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対決⑦
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母親が持ち上げかけていたお盆がそのまま台所のテーブルに落ちた。
ガシャンと音がした。
茶碗のいくつかがひっくり返り、ご飯がこぼれた。
小さなピンクの茶碗があった。
妹のだ。
中から卵を混ぜたおかゆが流れ出た。
【大丈夫かー】
父親の呑気な声がした。
僕は居間に入り、こちらに向いていた弟の背中を刺した。
【痛い!】
弟の声がした。
宙を見ながら2度3度刺した。
声はしなかった。
代わりにちゃぶ台の上の食器がぶつかる音がした。
目を下ろしたら、弟のイガグリ頭の後頭部が見えた。弟はちゃぶ台に突っ伏していた。
【狂ったか!】
そう叫ぶ父親は、妹を抱きしめ突っ立っていた。そちらを向くと、父親はちゃぶ台を蹴り飛ばした。
一瞬、弟の眠ったような顔が見え、ちゃぶ台は、仰向けにひっくり返った弟の体の上に被さった。
辺りに母親の料理がちらばった。
僕はまっすぐ走り、父親の胸や腹を刺した。
父親は妹を上に掲げて守っていた。
何度か刺すうち、その手がパッと開いて妹が落ちた。
畳に落ちた妹は泣き叫んでいたが、刺したら静かになった。
妹から包丁を抜いていた時、不意に重いものが背中に被さって来た。
【貸しなさい…】
重いものは囁いた。
【包丁を…貸しなさい…】
母親の声だった。
妹から抜いた包丁を持つ僕の右手の脇に、だらんとぶら下がる母親の手は痙攣していた。
なぜか僕は
【持つの?】
と普通に言った。
痙攣した手に包丁を載せると、手は強く握った。覆い被さる重いものが軽くなり、直後に背中に痛みが走った。
…刺されはしなかった。
そして再び重くなった。
僕は、ほふく前進するように重いものをすり抜け、台所に行き、テーブルの上にひっくり返った茶碗からこぼれた飯粒をかき集めた。
そしてみんなの口に詰めた。
妹には、ピンクの茶碗からおかゆをスプーンですくい、半開きの唇をつまみ開けて注いでやった。
乳歯が折れた隙間が見えた。
そこにはもう、永久歯は生えて来ないんだと思った。
最後に僕も血まみれのご飯を食べた。
赤い味がした。
みんなの夕食は終わった。
僕は母親の体の下に潜り込んで、うつ伏せに平たくなり、目を瞑った。
…母親の香りがした。
【ごめんなさい】
と呟いた」
ガシャンと音がした。
茶碗のいくつかがひっくり返り、ご飯がこぼれた。
小さなピンクの茶碗があった。
妹のだ。
中から卵を混ぜたおかゆが流れ出た。
【大丈夫かー】
父親の呑気な声がした。
僕は居間に入り、こちらに向いていた弟の背中を刺した。
【痛い!】
弟の声がした。
宙を見ながら2度3度刺した。
声はしなかった。
代わりにちゃぶ台の上の食器がぶつかる音がした。
目を下ろしたら、弟のイガグリ頭の後頭部が見えた。弟はちゃぶ台に突っ伏していた。
【狂ったか!】
そう叫ぶ父親は、妹を抱きしめ突っ立っていた。そちらを向くと、父親はちゃぶ台を蹴り飛ばした。
一瞬、弟の眠ったような顔が見え、ちゃぶ台は、仰向けにひっくり返った弟の体の上に被さった。
辺りに母親の料理がちらばった。
僕はまっすぐ走り、父親の胸や腹を刺した。
父親は妹を上に掲げて守っていた。
何度か刺すうち、その手がパッと開いて妹が落ちた。
畳に落ちた妹は泣き叫んでいたが、刺したら静かになった。
妹から包丁を抜いていた時、不意に重いものが背中に被さって来た。
【貸しなさい…】
重いものは囁いた。
【包丁を…貸しなさい…】
母親の声だった。
妹から抜いた包丁を持つ僕の右手の脇に、だらんとぶら下がる母親の手は痙攣していた。
なぜか僕は
【持つの?】
と普通に言った。
痙攣した手に包丁を載せると、手は強く握った。覆い被さる重いものが軽くなり、直後に背中に痛みが走った。
…刺されはしなかった。
そして再び重くなった。
僕は、ほふく前進するように重いものをすり抜け、台所に行き、テーブルの上にひっくり返った茶碗からこぼれた飯粒をかき集めた。
そしてみんなの口に詰めた。
妹には、ピンクの茶碗からおかゆをスプーンですくい、半開きの唇をつまみ開けて注いでやった。
乳歯が折れた隙間が見えた。
そこにはもう、永久歯は生えて来ないんだと思った。
最後に僕も血まみれのご飯を食べた。
赤い味がした。
みんなの夕食は終わった。
僕は母親の体の下に潜り込んで、うつ伏せに平たくなり、目を瞑った。
…母親の香りがした。
【ごめんなさい】
と呟いた」
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