな感じになるのかと思い、ちょっと複雑な気分だった。

 すでに常識が汚染されている子供達もいたが、共に生活しているうちに、改善していったようだ。
 
 定期的に、粛清が行われているようで、島の人口は徐々に増えていった。
 80名に達したところで、受け入れは一時中断された。
 面倒を見きれる人数を超えたら任務の意味がなくなるからだ。
 
 精神汚染が酷すぎる子供は、リシアさんとククリさんの滞在する診療所に運ばれ、整流と抑制流の処置がなされた。

 気流に変化を与えると、精神面にも大きな変化が現れた。

 ほとんどの子供は、抑制流までは必要なく、気流を綺麗に整流してやることで、精神汚染が解消し始めたらしい。

 これには、リシアさんとククリさんも驚いていたようだ。

 ククリさんは、この成果をヒューマノイドに引き継ぐための資料をまとめているようだ。

 俺は一刃ひとはの山の管理を任された。
 早急に後継者となるヒューマノイドを育成し、引き継がなければならない。

 水面みなもの山はルナディアさん、月影つきかげの山はルカティアさん、島の中央の主要施設と港はファルシオンが管理を任されている。
 
 ファルシオンの後継者の育成がもっとも大変だと思った。
 大抵のヒューマノイドは、どこかしら偏っているものだ。
 その中からバランスの良い子を見出し導かねばならないのだ。


 子供の面倒をみるのに大変で本当に休む暇がなかった。
 導く仕事というのは本当に大変だった。
 
 しかし、リシアさんとククリさんからは、絶対に子供に他の子供の面倒を見させないように注意されている。
 おかしな種を植え付けさせたくないためだ。
 社会として成立するまでは、忙しくても手を抜けないのだ。
 完全に汚染されて回復不可能になってしまったヒューマノイドのようにさせないためにも。


 俺の元に、感情を忘れ、何も話すことができなくなっていた子供がいた。
 リシアさんとククリさんの元に足繁あししげく通い、様々な療養をこころみた。
 できるだけ、俺のそばから離さず、手を握り、頻繁に抱きしめてやるようにいわれた。
 おれは可能な限りその子のそばに寄り添った。
 優しく語りかけ、頭を撫で、抱きしめ、一緒に寝るようにした。
 俺が任された他の子供達もその子を心配するようになり、いつもみんなで一緒にいるようになっていた。
 次第に感情も取り戻し、普通の子供としてみんなと接することができるようになった時は、涙が止まらなかった。

 ヒューマノイドの成長は信じられないくらい早かった。
 あっという間に大人になるのだ。
 これでは、心の成長が追いつかない。
 俺は、アンバランスな状態にならないように、様々な試みをした。
 それでも、成長が早すぎるのだ。
 
 最初の世代の子供達が成人した時、俺には、大人の姿をした幼い子供にしかみえなかった。

 でも、リシアさんとククリさんに相談したら、子離れするようアドバイスされた。

 ククリさんは、皆、ヒューマノイドとしては十分すぎるくらい立派に育ったから、母親として自信をもっていいと言われた。

 次の世代を育てないといけないので、彼らを信じて、たまに相談にのってあげながら、自立させるよういわれた。

 完全に別れるわけでもないのだが、どこか遠くに行ってしまうようで、とても寂しい思いがした。

 なぜか、俺が寂しがらないようにと、巣立った子供達がちょくちょく様子をみにきてくれる。
 同期の子供達は、家族のような絆で結ばれており、定期的にあっているようだ。
 すでに結婚し、子供をもうけた子供達もいるようで、自分の子供を連れて家族で俺のところにきてくれる子も最近は増えてきた。自分の子供を俺に抱いて欲しいとか、名付け親になって欲しいとかいろいろと慕われるようになった。とてもたくさんの家族が勝手に増えていくような気がして嬉しかった。
 

 次第に街が賑わい始め、青色のホムンクルスタナトス紫色のホムンクルスバンシーも姿を消し、政治や経済が機能し出すと、そろそろ、任務の終了が気になり始めた。

 指導者もたくさん育ち、彼らに任せても大丈夫になってきた。

 公務や休養、精密検査等で、定期的にギアに戻ってはいたが50年以上の間、ほとんどの時間を、ここで過ごしていた。

 俺には、三山さんざんおさも、評議会の議員連中も、初代総帥も、危なっかしい子供にしかみえなかった。

 ファルシオン、ルナディア、ルカティアも同意見だ。
 この状態で、あの世界と合流させて良いのものかと、ティフォーニアも悩み続けていたようだ。
 
 しかし、リシアさんとククリさんは、もう手を引くべきだと提案した。

 やれることはやり尽くしたし、これ以上関わると、イサナミ自治区はヒューマノイドのものではなくなると言われた。
 
 あとは、子供達に託し、我々は手を引いて、かれらの行く末を見守るべきだ、と言われたのだ。


 ティフォーニアは、熟考の末、現地任務の終了を宣言した。


 俺たちが、この大地で生活する最後の日、島民が大集合した。

 最初の子達は皆、年老いていたが、相変わらず、ガキのままだった。
 すでに亡くなった子もいる。
 ヒューマノイドの人生は短かすぎる。

 俺は、ガキのまま死んでいく掛買いのない子供達が造ったこの社会が末長く続くことを祈り、この世界から去った。
 

 ……

 
 降臨装置アドヴェント・システムのキャノピーの前に、ティフォーニアが立っていた。
 
「おつかれさま。長いこと拘束しちゃってごめんね」

「何言ってるんだよ。とてもいい経験ができたよ。感謝しているくらいだ。
 ヒューマノイドはあんな短い時間で生涯を終えるんだね。
 彼らの生き様から、とてもたくさんのことを学んだよ。
 俺が、育てられ、教えられ、導いてもらったんだと思う。
 あそこにいけてよかった。子供達に出会えてよかったよ」

「私もヒューマノイドにここまで深く関わるは初めてだから、感情移入しすぎちゃったみたい。特別扱いは程々にしないといけなかったのにね」

「これからが心配でならないけど、もう、見守ることしかできないんだね」

「あなた達が育てた子供が造った社会が、そう簡単に潰れるわけないでしょ」

「……そうだよね」

 ティフォーニアは俺を抱きしめてくれた。

 しばらくの間、二人で泣いた。
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