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21.クリスマスイブ
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二日後のお昼、私は岩石と一緒に予約していたスイーツ食べ放題の店にいた。
クリスマスイブとあって、大混雑だ。
かなり前に予約しておいて良かった、とほっとする。
それでも正午ちょうどは予約を取れず、少し遅めだ。
「取ってきたぞ」
そう言って、お皿の上にたくさんのケーキを乗せて岩石が戻ってきた。
「まだ全種類持って来れてないから行ってくる。先に食べてていいが、半分ずつだからな。美味いからって全部食べるなよ」
言うないなや、また、たくさんの人が群がるスイーツコーナーへ向かった。
こんな時は普通、戻ってくるまで待つのだろうか。
相手が満琉なら、きっと待っている。そもそも取りに行くのは、私だっただろう。
悩みながら水を一口だけ飲む。できる限りスイーツをお腹に入れるため、最初は水だけだ。目の前には、レアチーズケーキやモンブラン、苺のロールケーキなど色とりどりのスイーツが並ぶ。
「食べちゃえ」
呟くように言って、半分ずつに切って口に入れていく。甘くてふわふわして、どれも美味しい。全種類制覇するため、朝食もほとんど食べていない。
勢いよく食べていると、ちゃんと残してあるかと聞きながら岩石が戻ってきた。
「お帰り。残してるよ、もー。ありがとね」
岩石も座って、がつがつと食べ始めた。
「そういえばさ、岩ちゃん」
話しかけると、返事代わりにスイーツへ向けていた目をこちらに向けた。口は食べるのに忙しいらしい。
「車校の人と別れた」
もぐもぐしながら目を見開き、やっと岩石が口を開いた。
「いきなりだな」
そう言って、すぐにまた次のスイーツへフォークを運ぶ。
「でも最後に立ち話でいいから会いたいって。どうしようかなーって悩んだまま、返事してない」
言って、私も次のいちごタルトへ向かう。
食べながらだと、会話の進みが遅くなるものの、満腹中枢が働くまでに可能な限り食べなくては、もったいない。
「ひでえ。好きなようにすればいいと思うけど、最後くらい会ってやれば?」
うーん、と言いながらショートケーキの苺をぱくりと食べる。
「なんで会いたいんだろ。進展も今後見込めないし手も出せないなら、時間の無駄だなって思わないのかな。単純に、不思議で。目的が分かんなくて、なんか気持ち悪い」
言った瞬間、岩石が肩を震わせて笑った。くっくっと笑って、声も出せないようだ。
「え。なんで笑ってるの。笑うところあった?」
そう聞くと、呆れたような目で笑いながらこちらを見た。
「いや、淡泊というかアッサリというか。里美らしいな。やっぱり面白いよ、一緒にいて飽きない。ま、普通は会って心の整理でもしたいんじゃないか?」
岩石の笑いどころは、いまいち分からない。
心の整理、と言われてみれば、自分だけが整理しながら会っていたのかもしれない。
やっぱり会おうか、と決める。
続けて、もう一つ報告をする。
「それから、カフェサーの先輩にも彼女ができた。もう会わない」
「あらら。残念だったな」
一昨日の件は言わない。
どう考えても、彼女のいる家に私を迎えたのは椿桔の落ち度だ。胸の内に留めておこう。
「まあね。二人とそうなったの、岩ちゃんとしては、どう思う?」
だんだんとお腹がふくれてきた。お饅頭は無理かもしれない。ムースなら、まだ食べられる。
「どうって言われても困るが。いいんじゃないか。どっちも先はなさそうだったし。さほど好きになる前で」
何気なく言われた言葉が引っかかる。
「さほど好きじゃなかったって分かるの? なんでそう思ったの?」
「何となくだな。俺とまだ会っているのもそうだけど、先輩のほうは、恋人になりたい感じではなかったし。車校のほうは、近いうちに別れるって言ってたのもあるけど、その前からも相手そのものじゃなくて会話とか雰囲気とかその時間を気に入ってるように、話を聞く限りでは感じたからかな」
話を聞く限り……。私はどう話したんだっけ。全く思い出せない。
「働いている格好いい大人との学生相手では味わえない時間、そんなようなものに惹かれてる印象は受けた。自分が勝手にそう思っただけだ。違うなら違うでいい」
そうだったのだろうか。
そうだったのかもしれない。
「確かに、そういう面はあったかも。知らない世界への憧れみたいなのは。そう思うと、もっと変な大人に引っかかって、詐欺とかにあわなくてよかったよ」
若いってことは、知らない世界が多いということで、憧れや興味から危険にも巻き込まれやすい。
分かってはいたけれど、自分は大丈夫だと根拠もなく思っていた。今、自覚してよかった。これからは気をつけよう。
だんだんと甘さに胸焼けがして、軽食が食べたくなってきた。パスタかピッツァがほしい。
「それはないと思ったけどな。相手がこの自動車学校で働いている、と身元が多少でも判明していたから、付きあう気になったんだろう。名前も何もかも嘘がつけて、何かあった時に姿をくらませられる状態の相手となら、先に進まないタイプだろ」
「そう見えてるんだ、私のこと。信用?」
「現実主義なくせに、考えなくてもいいようなどうでもいいことを無駄に悩むようなところが、面白くて、里美のいいところだよ」
「あなたは、私をどう思ってるんでしょうね」
「好きだよ、もちろん」
岩石はにかっと笑うと、もう一皿取りに行くと言って、また席を立った。
ふいをつかれて、すっかり私は軽食も取ってきてと頼むのを忘れてしまった。
クリスマスイブとあって、大混雑だ。
かなり前に予約しておいて良かった、とほっとする。
それでも正午ちょうどは予約を取れず、少し遅めだ。
「取ってきたぞ」
そう言って、お皿の上にたくさんのケーキを乗せて岩石が戻ってきた。
「まだ全種類持って来れてないから行ってくる。先に食べてていいが、半分ずつだからな。美味いからって全部食べるなよ」
言うないなや、また、たくさんの人が群がるスイーツコーナーへ向かった。
こんな時は普通、戻ってくるまで待つのだろうか。
相手が満琉なら、きっと待っている。そもそも取りに行くのは、私だっただろう。
悩みながら水を一口だけ飲む。できる限りスイーツをお腹に入れるため、最初は水だけだ。目の前には、レアチーズケーキやモンブラン、苺のロールケーキなど色とりどりのスイーツが並ぶ。
「食べちゃえ」
呟くように言って、半分ずつに切って口に入れていく。甘くてふわふわして、どれも美味しい。全種類制覇するため、朝食もほとんど食べていない。
勢いよく食べていると、ちゃんと残してあるかと聞きながら岩石が戻ってきた。
「お帰り。残してるよ、もー。ありがとね」
岩石も座って、がつがつと食べ始めた。
「そういえばさ、岩ちゃん」
話しかけると、返事代わりにスイーツへ向けていた目をこちらに向けた。口は食べるのに忙しいらしい。
「車校の人と別れた」
もぐもぐしながら目を見開き、やっと岩石が口を開いた。
「いきなりだな」
そう言って、すぐにまた次のスイーツへフォークを運ぶ。
「でも最後に立ち話でいいから会いたいって。どうしようかなーって悩んだまま、返事してない」
言って、私も次のいちごタルトへ向かう。
食べながらだと、会話の進みが遅くなるものの、満腹中枢が働くまでに可能な限り食べなくては、もったいない。
「ひでえ。好きなようにすればいいと思うけど、最後くらい会ってやれば?」
うーん、と言いながらショートケーキの苺をぱくりと食べる。
「なんで会いたいんだろ。進展も今後見込めないし手も出せないなら、時間の無駄だなって思わないのかな。単純に、不思議で。目的が分かんなくて、なんか気持ち悪い」
言った瞬間、岩石が肩を震わせて笑った。くっくっと笑って、声も出せないようだ。
「え。なんで笑ってるの。笑うところあった?」
そう聞くと、呆れたような目で笑いながらこちらを見た。
「いや、淡泊というかアッサリというか。里美らしいな。やっぱり面白いよ、一緒にいて飽きない。ま、普通は会って心の整理でもしたいんじゃないか?」
岩石の笑いどころは、いまいち分からない。
心の整理、と言われてみれば、自分だけが整理しながら会っていたのかもしれない。
やっぱり会おうか、と決める。
続けて、もう一つ報告をする。
「それから、カフェサーの先輩にも彼女ができた。もう会わない」
「あらら。残念だったな」
一昨日の件は言わない。
どう考えても、彼女のいる家に私を迎えたのは椿桔の落ち度だ。胸の内に留めておこう。
「まあね。二人とそうなったの、岩ちゃんとしては、どう思う?」
だんだんとお腹がふくれてきた。お饅頭は無理かもしれない。ムースなら、まだ食べられる。
「どうって言われても困るが。いいんじゃないか。どっちも先はなさそうだったし。さほど好きになる前で」
何気なく言われた言葉が引っかかる。
「さほど好きじゃなかったって分かるの? なんでそう思ったの?」
「何となくだな。俺とまだ会っているのもそうだけど、先輩のほうは、恋人になりたい感じではなかったし。車校のほうは、近いうちに別れるって言ってたのもあるけど、その前からも相手そのものじゃなくて会話とか雰囲気とかその時間を気に入ってるように、話を聞く限りでは感じたからかな」
話を聞く限り……。私はどう話したんだっけ。全く思い出せない。
「働いている格好いい大人との学生相手では味わえない時間、そんなようなものに惹かれてる印象は受けた。自分が勝手にそう思っただけだ。違うなら違うでいい」
そうだったのだろうか。
そうだったのかもしれない。
「確かに、そういう面はあったかも。知らない世界への憧れみたいなのは。そう思うと、もっと変な大人に引っかかって、詐欺とかにあわなくてよかったよ」
若いってことは、知らない世界が多いということで、憧れや興味から危険にも巻き込まれやすい。
分かってはいたけれど、自分は大丈夫だと根拠もなく思っていた。今、自覚してよかった。これからは気をつけよう。
だんだんと甘さに胸焼けがして、軽食が食べたくなってきた。パスタかピッツァがほしい。
「それはないと思ったけどな。相手がこの自動車学校で働いている、と身元が多少でも判明していたから、付きあう気になったんだろう。名前も何もかも嘘がつけて、何かあった時に姿をくらませられる状態の相手となら、先に進まないタイプだろ」
「そう見えてるんだ、私のこと。信用?」
「現実主義なくせに、考えなくてもいいようなどうでもいいことを無駄に悩むようなところが、面白くて、里美のいいところだよ」
「あなたは、私をどう思ってるんでしょうね」
「好きだよ、もちろん」
岩石はにかっと笑うと、もう一皿取りに行くと言って、また席を立った。
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