刺朗

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三次元のエピローグ⑧

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「一ヶ所だけ、私の名前があったけど、あれは私自身のことかな?」
(そうです。想像ですが)
「まぁ、あんな感じだったな。ところでこの話は、赤ん坊の事件の所は概ね事実をなぞっているだろうけど、例の無理心中なんかは完全な想像かい?」
(話を作るに当たって、川田緑郎をネットで検索していたら、無理心中のことが出て来たんです。殺害場面やそれまでの経緯は、完全な創作です)
「川田の印象から想像した?」
(私が味わった、川田の恐怖からでしょうね)
「じゃあ刺朗も?」
(あれは殺戮時の川田の眼ですよ。笑ってるんです、エクスタシーなのか)
「ただ、小説と事実の一番の違いは、少年、つまり君が事実を知らせる手紙を出したか出していないかだね?あれは話を完結させるために出したのかな?」
(そうですね。話の完結より、赤ちゃんの供養のためでしょうね)
「話は変わるけど、事件のあと川田を見たのは例の河川敷だけ?」
(いえ、何回か見かけてますが、見られないうちに隠れるか逃げるかしてました)
その姿がだんだん成長して、今、川田にとって中井は、記憶の外の人間になっているんだなと伊藤は思った。
事件はそれなりに落ち着いている。誰も何も言わなければ、誰一人苦しむ者はいないのだ。しかし、川田だけは苦しんでもらいたい。そのためには雪子も苦しまねばならない。
いつしか伊藤は、小説の中にあった「人生の勝利者」を雪子にもたらすにはどうしたらいいかを考える川原の姿になっていた。
真実を晒して川田を裁判所に送るのか、あるいは雪子が復讐するのか、真実を隠したまま、夫婦で平穏な一生を送るのか、どれが雪子の勝利なのだろう?
「人生の勝利者って、君の考えた言葉かい?」
(はい、そうです。私のささやかな願いです)
「なぁ、どうしたら雪子さんは勝利者になれると思う?」
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