好きな人は、3人

秋風いろは

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18.問いかけ

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 シャワーを浴びて服を着ると、ソファに彼を引っ張って二人で座り、満琉の肩にもたれかかる。

「どうした?」

 私の髪をなでて優しい目を向ける満琉を見て、少しだけ迷う。

 何も言わなければ、ずっと続いていく心地よい関係だ。

「ねぇ、満琉さん。家に行きたいとは言わないから、住所教えてよ」

 迷いを断ち切るように、ずばっと聞いた。今までなら、教えてほしいなと下手に出て聞いているところを、学生っぽい我の強さを前面に出して、お願いする。

「え、いきなりどうした?」

 伺うように、こちらを見る。
 目は泳いでいないけれど、その瞳から答える気がないという、拒絶の意思が見てとれた。

「年賀状を送りたいの。私、いつも年賀状だけは気合い入れるんだ」
「へえ、意外だな。写真とか加工するのか?」
「んーん。イラストを描くの、パソコンで。風景を描くの好きなんだ。ピアノのお返しに送りつけるから、教えて」
「それは見てみたいな。年賀状は出す習慣がないんだ。一方的にもらうのは悪いし、画像だけスマホに送ってくれよ」
「やっぱり、教えてくれないの?」

 煙たがられていることを分かっていながら、しつこく食い下がると、苦笑しながら、私の頭をぽんぽんと叩いた。

「今日はどうしたんだ?」
「満琉さんのピアノが素敵だったから、もう少し知りたくなっただけ」

 ここまで聞いて答えてくれないのは、やはり何かがあるのだろう。

「逆に、俺のほうが知りたくなっちゃったな。イラスト、ぜひ見せてくれよ。どんな絵なのか気になって、今日は眠れなさそうだ」

 かわし続ける満琉に、描けたらねと笑顔を向ける。

 きっと、もう会わない。

 私は彼の頬をゆっくりと上から下へとなぞり、挨拶のように軽く、唇を重ねた。

「ね、他に弾ける曲はあるの?」

 フリータイムが終わるまで、まだ少し時間がある。最後にもう一度聴いてみたい。

「あと一曲だけな。若い時に流行っていた歌が気に入って、楽譜をダウンロードして練習したんだ」
「聞きたい! まだ時間があるし、お願い」

 それを聞くと、満琉は鞄の中から雪の結晶の描かれた包装紙に包んであるプレゼントを取り出して私に渡し、気に入ってくれたらいいんだけど、と言って私の額にキスをすると、ピアノの長椅子に座った。

 満琉の指が、波のように鍵盤の上を行き来する。美しく、儚さを感じる曲だ。

 昔、聴いたことがある気がするものの、タイトルは思い出せない。

 切ない和風の音が部屋に響きわたり、今この一瞬が、この曲を聴くと思い出すワンシーンになるんだろうなと思った。

 この曲と一緒に、私たちの関係に幕を下ろそう。

 そう決めると、ピアノを弾く満琉が、ものすごく遠く感じた。
 一つの恋がはらはらと舞い落ちるように私の中で終わり、目の前の人が過去の思い出になっていく。

 私の鞄の中には、満琉へのプレゼント用に、木製のボールペンが入っている。

 女性の存在を感じさせず、自分で買ったと誰かに言い訳できそうな贈り物はと考えて選んだ。

 この曲が終わったら、最後にふさわしいとびっきりの笑顔で渡そう。
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