リアルな恋を描く方法

ふじのはら

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二章【あやしいバイト】※R18含む

3 珍しいね

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金曜日の体育祭に向けて、クラスのスポーツ好きの面々が放課後にバレーボールをしている。中にはバレーボール以外の競技に出る予定なのに、ただ単にやりたいだけという理由で参加している奴らもいた。仲のいい他のクラスの友達と一緒に楽しんでるヤツまでいて、体育祭の練習というより単にバレーの試合を楽しんでいるだけの状態だ。

俺もハチも神谷もスポーツは好きで、当たり前のようにその中に入っていて、先週の半ばから毎日のように放課後は暗くなるまで体育館でバレーをしていた。
その日は火曜日で、2時間びっちり試合を楽しんだ。
途中ハチの彼女の桃ちゃんとその親友の瑞樹ミズキが観に来ていて、俺の彼女の音羽オトハが友だちと体育館へやってきた時に何故か一緒に話しているのを見かけた。他にも彼氏に会いに来ている子、好きな先輩を観に来ている1、2年生、普段から仲のいいクラスの女の子達なんかが出入りしてキャーキャー騒ぎ、放課後の体育館は毎日賑やかだった。

「ハチ、桃ちゃん待ってるの?」
汗をタオルで拭きながら、ジャージから制服に着替える。着替えている途中の中途半端な格好で携帯をいじっていたハチが「うん、教室で待ってるみたい。」と答えて「龍之介は?」と聞き返す。
「うん、俺も音羽2年の教室で待ってる」
「これからどっか行くの?」
「いや少し話したら帰るよ。早く帰ってシャワー入りたいし」
夕方からはまだ涼しいとは言っても2時間も試合をしていたら全身汗で気持ちが悪い。
正直今すぐ帰って一刻も早くシャワーに入りたいくらいだが、音羽が待っていてくれてるらしいのでとりあえず寄ろうと思っている。

体育館から出て2階に上がった階段の踊り場でハチと別れた。
学校の廊下はまだ電気がついていたが18時半になると全ての教室は消灯しなければいけないのでもう2年生の階には人は殆ど残っておらず、残っている生徒も帰るところなのか階段の方へ歩いて行き2階はしんとしていた。
3年の教室がある3階は、さっきまでバレーをしていた面々がもしかしたらまだ居るのかも知れない。
音羽の教室を覗くと、音羽が窓際に立って外を見ていた。
「音羽、おまたせ。」
「蒼先輩おつかれさまです。」
振り返って笑顔を見せた彼女に少し違和感を感じた。
「何してたの?」
「夜景見てました。」
同じようにして外を見れば、夜景と言えなくもない街の灯りが目に入る。
しんとした薄暗い教室と、どこか雰囲気の違う音羽、なんだか居心地が悪い。
暫く音羽の隣で外を眺めていると、玄関からハチと桃ちゃんが手を繋いで出て来たのが見えた。
同じように音羽も2人に気がついたんだろう。
「蒼先輩って、、ハチ先輩の彼女と、昔付き合っていたんですか?」
こちらを見ないで言った。
「桃ちゃん?うーんと、、まぁそうなんだよね。1年の頃の話だよ?」
なんとなく雰囲気のおかしい理由がわかった。音羽は何度もハチと話した事があるし、ハチや桃ちゃんや瑞樹と俺が仲が良いことも知っている。
そもそも桃ちゃんや瑞樹と仲が良いことにも良い気はしていなかったかも知れないけど、元カノだと知れば益々良い気はしないだろう。
「、、気に、なる、、?」
「もしかしてまだ好きですか?」
「は!?ないないない!いくら何でもそれはない!元々桃ちゃんの親友の瑞樹が同中で仲良かったんだけど、1年の時にハチと桃ちゃんも同じクラスで仲良くなって、それで今でも、、」
俺より背の低い音羽が上目遣いに俺を見て、その視線にドキリとした。
「ハチと桃ちゃんが付き合い始めたのも3年になってからで、今は俺だって音羽と付き合ってるじゃん」

「私の友達のお兄さんが3年生なんです。その先輩が、蒼先輩と桃先輩は、、そういう関係だったって、、、」
目を逸らせて声がだんだん小さくなる音羽を見ていて言いたい事を察してしまった。
“そういう関係”のというのは恋人だったことだけじゃなくて、体の関係があったかどうかということなんだろう。
まいった、、桃ちゃんは紛れもなくだった人だ。大好きな彼女だった人だし。
肯定して音羽を傷つけたり今更桃ちゃんとの関係を勘繰られるのは嫌だったが、嘘をついて否定することに何の意味も見いだせない。
どうして良いかわからずに無言になった俺の制服の袖を彼女は小さく握る。
見下ろすと恥ずかしそうに俯きながらそっと体を寄せて来た。ふわっと良い香りがする。
健気に体を寄せた音羽に応えるように俺は彼女の背中に腕を回して軽く抱きしめた。
「蒼先輩、、」
耳元で名前を呼ばれて彼女の顔を至近距離で覗き込むと、その瞳は少し潤んで決心と羞恥心を湛えてこちらを見つめていた。

“んなのキスくらいすりゃ良いじゃん”
“しようと思えばキスくらい意味なくたって出来るでしょ”
音羽の目を見つめたまま、あの人達の台詞を思い出していた。
するのは簡単だろう。でもそれで良いのか?キスをすることは音羽を喜ばせるのか?傷つけるんじゃなくて?
俺が逡巡していると、ふいに校内放送がかかった。放送はまもなく19時をまわり玄関の鍵が閉まることを告げた。
俺は音羽からパッと体を離して身を起こすと「帰ろっか」と言い彼女の頭をポンポンと撫でた。

音羽が小さく微笑んで「はい」と言ったのを正面から見る事が出来なかった。
彼女が勇気を振り絞ってくれたのをわかっていたし、俺の逡巡も校内放送にホッとしたのもたぶん彼女は気付いただろうから。
音羽を傷つけてしまった事に俺は自分勝手に動揺していた。

音羽を駅に送ってから俺は重い足取りで来た道を戻った。家に帰るのに河原沿いのサイクリングロードに向かおうと思ったのに、何となくあおい書店の方へ来てしまった。
店では遅番の大学生やフリーターのスタッフが働いている頃だ。でも遅番の人たちはシフトが一緒にならないのであまり仲良くはない。突然社長の息子に来られても困るかも知れない。
商店街をトボトボ歩きながら、ふと携帯を取り出して宮城さんに電話をしてみた。何度か呼び出し音がなったが彼は出なく、一度電話を切ると今度はハヤトさんにかけてみた。

「もしもし蒼くん?」
「あ、ハヤトさん?今日宮城さんの家にいるかなと思って、、」
「あー、いや、今日は居ないんだ」
電話の向こうで「だれ?」と聞く男の声が聞こえた。
「そっか、なら良いんです。俺今商店街にいるからちょっと聞いてみただけで、、」
「あれ?蒼くん、なんかあった?元気なくない?」
ハヤトさんが言ってくれる横からもう一度「ねぇ、だれ?」とハヤトさんに訊ねる声。たぶん恋人だろう。
「ううん、元気元気。」
「イトは家にいると思うよ。なんか体調悪いって昼間言ってて、学校早退したんだよあいつ。」
「え、そうなんだ?了解っす。じゃあまた。」

そっか、宮城さん体調悪いんだ、、じゃあ家で寝てるのかな?
ご飯とか食べれるのかな、、?
電話に出なかったから急に心配になった。もしかしたら出掛けてるのかも知れないけれど、出入り自由と鍵をもらっているんだから、ちょっと顔を出すくらいなら許されるだろう。

そのあと軽く食べ物や飲み物を買って、歩いて5分ほどの宮城さんのマンションに来た。インターホンを鳴らしても反応が無かったので、俺は初めてこの家の鍵をつかってその家に入った。

カーテンも開きっぱなしで室内は暗い。「おじゃましまーす」と呟きながらリビングへ入ると、電気を付けなくても隣の部屋のベッドに宮城さんが寝ているのが見えた。
俺は勝手にリビングの間接照明だけをつけてカーテンをしめる。
「宮城さん?」
「ん、、ハヤト、、」
ベッドの中でモゾと動いて宮城さんが目を覚ましたようだ。
「ハヤトさんじゃなくて俺です。」
「あぁ、蒼くんか、、珍しいね」
「ハヤトさんに、宮城さん体調悪いって聞いて、ちょうど商店街にいたから寄ってみました」
ベッドの傍へ様子を見に行くと、ダルそうにゆっくりと起き上がりながら俺をみる。その顔が赤くて触らなくても熱があるのがわかった。
「そーなんだよ、、結構熱あるかも、、頭痛え」
「疲れてるんじゃないですか?飲み物と軽い食べ物買ってきましたよ。起きられますか?あ、栄養ドリンクもある。」
「サンキュー。助かる。でもあと30分横にならせて」
そう言いつつ、栄養ドリンクだけ飲むとまた布団に横になってしまった。
「宮城さん、勝手に来ておいて申し訳ないんだけど、シャワー貸してくれませんか?さっきまでずっとバレーやってて汗だくで、、」
「どーぞ、バスタオル洗面台の後ろのクローゼット。出たら起こして。」
宮城さんがモゾモゾと布団にくるまるのを見届けて、俺は宮城さんの家の浴室へ向かった。
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