刺朗

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可能性⑧

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後藤は再びノートに目をやった。何ページかを確かめるようにめくった後、ノートの後半部分をつまんで掲げた。そして
「私が今つまんでいる部分は、目下平井君と分析中ですが、この部分の概要をお話しして、私の報告を終わりたいと思います」
と言った。そして
「平井君、本は持って来てくれてるかな?」
と、会場席の平井に声をかけた。
「はい、持って来ています。あ、後藤さん、未読の本の中に、各担当の報告ボードの項目①に一致するものがあります」
「なんの本だね?」
平井は本の束を持ち、後藤の許へ歩きながら
「気功術と天体写真集ですね」
と言った。
「おいおい平井君、それを知ってたのか?」
刑事部長が平井に聞く。
「はい」
平井はとぼけたように答えた。
「ならばなんで後藤君がボードに書く時に言わなかったんだ?」
「あ、いや、すみません。どうも居眠ってたようで…気が付いたら後藤さん、もうボード仕上げてたから、後々の報告のと…き…に…と…」
最後はしどろもどろになっていた。
平井は部長に叱られたが、後藤は叱れなかった。
代わりに黙って自分の書いた項目⑤を訂正した。
例の現象が引っかかっていた。

後藤は努めて明るい顔で会場を見た。
「ともかくこれで、皆さんの調査の結果と、私たちの調査の結果がすべて一致しました。捜査は確実に一歩進んだのです」
そう呼びかけた。そして
「ノートをつまんだ部分には、これらの本の中から川原がピックアップした箇所についての彼の記述と、後は妻である川原幸恵さんについての記述があります。
概要ということでここでは各本のタイトルを述べるにとどめます。じゃ、平井君頼むよ」
後藤は一旦、会場の最前列の席に座った。
「では、川原宅から拝借した書籍のタイトルを述べます。私の判断で、各本の簡単な内容と、川原が抜粋した箇所は付け加えます。川原のコメントの詳細と妻、川原幸恵さんに対する記述は分析が済み次第、皆さんにお知らせします。後藤さん、それでよろしいですか?」
後藤は頷いた。
平井はゆっくりと本のタイトルを読み上げ始めた。
「まず【世界の宗教書】…これは様々な宗教書の概要説明の本です。ちなみに川原は、この中のキリスト教の神と悪魔を取り上げています。次は【錯覚の構成】…これは医学エッセイです。川原は人間の細胞や神経に興味を示しています。次は【超常現象と云われるもの】…ここから川原は、霊魂について抜粋しています。次は【something great】…英字のタイトルなんですが、これは仏教についての話です。川原は仏の絶大な力を取り上げています」
ここで平井は一呼吸入れた。
会場の刑事たちは、メモに追われていた。
刑事たちのペンの動きが一段落したのを見て、平井は話を再開した。
「今のところ、ここまでが後藤刑事と解析を進めたもので、後は未読の本となりますので、タイトルと何の本かのみ申し上げます」
平井は未読の本に、しおりのように挟んだメモ紙を抜き、本を掲げながらそれを読んだ。
「この本は天体写真集で【時空の姿】というタイトルです。次は精神世界の本で【叶っている願い】というタイトルです。えー、これは気功の本で【流れの制御と支配】というタイトルです。それからこれは【思い込みが現実化する時】という、心理学エッセイです。以上です」

平井の説明が終わり、後藤と交代した。
「平井君の説明にあった単語をいくつか列記します」
後藤はまた、ホワイトボードに向かった。そして
【神】
【悪魔】
【霊魂】
【仏力】
【時空】
【叶う】
【願い】
【制御】
【支配】
【現実化】
と書いた。
会場へ向き直り後藤は言った。
「これらの単語の列記だけ見ても、川原は何かと対峙し、何かの力により、何かを現実化し、何かを支配したい。そのために何かをする。そんな意図が、感じられるのです。そのそれぞれが何なのかを今、私は追求しているのです。
皆さんはこれらの言葉から、何を感じられるか、考えてみて下さい。詳細な見解は先ほど平井君が言ったように、分かり次第お知らせしますので、それを追加資料として、思考して下さい」
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