刺朗

weo

文字の大きさ
29 / 55

対決④

しおりを挟む
「しかし妙なプロポーズだな…」
後藤が苦笑まじりに言った。
「私は以前、奥さんの顔と川原の顔が釣り合わないなんて言いましたが、まさかこんな形で再現されるとは思いませんでした」
平井は読んだ所を見返しながら言った。
「じゃ、続けます」
「頼むよ」

「君を得たのはよかったのだが、僕は同時にたまらない不安を得ることになった。それは僕の性癖だ。
僕は愛する者をみんな殺して来た。
可哀想ゆえに愛し、愛するゆえにいたぶり、いたぶるゆえに可哀想になり、可哀想ゆえに愛する…その繰り返しの果てに、最上で最悪の愛情表現、つまり殺害に及んでしまったのだ。
僕は君を人生の勝利者にすると約束した以上、君を殺害してはならないと心に決めた。
そのためには、自分の心の中の善悪、神と悪魔、良心と邪心を切り離して、悪を葬らなければならないと思った。
結婚と前後して僕は、様々な本を読み漁った。
心理学に精神医学、スピリチュアルに脳医学、仏教にキリスト教、心霊現象、宇宙の本も読んだ。超常現象の本も読んだ。挙句は気功術までだ。
そして僕は見つけたんだ。

【四次元殺害】

という方法をね。
その方法で、悪を、悪魔を殺すんだ」

「ちょっと止めてくれ」
後藤は平井を制した。
「四次元殺害?なんのことだと思う?」
平井に尋ねてみた。
「川原のノートに書いてあった様々な本の使用目的は、刺朗を分離させて自分を殺させることでしたよね?…でもここでは、その反対のこと…悪とか悪魔はおそらく刺朗でしょう?その刺朗を殺すみたいなことを言っていますね?…しかし四次元殺害の方法も目的も、ここまでではさっぱり分かりません」
「川原はなんのために死んだんだ?」
「頭が混乱します…ただ、河原がどこかで生きているような気がするという予感は、もしかして当たっているかも」
「じゃ、どこにいるんだ?川原は」
「とにかく先を読みましょう」

「幸恵、僕は自分の中の悪魔と闘う。そして勝って必ず君の許へ帰る。これも約束だ。約束は必ず果たす」

「奥さんに宛てた章はこれで終わりです。次の章には【第二章 真相】というタイトルが付いています」
平井はさっそく読もうとしたが、後藤は
「少し頭を整理したい。すまないがコーヒーを淹れてくれないか」
と言って目頭を押さえた。
平井は給湯室のコーヒーサーバーへ行くため、部屋を出た。
後藤ひとりになった部屋では、テーブルの上の紙の束の、一番上の一枚が時々、風も無いのに起き上がるようにめくれた。
(真相…なんの真相だ?…過去の事件か、あの不可思議な現象か…)
後藤は、場合によっては自分の命に関わることが、この先明らかになるようで不安だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...