刺朗

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探求②

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「しかしな、川原はシロだったんだ」
「というと?」
後藤は別の書面を出した。
「幸い、所轄は資料を持っていた。それはこの事件が今だ未解決だからだ。もう時効になっているが」
「未解決?」
「資料によると、赤ん坊、つまり凛はその後死体で見つかった。川原が保護されてからただちに警察は凜の捜索を始めたんだ」
「幸恵が言っていた「事件で」がそれなんですね」
「そうだ」
「凛はどういうふうに発見されたんですか?」
平井の問いに後藤は瞼を揉んだ。
「あちこちでな…」
それだけ言って沈黙した。
「あちこちで?」
平井が問うと
「川の下流のあちこちで体の一部が見つかったってことだ。川面を流れていたり川底に沈んでいたり、川べりに引っ掛かっていたり…」
「バラバラ殺人…?」
「そうだ、ひどいことだ。ただ、腕を切り落とされた、頭部を含む胸から上は…」
「上…は…?」
「川原の自宅のすぐ脇にある町内のゴミ捨て場に、ポリ袋に入れてポツンと捨てられていたそうだ」
「ポツンと?」
「そうだ。その日はごみの回収日ではなかったから、ポツンひとつポリ袋があったんだ。しかも第一発見者は幸恵だ」
「なぜ分かったんですか?」
「電話があったんだ」
「電話?誰から?」
「子供だよ。男の子の声で、ゴミ捨て場に探している子供がいるよってかかって来たらしい」
「男の子って、まさか…」
「川原の供述から判断して、どうやら水筒の子だろうと推測されたようだ。だから川原は嘘を言っていないと判断されたんだ」
「で、その男の子は見つかったんですか?」
「いや、見つからないまま今に至るだ」
「幸恵の様子はどうだったんですか?」
「胸から上だけの我が子を抱きしめて茫然としているところを、近隣の人が見て驚いたそうだ」
「警察へは?」
「すぐにその人が通報した」
「警察が行っても、幸恵は子供を放そうとしなかった…というより、まるで子供を抱いた銅像みたいに硬く固まっていたそうだ」
「なんとも…」
「警察はその状態のまま幸恵を病院に運び、睡眠薬を打ってようやく上半身を離したそうだ」
「凛の死体は調べられたんですよね」
「もちろんだ。バラバラの体が大半揃った時点ですぐに司法解剖された」
「結果は?」
「それがどうも、殺したのは大人だという結論でね」
「え?子供じゃないんですか?」
「それが不思議なんだ」
「死体には凛を圧迫したり掴んだと思われる大人の指圧痕がいくつも付いていたんだが、指紋が無くてね」
「手袋でもしてたんですかね?」
「そうだろうと推測はされた」
「うーん…あ、ところで、川原が薬で眠っていた証拠はあるんですか?狂言じゃ?」
「それがあるんだ」
「え?」
「川原が搬送された時、薬物ショックが疑われてね、さっそく胃洗浄されたんだが、その時に川原が言っていた強い睡眠薬の成分が認められていたんだ。これも川原をシロと判断する証拠のひとつになった」
「死亡推定時刻は?川原が眠る前に殺したってことは考えなかったんですか?」
「もちろん考えられたが肝心の死亡推定時刻が曖昧でね」
「なぜ?」
「死体がバラバラだったことや水に浸かっていたこと、またその時間が部位によってまちまちであることから断定幅が大きくなってしまったんだ。今の法医学ならもっと精密に断定されたかも知れないが、20年前だからな。それに川原には先に挙げた点からシロの可能性が強い。死亡推定時刻の証拠性は弱い。だからまず川原はシロだろうと判断された」
「例の、お上の事情ですか?」
「それもあったかもな」
「幸恵が抱いていた死体も水に浸かっていたんですか?」
「ポリ袋の中に水があったので水中に浸かってはいただろうが、どの程度浸かっていたのかは不明らしい」
「不明?」
「水でふやけた上にポリ袋で密封されたからなぁ、かなりひどい状態だったんだろう」
「それでも幸恵は抱いてたんですね…」
「母親だからな…」
「殺したのは大人、知らせたのは子供かぁ…」
「さらに不可解なのは、凜の入っていたポリ袋には子供の指紋しか付いていなかったということだ。明らかに袋を掴んだ痕跡があったそうだ」
「では、殺したのは大人で、詰めたのと運んだのと知らせたのが子供ということですか?」
「そういうことだな。ま、大人が手袋をしていたことは考えられるが…そして一番大きな発見があった」
「それは?」
「凛の口一杯に離乳食が押し込まれていたことだ」
「えっ?!」
「川原の死、川原の家族の死と同じ現象だ」
「なんていう…」
「あくまで警察は川原を完全なシロとは断定していなかったが、決定的な証拠がないから今に至るなんだよ」
「しかし少年の存在が気になりますね」
「いたのか、いなかったのか」
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