刺朗

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三次元へ②

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「電話?」
「少年の電話です」
「少年?誰だ」
「あなたが河原で会って、以来行方の分からない少年ですよ」
「あの水筒の?」
「そうです」
「彼は対人恐怖症で、顔を合わすとまともに喋れませんが、電話なら、普通に話せたんです」
「電話は確かにあった。僕が受けて脅した」
「可哀想に、彼はあなたが脅した恐怖で失語症になってしまいました」
「失語症?なんでお前が知ってる。後藤!いや、幸恵!」
「それはまたあとでお話ししますよ」
後藤は不気味に微笑んだ。
「…おい幸恵、オレはこの先何を言うんだ?!」
川原は頭を掻きむしった。
「まぁ、落ち着いて。彼はどうしても伝えたかったんです。あなたが赤ん坊を殺したと」
「で、どうしたんだ?!」
「手紙を書いたんです。拙い字で、赤ん坊はあなたに殺されたとね」
「それをどうしたんだ?!」
川原は答えを急かす。
「その前に、彼はあなたの娘、凛さんをとても可愛がっていたんですよ」
「なんだって?」
「幸恵さんは、あなたが会社に行っている間、凛さんを抱いて、あの河原によく行ってたんです。そこで少年と出会った。少年は純真な目で、幸恵さんに抱かれている凛さんを眺めていた。時には幸恵さんと凛さんと一緒に、あなたの家、つまりここまで歩いて来てたんです」
「…」
「それだけにあなたが我が子を手にかける過程を見るのが辛かったし、母親である幸恵さんが何も知らないのが許せなかったんです」
「電話番号はどうやって知ったんだ?」
「あの頃は携帯電話はまだ普及し切っていませんでしたよね?その代わり、電話帳はまだ幅を利かせていましたし、104って電話番号案内もありました。どちらもだいたいの住所が分かれば番号を知ることが出来ます」
「幸恵はなぜ黙っていたんだ?」
「おそらくあなたを観察していたんでしょう」
「観察?…おい、幸恵、実体のおまえはいったいどこにいるんだ?出て来てわけを話せ!観察ってなんなんだ?!」
「まぁ落ち着きなさい」
後藤はなだめた。
「落ち着けるか!」
「じゃぁ言いましょう。幸恵さんは簡単に復讐したくなかったんですよ」
「あなたが長い期間、幸恵さんの作った弁当を川に流し続けているからです」
「そのことも知っているのか?幸恵は」
「えぇ、少年が手紙で伝えたんですよ、そのこともね」
「なんで少年が知ってたんだ?」
「少年は大抵河原にいたんですよ?そういう光景は何回も見れるでしょう?」
「それが幸恵の観察とどう関係があるんだ?…あー!まどろっこしい!顔を見せろ、幸恵!」
「あなたをいつかいたぶってやろうってことを楽しみにするのが生き甲斐になったからだわ!」
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