好きな人は、3人

秋風いろは

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9.学祭前

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 翌週、真希と食堂でピラフのホワイトソースがけを食べていると、漫画研究会の先輩から話しかけられた。

 ピンクの細いフレームの眼鏡が似合う、大人っぽい女性だ。

「ごめんね、食べてるところ」
「いえいえ、なんでしょう」

 先輩の名前は完全に忘れてしまった。
 名簿を見れば思い出すとは思うものの、今は名字はつけず、ただ先輩とだけ呼んでやり過ごすしかない。

「あのね。もうすぐ学祭があるじゃない? 去年と内容は同じで、展示する原稿を一人一枚以上と、どの時間帯に店番をするか、希望を書く紙が部室に貼ってあるから、自分の名前、書いといてくれるかな。時間帯に人数が書いてあるから、空きがあるところに名前を書いてね。早いもの順。幽霊部員さんの最低ノルマはそれだけよ。販売用のクッキーは私達が作るから。よろしくね」
「分かりました。ありがとうございます」

 申し訳ないです、と頭を下げる。

「部室に全然来ないから寂しいのよ。たまには来てね」

 あー、と答えに窮する。

「そうですね。先輩としゃべりに、行けたらこれからも行きます」
「待ってるわね」

 そう言って、先輩はゆるゆると手を振って、立ち去った。

「なんか、エロいね」

 食堂から出るのを見届け、真希が言う。

「言っちゃったね。私もずっと思っていたけど、口に出したことなかったのに、とうとう言っちゃったね」
「ずっと思ってたんだ? 地味系の清純派な格好なのに、プロポーションがよすぎて」
「うん。あれだけ胸が大きければ、こんな不毛な恋をせずに素敵な恋人ができたのかな」
「関係ないでしょ。それは全部、あんたのせい」

 すかさずデコピンをされる。

「はい。すみません」

 あーあ、という顔で二人で笑い合う。

「それにしても、幽霊部員は楽だね。私は何も入っていないけど、出店をやる友達なんて、ガイダンスに参加したり場所の抽選会やったり備品貸出の申し込みとか大変そうよ」
「だよね。むしろ、漫研自体やめた方がいいかなと思ってはいるんだけど」
「でも里美。こんなところで優雅にご飯食べてていいの? 入りたい時間帯、早いもの勝ちなら埋まっちゃうよ」
「うーん。もう手遅れな気がするけど。がんちゃんに聞いてみる。話したことない人と店番しづらいし」

 岩ちゃんとは、小岩井岩石こいわいがんせきという変わった名前の同級生だ。

 三人目の好きな人でもある。

 漫画研究会で知り合って、仲良くなった。
 春に満琉との関係が始まってからは、会う頻度を減らしている。

 私はスマホを取り出し、ディスプレイに指を走らせてすぐに電話を掛けた。
 数回の呼び出し音の後に、つながる。

「もしもし、岩ちゃん? 今いい?」
「ああ、なんだ?」
「学祭の時間記入の話、聞いた?」
「さっき聞いた」

 岩石もまた、最近は幽霊部員だ。学内のどこかで先輩に聞いたのだろう。

「書いた?」
「まだ。早めに行かなきゃとは思ってはいるんだが」
「私、仲いい人少ないし、空いてるところに勝手に今から二人分書いといていい? 準備が忙しい朝はできる限り避ける。狙いは昼から」
「ああ、それならよろしく」
「また書いたら連絡するね」
「はいよ」

 電話を切るなり、残りのピラフを勢いよく食べ尽くすと、すぐに立ち上がった。

「じゃぁ、部室行ってくるね」
「はーい。行ってらっしゃい」

 呆れたように笑う真希に手を振って、お盆に載った皿を急いで片付け、部室へ向かった。
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