好きな人は、3人

秋風いろは

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16.流星群

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 流星群の降る夜、しっかりとダウンを着込んで、本当に来るだろうかと不安になりながら玄関の手前で椿桔からの連絡を待った。

 ブルル、と握りしめたスマホが震える。
 着信だ。

「もしもし、外に出るね」

 すぐにそう答えて扉を開けると、玄関の門の前に、初めて見るヘルメット姿で、笑顔の椿桔がこちらに手を上げるのが見えた。

 夜の外で会うのは初めてで、初デートで相手が待ち合わせ場所にいてくれたような、こそばゆい幸せを感じた。

「原付はそこに停めてね」

 庭の、駐輪場の空きスペースを指す。

「赤信号で停まってる時、流れ星が見えたよ」

 椿桔がにこにこしながら言う。だから満面の笑みなのかもしれない。

「ずるーい。まだ私見てないのに」
「はは。まだまだこれからだよ」

 二人で、堤防まで歩き出す。街灯の灯りの下で、二人分の影が伸びていた。

 気づかれずに、影だけでも並んだ写真が撮れればいいのにと思う。

 椿桔は今、三年生だ。一年早く卒業する。そうしたら地元に帰ってしまうかもしれない。

 帰らなくても、今みたいには会えない。
 いつか、顔すら曖昧になるほど、遠い人になる。

 二人並んだ影ぼうしを見ていると、嬉しいのに、いつか離れることがたまらなく寂しく感じた。

「あ。今、流れた」

 椿桔が浮かれたような声で言う。
 せっかく一緒にいるのに、離れることを考えるなんてもったいない。私も、空を見ることにした。

 堤防に着くと階段で上まで行き、なだらかな土手に持ってきたレジャーシートを敷いた。

「用意がいいね」
「土の上は、さすがに冷えるしね」

 二人で寝転んで、空を見る。視界全体に真っ暗な空が広がった。どこから流れても視界に入れられるように、全体を見るようにして待つ。

「あ、流れた!」

 歩いて見ると風景の一部だったそれは、寝転ぶと世界の全てになって、現れては瞬く間に消えてしまう儚さは、目で追わずにはいられない。

 跡形もなく消えてなかったことになるのが寂しくて、次の星を待ちわびる。

「こんなに見えるんだ」

 椿桔が、空を見上げたまま呟く。

「想像以上だね」

 隣の椿桔を見て話すと、視線を感じたのかこちらを見て、うんと頷いた。

 真夜中の星空の下、視線が交錯して、二人ともが同じことを考えているのに、私たちは触れあわない。

 いつもは少し寂しいその関係が、なぜかこの時は一つの奇跡のように感じた。

 いつか消えてなくなる今だけの特別な時間に、酔いしれるように空を眺め続けた。
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