ブルー・クレセンツ・ノート

キクイチ

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イサナミの書

刹那(せつな)#3

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────ミユキ(アラクネ種、ニダヴェリール宮廷特務機関、第一補佐官、正室付き)


 今宮廷で日中、ククリンと一番一緒にいるのは私だ。

 ルカ姉は長官業務で忙しく、ハルカは宮廷第二補佐官としてルフィ姉とルナ姉から日々鍛えられている。
 ユキリンは、ルナ姉の秘書官なって多忙を極めている。
 ミヅキは毎日のようにウルさんが迎えにきて泣きながらロデリクに連行されている。
 
 特務での私の立場は、ルカ姉の補佐官だ。

 本来ミヅキがやるはずだったのだが、ウルさんのゴリ押しで空席になり、しかたなく私がルカ姉の補佐官をしているのだ。

 ルカ姉は、アストレアに派遣されている上級シャーマンの視察をしたり、新種族の面倒をみたりと、ほどんどの時間、ユグドラシルに滞在しているため、私は、ルカ姉から転送されてくるデータを、ククリンの部屋で、整理するのが日課となった。

 私が、ククリンの部屋で作業しているのは、最近のククリンは研究に没頭しすぎて休憩を忘れてしまうので、ロクシーさまの勅命をうけ、お側付きをまかされたのだ。


 最近は、ミヅキから恨めしそうに見られているので、ちょっと怖い。

 この前、ミヅキから月影会げつえいかいに混ぜてもらえるように頼み込まれたばかりだ。
 あのミヅキがそこまでするということは、かなり追い詰められているようだ。
 ルカ姉とミヅキの関係がいまだによくわからないので心配だが、ミヅキは物静かなので、混ぜても大丈夫だろう。


「ククリン、休憩時間だよ。お茶入れてよ」

「え? さっき飲んだでしょ?」

「あはは。どっちがボケ?」

 なんだかんだで、私の分までお茶を入れてくれるノリのいいククリン。
 実質ナンバー2なのに、どうしてここまで気さくなんだろう、この人は。


「ミユキがいてくれると、気が楽だね。たすかるー」

「私だけ、暇だしねー」

「特務の補佐官の仕事めんどうでしょ?
 ハルカやユキリンより忙しいはずだけど?」

「そうかな? 超楽だよ?」

「どれどれ? あはは、ほとんど自動化しちゃったのか」

「当たり前じゃん。ルカ姉のデータ、単純なのしかこないしね。ルカ姉も大概たいがいだよねー」

「でも、画伯の仕事がはかどりそうだね。
 いまは何の挿絵を描いてるの?」

「挿絵とかじゃなくて、適当な落書きだよ。思いつきで適当に描いてる」

「抽象画? 洗練されてるねー。すごーく綺麗だ。ミユキはセンスあるねー」

「そうかな? なんか物足りないんだよね、納得できないの」

 ククリンが、私と、私の絵を見て何か考えているようだ。

「どうしたの?」

「ミユキが何を物足りなく感じているかを知覚する練習をしているの」

「そんなの知覚できるの?」

「気流は精神状態にも影響されるからね。もしかしたらっておもってね」

「何かわかった?」

「それが、まるでわからない」

「あはは。ククリンおもしろすぎるよ。それを本気でやってるのだもの」

「私はいつも本気だよ?」

「花嫁修行も?」

「あれは、なかったことにしてる。その節はお世話になりました」

「編み物は任せてよ。糸はあつかいなれてるから。使える手の本数もちがうし」

「ミユキがいなかったら無理だった。ハルカはルフィリアと通じてるからだめだったし」

「ククリンが部屋に忍び込んできたときはびっくりしたよ。当時はあまり面識なかったしね。でも、ククリンは優秀なのに、普通の生活は壊滅的に無能だよね?」

「家事は得意だよ?」

「それ以外だよ。いろんなことができるのに、興味のないことまるでダメじゃん」

「まぁね、ミユキだって似たようなものでしょ?」

「それはいえてる。でもククリンほど偏ってないよ?」

「あはは。そうだね。私、ルカにも笑われたしね」

「でもそれ、改善する気まったくないよね?
 他人がやればいいと思ってるよね?」

「うん。それさ月影会げつえいかいの会則にするように提案しておこうよ」

「いいね。なんだかんだいっても3人ともそうだしね」

 ククリンは、いきなり、観測装置のデータを引っ張り出し、分析をはじめた。

「ククリン。休憩中は、研究しちゃだめだよー」

「あー、ごめん、つい」

「何やってるの? 何万歳だったっけ?
 落ち着きなさすぎるよね?
 ガルダーガだとまだ幼児?」

「あはは。返す言葉もない」

「で、何しようとしてたの?」

「ミユキが絵を描いている時の観測データがやけに気になってね。思いついたら体がうごいていた」

「私が納得できない部分を見つけるってこと?」

「うん。そんな感じ。その絵コピーさせてもらっていい?」

「いいよ。でもなんでそんなのが気になるの?」

「私も何か足りないって感じてたからなんだろうって気になったの。
 もし納得できるの描けたら見せてくれる?」

「うん。完成する保証はないよ」

「うん、それで十分。よろしくね」

 ククリンは、いつも妙なことばかり気にしている。
 ククリンの話ではそういうのが、あとで役に立つらしい。

 ……

 ミヅキが私の部屋にやってきた。
 今は全員個室なので、いままでハルカに気兼ねしていた分、最近は相談にちょくちょくやってくる。


「ククリさんのお側付きになりたい。ロデリクはもう嫌」

「あはは。さすがミヅキもギブアップ?」

「笑い事じゃない。どうにかならないかな?」

「ルカ姉に相談したら?」

「時間が合わなくて全然あえないよ。ウルさんに解放されるの夜遅くだもの」

「報告書に、『個人的に相談があります、お時間をいただけませんか?』、とか添えて見たら?」

「それ、すごーく、卑猥ひわいなかんじするけど?」

「あはは、ルカ姉、絶対驚くと思う」

「驚かそうとかおもってないから!」

「でもククリンだって、ウルさんには口出しできないよ?」

「ウルさんの興味をほかに移せないかな?」

「エリューデイルさんを毎日連れてきてあげたら?」

「無理に決まってるでしょ! できたら最初からそうしてる」

「ちょっとまってね。今の時間なら大丈夫なはず」

「うん」

 端末を手に取った。
「あ。ククリン? 私、私。
 新手の詐欺じゃないから!
 今大丈夫のはずだよね、だめだった?
 いまね、私の部屋でミヅキが泣いてるの、私じゃむり。どうにかして。
 愛弟子でしょ! 責任とってあげなよ!」

 程なく、ククリンがやってきた。

「あれ? ミヅキ泣いてないじゃん。
 でも、深刻そうだね、どうかしたの?」

 私は説明してあげた。

「なるほどねー。
 ウルさんのお気に入りを奪うのは至難の技だね。
 でも、アシダカ2名は何してるの?」

「物足りないみたいです。ロデリクの戦士の相手ばかりさせられてますね」
 ミヅキがつぶやいた

「ミヅキは特別すぎるからね、実質ルガルの上位種だから、手放したくないよね。
 ヴェルキエーレじゃ、上位種すぎて即死だろうし。一番ちょうどいい相手なんだろうな」

 ククリンは端末を手に取った
 誰かにメッセージを送ったようだ。
 おもむろに立ち上がると、勝手にお茶を入れはじめた。
 冷めきった2人のお茶を回収して、3人分のお茶を入れなおしてくれた。

 よくわからないけど、ククリンが世間話を始めたので話にのっていたら、ルカ姉がやってきた。

「ミユキ大丈夫?」

「は?」

「あれ? ミユキの救難信号が流れてきたけど? 誤報?」

「それ、私」
 ククリン、普通に呼び出しなよ!
 まぁ、そうでもしないと仕事切り上げてこれないか……。

「もぅ、とりあえず、お茶入れてよ」
 ルカ姉も慣れてるなー。
 ククリンが、ルカ姉のお茶を用意した。

 そしてククリンが説明してくれた。

「そっか、ミヅキ、追い詰められてたのね。気づけなくてごめん。
 でもどうしよっか?」

 ククリンは考えながら口を開いた。
「……ロデリクのアシダカがダメだね。
 ツーマンセルで鍛え上げれば、ウルさんが楽しくて仕方ないほどの遊び相手になるはずだからね。ロデリクの育成方法だとアシダカは限界まで育たないのかもしれないね。だとすると、ロデリクのアラクネもダメだね。性能的に考えるとアシダカとチームを組ませたら、ウルさんの捕獲だってできるはずなのだから。
 その辺りについてウルさんに苦情を入れて、ミヅキを引き上げさせるといい。すこしくらいは我慢してもらえるとおもうよ。自力で育てろっていってあげなよ」

 ルカ姉は、端末を開いて、ロデリクに配備中のアシダカとアラクネの詳細データを確認した。

「今月で、アストレアから引き上げられるから、来月からロデリクの子を集中して底上げする。ミヅキは、今月いっぱい休養を取りな、休養期間は何もしなくていいからね。気流がかなり乱れてるわね。気晴らしにアストレアでもいくといいよ。ウルさんには私から連絡しておくから安心してね。ごめんね、気づけなくて」

 ミヅキは、恐る恐るといった感じで、話し出した。

「あの、ルカティアさん、休養期間中だけでもよいので月影会げつえいかいに飛び入り参加させていただくことはできませんか? お邪魔でなければ」

「ミヅキなら大人しいから問題ないよ? でも3人揃うとかなりいい加減な感じになるから無理そうだったらすぐ言ってね。変に気を使うと休養にならなくなるから」

 ルカ姉的には、OKだったのか。ミヅキ次第ってことなのね。

「はい! ありがとうございます」
 ミヅキは嬉しそうだ。

「ミヅキ、『ククリン、ルカ姉』って呼ばなきゃだめだからね。会則だからね」

「え……。うん、頑張る」

 ちょっと、不安なようだ。
 でも怖いのは最初だけ。天井のシミの数を数えてればすぐ慣れるからねー。

 ククリンが、おもむろにたち上がると、なぜか、棚の方にあるいていった。

「ククリン、いきなり何やってるの?
 私の部屋でわけわからないことしないでよ」

「え? ああ、ミヅキのデータを収集してたの。ほら」
 ククリンはいつの間にか、私の棚に観測装置を設置していたようだ。

「ほら、じゃないでしょ。むしろホラーだよ!
 いつのまに設置してたの!?」

「さっき、この部屋にきてお茶お入れてたとき」

「棚の方に行かなかったじゃん」

「なにいってるの? こういうのは気づかれないようにしないとダメでしょ?」

「で、なにかわかったの?」

「持ち帰って調査する」

「もうないよね?」

「さて、どうでしょう?」

「ないな、その感じは、もうない」

「ミユキは鋭いね。さすがだね」

「いまだにわからないけど、ミユキの知覚って結構広いの?」
 ルカ姉が質問した。

「帯域はおなしくらいだよきっと。さすがアラクネ種だね。
 知覚はアシダカより高性能」

「鍛えればさらに向上するかな?」

「暇な時に知覚を刺激して遊んでるから、かなり発達しきってるはず」

「遊んでるって、私に何してくれてたのよ!」

「だって私の趣味だもの。ルフィリアから読書奪える?
 それとおなしくらいだよ?」

「ミユキ、私もおなじことされてるから、大丈夫。
 実害はないし、むしろ利点しかない」

 ルカ姉も被害者か。実害がないならまあいいか。
 たしかに、しばらく前から、知覚が鋭敏になった気がする。
 ククリンの仕業だったのか。

「ミヅキも被害者?」

「え? わからない……」
 まぁ、自覚ないよね……。

「ミヅキの知覚は、帯域が広すぎて、全部引き上げるのは無理だから、可能な範囲で引き上げておいた。あとは自力で引き上げるか、ヴェルキエーレにでもお願いするしかないね。世界龍オーヴァーロードでもいいけど」

「ククリさん、ミヅキってヴェルキエーレに混ぜても即死しない?」

「即死するね。レベルが違いすぎるから」

「ククリさんが能力を伸ばしきれないなら、ニーヴェルング鉱床に通わせようかとおもうけど、どうかな?」

「クラウソラスとオートクレールは、一応、うちの子だから、ティフォーニアに頼めば、可能だとおもう。リエルの件で、とても感謝されているから。いまがチャンスだね」

「そっかー、じゃ、明日話しつけに行く。ヴェルキエーレはミヅキの知覚のことわかるの? ルシオーヌなら、わかる。相談してみて」

「わかった、ありがと。ミヅキもロデリクよりもヴェルキエーレのところのほうが安心できるでしょ?」

「え? でも、即死……ですよね?」
 ミヅキは別の意味で不安なようだ。

「大丈夫、あたらなければ、何てことはないから」
 ククリンは適当すぎる。

「休養中に見学にするといいかもね。どちらにしろ明日話しをつけにゆくから、いっしょにおいで。ククリさんの部屋に向かいに行くね」

「はい。ありがとうございます」

「お茶を一緒にするついでに知覚を刺激してもらえばいいだけだから。くれぐれも一緒に訓練しちゃだめだよ」

 ククリン、それを先に言いなよ。
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