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対決⑤
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平井がコーヒーを2つ持って帰って来た。
「すまないね」
後藤は、湯気の立つ黒い液体を口に含んだ。そして平井に言った。
「この後の紙束には、私と君の命に関わることが書かれているかも知れない。そんな予感がするんだ。なぜなら川原は、わざわざ私と君を選んで何かを仕掛けていると思うからだ」
「まるでお化け屋敷ですね」
平井は他人事のように楽し気に言った。
「遠足だ」
後藤も楽し気に返した。
「そうさ、この先はお化けに襲われるんだ、私らはね」
コーヒーの効果か、後藤は気持ちに少しのゆとりと、大きな覚悟が湧いて来た。
「第二章、真相…読みます」
「あぁ」
この狭い部屋、2人の刑事だけの空間で、川原の告白が開く。
「僕の生まれた家は、生活水準で言えば平均より少し低かった。
父親も母親も学歴はなく、頭より体を使う仕事にしか従事出来なかったようだ。
だから給料も低い学歴ゆえに少なく、生活は貧しかった。
しかし世の中公平なもので、裕福な人間は水平しか見られない。
つまり現状維持に身を削るしか出来ない窮屈しかないが、貧しい人間は、上と下を見る余裕がある。
つまり向上するか諦めるかの選択肢があるのだ。
僕の親は、その前者だった。
自分たちが味わえなかったひとつ上の世界を、子供の目が見ることを願っていた。
そんな両親の、1番目の子供として僕はこの世に生を受けた。
しかしそれは僕の両親にとって、大きな間違いだった。
僕は両親の願いと、両親そのものを葬ってしまったのだから。
唯一葬らずに済んだ両親の願いがこの自分とは皮肉なものだ。
両親と弟、妹、みんな愛する人たちだった。なぜ愛したかは可哀想だったから。
なぜ可哀想かは、虐めたからだが。
彼らに対して僕がした虐めは、ノートに記したのでここには書かないし、もう書きたくないが、果たして彼らは、犯人が僕だと知っていたろうか?
それは分からない。
仮に分かっていたとしても、彼らは誰として僕を責めなかった。
いや、責められなかったのかも知れない。
それはこの僕の、きっと両眼の中に、凶悪な光を見て恐ろしかったのかも知れない。
もっとも1番下の妹は、なんの判別もつかなかったかも知れないが。
分からなかったなら分からないまま僕に対して、毎日に対して素直でいる彼らの様子がまた、僕の憐憫を誘った。
そんなことを考えるとますます彼らが可哀想になり、また愛し、虐めた。
そしてとうとうあの日がやって来たんだ。言い換えれば、発作的に僕の愛情がピークに達した日だ。
なんの変哲もない、平日の夕食の時間だった。
貧しい家のちゃぶ台に載った、母親の、粗末だが心尽くしの料理を、僕と弟、父親の膝に乗った妹はじっと見ていた。
この日まで毎日、夕食はみんなで囲んで食べていた。
この日まではだ。
「すまないね」
後藤は、湯気の立つ黒い液体を口に含んだ。そして平井に言った。
「この後の紙束には、私と君の命に関わることが書かれているかも知れない。そんな予感がするんだ。なぜなら川原は、わざわざ私と君を選んで何かを仕掛けていると思うからだ」
「まるでお化け屋敷ですね」
平井は他人事のように楽し気に言った。
「遠足だ」
後藤も楽し気に返した。
「そうさ、この先はお化けに襲われるんだ、私らはね」
コーヒーの効果か、後藤は気持ちに少しのゆとりと、大きな覚悟が湧いて来た。
「第二章、真相…読みます」
「あぁ」
この狭い部屋、2人の刑事だけの空間で、川原の告白が開く。
「僕の生まれた家は、生活水準で言えば平均より少し低かった。
父親も母親も学歴はなく、頭より体を使う仕事にしか従事出来なかったようだ。
だから給料も低い学歴ゆえに少なく、生活は貧しかった。
しかし世の中公平なもので、裕福な人間は水平しか見られない。
つまり現状維持に身を削るしか出来ない窮屈しかないが、貧しい人間は、上と下を見る余裕がある。
つまり向上するか諦めるかの選択肢があるのだ。
僕の親は、その前者だった。
自分たちが味わえなかったひとつ上の世界を、子供の目が見ることを願っていた。
そんな両親の、1番目の子供として僕はこの世に生を受けた。
しかしそれは僕の両親にとって、大きな間違いだった。
僕は両親の願いと、両親そのものを葬ってしまったのだから。
唯一葬らずに済んだ両親の願いがこの自分とは皮肉なものだ。
両親と弟、妹、みんな愛する人たちだった。なぜ愛したかは可哀想だったから。
なぜ可哀想かは、虐めたからだが。
彼らに対して僕がした虐めは、ノートに記したのでここには書かないし、もう書きたくないが、果たして彼らは、犯人が僕だと知っていたろうか?
それは分からない。
仮に分かっていたとしても、彼らは誰として僕を責めなかった。
いや、責められなかったのかも知れない。
それはこの僕の、きっと両眼の中に、凶悪な光を見て恐ろしかったのかも知れない。
もっとも1番下の妹は、なんの判別もつかなかったかも知れないが。
分からなかったなら分からないまま僕に対して、毎日に対して素直でいる彼らの様子がまた、僕の憐憫を誘った。
そんなことを考えるとますます彼らが可哀想になり、また愛し、虐めた。
そしてとうとうあの日がやって来たんだ。言い換えれば、発作的に僕の愛情がピークに達した日だ。
なんの変哲もない、平日の夕食の時間だった。
貧しい家のちゃぶ台に載った、母親の、粗末だが心尽くしの料理を、僕と弟、父親の膝に乗った妹はじっと見ていた。
この日まで毎日、夕食はみんなで囲んで食べていた。
この日まではだ。
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