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三次元のエピローグ④
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「ところで今回私が呼ばれた理由とは?」
伊藤は肝心なことを聞いた。
「そうですね、それをまず話さなければなりませんね」
今井は苦笑し
「ちょっと取って来ます」
と前置きして部屋を出た。
今井を待つ間、伊藤は中井に質問した。
「君は奥さんに電話をしましたか?」
中井は筆記した。先ほどから見る彼の筆記は速い。言葉を話すスピードで文字が姿を現して来る。彼の風貌や動作は鈍さしか連想させないが、筆記する様には狂気性すら浮かぶ。彼は特殊な能力を持っていると伊藤は感じたが、同時にその狂気性をもしかしたら川田は利用したのかも知れないと思った。
目の前で「即答」とも言える速さで中井は
(はい、赤ちゃんの居場所を伝えるためにその日の夜中に)
と書いた。
伊藤は記憶をたぐった。
確か事件のあった日の夜に、川田緑郎の妻である雪子から川田の捜索依頼が入ったんだ。そうだ、その次の日の夜明け前頃に雪子がゴミ置き場で放心してるいると、早朝の散歩をしていた住民から通報があった。雪子は赤ん坊の頭を抱えて離さなかった。そうか、あの直前に彼は電話を入れていたのか。
そしてその後、河川敷で気を失っている川田が発見された。あの事件の発端だ。
宙を見ながら記憶を反すうしていると、今井が紙束を抱えて部屋に入って来た。
今井はテーブルに紙束を置いた。
紙束の一番上の1枚には、中央に「刺朗」と印字されていた。
「これは?」
伊藤の問いに
「彼が書いた一種の告白小説です」
と、今井は答えた。
中井がメモ用紙に何か書こうとしたが、それを制して
「これは私が話そう」
今井が中井を見て言った。
「彼がこれを書くに至った経緯は私から話します」
今井は伊藤に向き合った。
「先ほども申しました通り、彼、つまり中井君の両親は育児放棄をして、ここに彼を預けました。以来ずっと、彼はここにいます。あ、中井君は29歳に、もうなったかな?」
不意の問いかけに、中井は頷いた。
「例の事件は、彼が9歳の時に起きました。まぁ、先に言った通り彼は事件に関係ないと私どもは認識していました。ただ事件の直後から彼は、喋ることが出来なくなってしまったのです。実は先ほど私が頭を下げたのには2つ理由があって、その1つは彼の失語症が伊藤さん、あなたのせいだと思っていたからです。
あなたが彼に会わせてほしいと食い下がった時期と、彼が喋れなくなった時期がたまたま一致していたので、私は勝手に思い込みました。警察に抗議したのも、その思い込みからでした」
今井は伊藤に改めて頭を下げた。
「今井さん、いいんですよ、昔の話です。それより今井さん、もう1つの理由とはなんなのですか?」
「その結果、事件が時効になったことです。私はつい最近になって、この小説の中で事実を知りました。先ほど彼も言いましたが、彼が失語症になった本当の理由は川田への恐怖だったのです」
「しかし事件の直後は喋れたんですよね?さっき席を外されていた間に彼に聞いたんですが、川田の奥さんに電話をしたようですし、当時我々も子供からの電話の件は聞いていました。その後、何かあったのですか?それとも、彼は次第に悪くなって行ったのですか?」
「ここからはそれも踏まえてお話しします」
今井は呼吸を整えた。
伊藤は肝心なことを聞いた。
「そうですね、それをまず話さなければなりませんね」
今井は苦笑し
「ちょっと取って来ます」
と前置きして部屋を出た。
今井を待つ間、伊藤は中井に質問した。
「君は奥さんに電話をしましたか?」
中井は筆記した。先ほどから見る彼の筆記は速い。言葉を話すスピードで文字が姿を現して来る。彼の風貌や動作は鈍さしか連想させないが、筆記する様には狂気性すら浮かぶ。彼は特殊な能力を持っていると伊藤は感じたが、同時にその狂気性をもしかしたら川田は利用したのかも知れないと思った。
目の前で「即答」とも言える速さで中井は
(はい、赤ちゃんの居場所を伝えるためにその日の夜中に)
と書いた。
伊藤は記憶をたぐった。
確か事件のあった日の夜に、川田緑郎の妻である雪子から川田の捜索依頼が入ったんだ。そうだ、その次の日の夜明け前頃に雪子がゴミ置き場で放心してるいると、早朝の散歩をしていた住民から通報があった。雪子は赤ん坊の頭を抱えて離さなかった。そうか、あの直前に彼は電話を入れていたのか。
そしてその後、河川敷で気を失っている川田が発見された。あの事件の発端だ。
宙を見ながら記憶を反すうしていると、今井が紙束を抱えて部屋に入って来た。
今井はテーブルに紙束を置いた。
紙束の一番上の1枚には、中央に「刺朗」と印字されていた。
「これは?」
伊藤の問いに
「彼が書いた一種の告白小説です」
と、今井は答えた。
中井がメモ用紙に何か書こうとしたが、それを制して
「これは私が話そう」
今井が中井を見て言った。
「彼がこれを書くに至った経緯は私から話します」
今井は伊藤に向き合った。
「先ほども申しました通り、彼、つまり中井君の両親は育児放棄をして、ここに彼を預けました。以来ずっと、彼はここにいます。あ、中井君は29歳に、もうなったかな?」
不意の問いかけに、中井は頷いた。
「例の事件は、彼が9歳の時に起きました。まぁ、先に言った通り彼は事件に関係ないと私どもは認識していました。ただ事件の直後から彼は、喋ることが出来なくなってしまったのです。実は先ほど私が頭を下げたのには2つ理由があって、その1つは彼の失語症が伊藤さん、あなたのせいだと思っていたからです。
あなたが彼に会わせてほしいと食い下がった時期と、彼が喋れなくなった時期がたまたま一致していたので、私は勝手に思い込みました。警察に抗議したのも、その思い込みからでした」
今井は伊藤に改めて頭を下げた。
「今井さん、いいんですよ、昔の話です。それより今井さん、もう1つの理由とはなんなのですか?」
「その結果、事件が時効になったことです。私はつい最近になって、この小説の中で事実を知りました。先ほど彼も言いましたが、彼が失語症になった本当の理由は川田への恐怖だったのです」
「しかし事件の直後は喋れたんですよね?さっき席を外されていた間に彼に聞いたんですが、川田の奥さんに電話をしたようですし、当時我々も子供からの電話の件は聞いていました。その後、何かあったのですか?それとも、彼は次第に悪くなって行ったのですか?」
「ここからはそれも踏まえてお話しします」
今井は呼吸を整えた。
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