刺朗

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探求④

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【私は私を錯覚化することが出来るだろうか?私であり、私でない存在になれるだろうか?なれたらずいぶん楽になるのだが。そうだ、自分を錯覚化する方法を研究しよう】

「そう言ってますね」
「自分を錯覚化する?なんだそれは?」
「いや、私はこれを読んで、やはり姉のことを思い出したんです。母と看護師が見た姉と、私が見た姉、どちらもあの時あの場所にいた姉なんです。でもしていることは全く違うんです。私はこの先の記述に期待したのですが、残念ながらこの本に関する記述はこの短い呟きしかありませんでした。しかしこの他の本で、川原は何かを発見したかも知れないと読み進めました」
「で、あったのか?その方法は」
「ぼんやりと見つけたようです」
「ぼんやりと?」
「ま、先を読みます」
続きを読みかけた平井に、ふと、後藤は、先ほどから気になることがあるのを思い出し
「平井君、君は自分のことをどう呼んでいる?」
と聞いた。
「自分のこと?…わたし…私ですが」
「それはずっとか?」
「えぇ、もともと」
平井はいきなり何を聞くんだという顔をしている。
「ぼく…僕と呼んだことはないか?」
「ありませんよ?」
平井はいとも軽く言った。語尾を上げて軽く受け流した分、何を分かり切ったことを聞くんだという思いを感じた。
おかしい、そんなことはない、あいつはもともと自分を「僕」と呼んでいたはずだ、花田刑事部長に対しても「僕」で通すから、失礼だぞとたしなめたことがあったはずだ。
しかしあいつは嘘を言っていないようでもある…
どこからか記憶が歪んでいる、後藤は先に気になった凛の事件を知らないことから、じわじわと自分への疑問を感じていたのだが【人間は錯覚】という記述を聞いて、それが口に噴き出てしまったのだ。
ずっと一点を見て黙り込む後藤に、平井が気を遣って
「お疲れですか後藤さん?明日にしますか?」
と言葉をかけた。
「いや大丈夫だ。つまらんことを聞いてすまない。続けてくれ」
後藤は努めて明るく言った。
「では続けます。次は超常現象の本から、霊体についての記述に線が引いてありました」
「うん」

【霊体は実体化しているという説がある。分かりやすい例では、雑踏の中の何人かは、既に亡くなっているという話である】

【霊体は物質化する。(エクトプラズム…物質化する際の写真付き)】

【霊体の重さは20グラムとも50グラムとも言われている】

【霊体の重量を計る実験…死期の迫った患者のベッドを計りに載せて、死の前後で重量の誤差を計ったところ、死の瞬間に計りの目盛りが50グラム少ない方へ動いた。このことから、霊体は存在し、且つその重量は50グラムであると推測された】

【生霊とは、生きている人間の、主に怨みが体外に出て、怨みの対象に祟る現象である】

「霊に関する記述には結構棒線が引いてありましたね。それに対する記述はこうです」

【彼が私であるなら、霊体の分離によって2つの存在が生成出来るのではないか。生霊の記述は、その完成形だ】

【霊体の分離には、どのような具体的方法があるのだろうか…】

「霊については以上ですね」

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