ブルー・クレセンツ・ノート

キクイチ

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影のセカイ

THE SAViOURS FROM HELL#2

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────ユキヒラ=アケチ(ヒューマノイド、イサナミ自治区、宗術そうじゅつ・師範)


 外遊から帰国した時、家には誰もいなかった。

 ユキナとカツラさんは、イチジョウのお屋敷に移ったらしい。
 戸籍もアケチから抜かれ、二人とも従姉妹扱いになっていた。

 身の回りの世話は、九尾きゅうび衆の女性が持ち回りで行ってくれている。

 宗家そうけ流水りゅうすいの管理下にあるイサナミ自治区の中心部にいるときは、お目付役のキサさんがつかないので、気兼ねなく生活できるが、三山さんざんへの入山するときは、キサ姉さんの同行が必要なので、とても息苦しい。
 とくに月影つきかげの山は、帰国後、キサ姉さん同伴でも入山許可が降りなくなった。

 総帥の長男が、どうしてこんな扱いを受けなきゃ行けなのだろう。
 
 理由がわかるから余計にイラつく。

 みんな僕が嫌いなんだ。

 みんなユキナが大好きなのだ。



 気がついたら体が成長して、昔の服は着られなくなっていた。
 
 半分はユキナが選んだものだ。
 ついでだから、全部処分して買い換えてもらった。
 僕の身の回りには、僕が選んだものしかなくなってしまった。

 モーターサイクルもそうだ。父さまが、買い換えてくれたのだ。
 前から欲しくて、ずっとおねだりしていたやつだ。
 嬉しくて、最近はツーリングばかりしている。

 
  ……


 ツーリング中、竜泉りゅうせんと呼ばれる水源地の一つを通りかかったら、ラフィノス大使館の車が止まっていた。
 しかも、三山さんざんの筆頭影衆かげしゅう頭領とうりょうが、勢揃いしていた。
 普通ではあり得ないことだ。
 
「セイゲンさん! こんにちは。何かあったの? 事件?」
 セイゲンさんは、九尾きゅうび衆の頭領とうりょうだ。

「ユキヒラか、すぐ立ち去れ。ガキには関係ない」
 ユキナのことは、若や姫とよぶくせに、僕はいつも呼び捨てだ。

「いいじゃん。すこしくらいは、おしえてよ」

「うるせぇ、クソガキ! 立ち去らねぇなら、この場で殺す」

「わかったよ、じゃあね」
 いつも下っ端の雑兵扱いだ。ムカツク。
 僕は、しかたなく引き返した。


 ……


 途中、若い女性がヒッチハイクをしていた。

「お姉さん、見かけない顔だね。どこの人?
 って、勝手になにしてるの?」

 その女性は勝手に予備のヘルメットをかぶり、僕の後ろに座った。
 インカムのスイッチが入った音がした。

「たすかるー。街を適当に案内してね」

「ねえ、かなり身勝手だよね?
 まじで殺すよ?」

「あはは、面白い子だね。とりあえず、案内よろしく」

「こっちが質問してるの。それにこたえないと殺すからね。女の人でも容赦しないよ?」

「あはは、イサナミ名物、鞘当てさやあて? 辻斬りつじぎり? 面白いね。
 外交問題になってもいいなら殺していいよ。私は気にしない」

「ラフィノスの人?」

「そんなところ」

「勝手に動き回っていいの? お目付役が必要なはずだよ?」

「君に決めた!」

「は?」

「早くしてよ、時間がなくなっちゃう」

「とりあえず、上に登って大使館の車のところに戻るね」

「なんで?」

「巻き添えにしないでくれる?」

「それは君が決めることじゃないよ、通りかかった君が悪いのさ。運が悪いね君」

 お姉さんの雰囲気が、急に別人になった。
 一般人じゃない、というか、イサナミにだってこんなやばい人いない。
 これ、僕じゃ敵わない。

「はやく案内してくれる? 時間が勿体無い。それとも、ここで死ぬ?。
 私は、モーターサイクルが手にはいれば構わないよ。
 操縦手として生かしておいてあげてるってこと、ちゃんと理解できてる?」

「外交問題になるよ。いいの?」

「君を殺したって外交問題になんてならないよ」

「僕、総帥の長男だけど?」

「なにそれ? すごいの?」

「……。わかったよ、どこに行きたいの?」

「街の様子を知りたい。面白いところだけ案内してね。つまらなかったら、殺すから」

「……。好みがわからないと無理だよ」

「頑張って。さて、君は、いつまで生き延びられるのかなー?
 解放されるまで生き延びられるといいね」

「……」


 ……


「右腕1本と、左足1本ですんだね。
 よく頑張った。今日はこれで解放してあげる」

 腕に何かを注射された。

「え?」

「挽回のチャンスをあげるよ。明日もよろしく。
 腕と足、貸しておいてあげるから取り戻せるように、寝ないでよく考えてきてね。
 君に埋め込んだナノマシン、私じゃないと取り出せないからね。
 下手なことしたら即死だよ」

「じゃ、宿までおくってね」

「大使館?」

「ちがうよ、月影つきかげのイチジョウ家、私フリーパスだから、自動認証の入り口通れるよ。ほら、はやく。夕食におくれちゃう。1ピコ秒でも遅れたら、殺すから」

「わかったよ……」

 僕は、その女性をイチジョウのお屋敷の前まで送った。
 本当にフリーパスで入山できてしまった。

「じゃ、すぐ帰って。明日は朝6時にここに着てね」

「ここ親戚の家だから、ついでに挨拶していきたい」

「今、私が言ったこと聞こえなかった? 死にたいの?」

「わかった、帰るよ……」
 せっかくだから、ユキナを一目見ておきたかったのに……。


 ……


 僕はコウメイの家に向かった。

 カザマ家の支援を受けて、私設の研究所を提供されているのだ。
 この短期間で、すでにイサナミとの取引でかなりの実績を上げている。
 カザマ家は思わぬ拾い物をしたと考えているようで、かなりの高待遇を受けているのだ。

「ねえ、どんな状態?」

「これ、何? 初めて見る。正体はよくわからないけど、嘘じゃないとおもう。下手に手を出さないほうがいいね。正直、ショックだよ。イサナミも飛び抜けて高度だと思ったけど、ラフィノスは魔法の領域だね。
 イサナミの技術力ならなんとかなる自信はあるけど、ラフィノスは飛び抜けすぎてる。サンプルをもらいたいくらいだ」

「それしたら、僕、即死だよね?」

「おそらくね」

「まいったなー、変なのに目をつけられちゃった。あの人、やばすぎる。イサナミの誰よりもやばいよ。ラフィノスにあんな化け物がいるなんて聞いたことなかった」

「ユキヒラくんがそこまでいうなんて、よっぽどだね?
 怖いものなしっておもってたけど?」

「たくさんいるよ。とくに元老院は化け物ぞろいだ。
 コウメイ、腕とか足、再生できる?」

「うーん。超精密な生体情報をバックアップしておけば培養くらいはいけるかも?
 問題は適合と神経の接合だね。無理だと思ってくれた方がいいよ。イサナミの技術でもそこまで到達してないし」

「コウメイはイサナミの研究所からも期待されてるくらいの天才なのでしょ?
 なんとかならない?」

「ごめん、それって、いまは魔法の領域だから、ラフィノスならできるかもだけど、イサナミでは無理だね」

「じゃぁ、外国の人から見た、イサナミの面白い場所ってどこかな?」

「どこも面白いね。独特の文化が根付いてる。しかも洗練された美があるね」

「具体的な場所をおしてよ」

 コウメイは、面白いと思う場所を列挙してくれた。

「……。それ。今日、全部回った」

「あらー、で、腕と足を取られたのどこ?」

「わからない、最後にまとめて評価されたから」

「相手の反応とか感じなかったの? 君とても鋭いでしょ?」

「それが、まるでわからない。あれ、生物なの?」

「すごいね。君がまるでわからないなんて、その人を研究したみたくなったよ」

「あ! それだ、キサ姉さんに車出してもらって、コウメイもついて着てよ」

「ちょっとまってよ、それ僕がやばいじゃん」

「いま、興味あるっていったよね?」

「たしかに、興味あるね。超美人なのでしょ?」

「うん、保証する。超美人」

「でもついて言ったら、殺されちゃいそうなのでパス」

「ついてきてくれないなら、ここで殺す」

「もう、居住権もらったからだめだよ。移住者だから鞘当てさやあて辻斬りつじぎりもできないよ」

「くそー、どうしようかなー」
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