リアルな恋を描く方法

ふじのはら

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二章【あやしいバイト】※R18含む

4 情が湧くかもしれない

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シャワーから出ると驚いた事に宮城さんが起きていた。起きていたとは言ってもベッドからリビングのソファに場所を変えただけで、薄暗い間接照明の中膝を抱えた姿勢で背もたれにくたっともたれていた。
「わ、起きたんですか?」
「んー。栄養ドリンクがちょっと効いて、腹減った。、、あ、蒼くんの制服姿初めて見た」
買ってきたものの中から適当にヨーグルトやサンドイッチなんかをテーブルに並べて、寒そうに膝を抱えている宮城さんにベッドの上に放置されていた彼のカーデガンを掛ける。
「大丈夫ですか?学校も早退したって聞いたけど、もしかしてずっと寝込んでたんですか?」
「いや早退っつっても帰ってきたの夕方だよ。それから風呂入って寝た」
それで具合悪くて寝ていたわりに良い香りがしているのか、、彼の横に座りながら、サンドイッチを食べると言うので袋を開けて手渡す。
なんとなくハヤトさんが宮城さんの世話をやく気持ちがわかる。宮城さんはお洒落で取っ付きにくくて打ち解けるのも時間がかかるけど、打ち解けると普段とのギャップが見えてくる。一人暮らしをして学生をやりながらもプロの漫画家として稼いでいるのだから一通りのことは普通に出来るんだろうけど、気を許した人には意外と頼るのかも知れない。

軽く食事をして薬を飲むと、少し調子が良くなったのかソファでテレビを見だしたのでその間にゴミを片付けてキッチンで洗い物をする。
洗い物をしながら音羽のことを思い出していた。音羽から連絡はない。今頃何を思っているだろうか、、?彼女はあのあと泣いたりしただろうか。
音羽の事を考えながら、勝手にお茶のティーバックを見つけ出して2人分の温かいお茶を入れる。

「なんかあった?」
ふと顔をあげると宮城さんがこちらを見ていた。
「、、、お茶どうぞ。」
お茶をテーブルに置いて宮城さんの隣に戻っても、彼はじっと俺の顔を見ていてその視線に耐えられず苦笑してしまった。
「ありました。話しますって。ーもう、ハヤトさんも宮城さんも何でそんな感良いんですか?」
「いや、キミの顔に書いてある。“彼女と何かありました”って。」
「うわ、そこまで!?」

俺は宮城さんに、今の親友の彼女が俺の初めての相手である元カノだということや、それを音羽が気にしている事、そして音羽が勇気をだしてキスのタイミングを作ってくれたのにそれに応えなかった事で音羽を傷つけてしまったことを話した。

「ふぅん。あいかわらず青春してるねぇ。」
「もう音羽と別れた方が良いと思います?」
「好きじゃないなら別れれば良いんじゃない?好きになれない人と付き合うコト自体俺には考えられないけど」
「うーん、好きじゃないかって聞かれると分からなくて、、、」
「じゃあキスくらいしてみりゃ良いじゃん。」
「うーん、、、」
「出来るって。してみたら意外と情がわくかもしれないよ?ほら練習練習。」
笑いながらそう言って宮城さんは俺の服を引っ張ると俺の腕の中に収まった。どうやらさっきの話の通り音羽の真似をしているらしい。
「練習て何!?ちょ、宮城さんらしくない!」
頭がちょっとしたパニックに陥った。あの宮城さんが俺の胸にもたれかかっている。
シャンプーの良い香りや、いつもより無造作な黒い髪の毛が柔らかく鼻をくすぐった。
もちろん背中に手を回して抱き締めるなんてことは出来ない。バクバクいう心臓の音は胸に耳をつける宮城さんには届いているだろう。
そんな俺の動揺を無視して、彼は至近距離で顔を上げた。
「ほら、してみなよ」
口角を少しだけ上げて、二重の綺麗な形の目を細める。熱があるせいで白い肌に赤みがさしていることも黒い瞳が潤んでいることも偶然の筈なのに何故か宮城さんがわざとそう仕掛けているようにも見えた。

俺はこの時にようやくわかった。思わずキスしてしまう時って、頭の中で何かを考える訳じゃないんだ。何か考えるよりも先に体が知らず知らずのうちに動いてしまうものなんだ。

間接照明だけの薄暗い部屋で、俺の唇と宮城さんの唇が重なった。
少しの間を置いて離れた俺に、「ほら出来るじゃん」と彼は笑いかけたが、両肩を掴んだ俺に驚いた顔をして更にもう一度唇を塞がれた事に「んん」とくぐもった声を漏らした。
何も考えずに差し入れた舌に宮城さんの熱い舌が触れた。
何か言おうとする彼を無視して、その熱い舌を絡めとり軽く吸い上げる。混ざり合う唾液と、宮城さんの僅かな抵抗がこの人を自分の物にしたいという雄的な欲求を刺激した。
「ちょ、、あおい、くん」
名前を呼ばれてハッと我に返って宮城さんを離すと彼は俺を少し睨んだ。
「あ、す、すみませ、、ん。」
「いや、からかいすぎたごめん。って言うかさ、蒼くん絶対風邪うつったと思うよ?」
「宮城さんが変な事言うから、、やめて下さいよ。心臓もたない、、」
宮城さんが怒らずに笑ったことにホッとすると同時に恥ずかしさと罪悪感が襲って来た。
「ハヤトともしたしね」
反省する俺の横でクスクス笑いながら、宮城さんは「あー、体だる、、」と言いながら、隣の俺に背を預けるような体勢をとる。

この人の思考回路はどうなっているんだろう??宮城さんにしろハヤトさんにしろ彼女にキスひとつせずに悩んでいる俺にじれてからかったというのはわかる。ハヤトさんはあの通りのあっけらかんとした性格だし、あの時はかなり酔っていた筈だ。
ーでも宮城さんは、、?熱はあるが頭は普通に回っているはずだ。音羽の真似をして俺をからかったのは目を瞑るとして、そのあと俺が無理矢理キスをしてもさほど抵抗しなかった。それに、怒らなかった。俺がもし本気で襲って力で抑え込めば宮城さんより力は強いだろうし、身の危険は感じないのだろうか?
それにそんな事があった直後にまた寄りかかってくるなんて、、

その後宮城さんがベッドに戻るのを見届けると俺は鍵をかけて宮城さんの家を後にした。
時間は9時半を過ぎた頃で、河川敷はスーツ姿の人がちらほら急ぎ足で歩いていて、自転車が時々それを追い越して行った。
空を見上げれば多くはないが星がチラついていて綺麗だ。
はぁっと溜め息をつく。
結局のところ、音羽にもらったキスのチャンスは自分の意思で避けたのだ。宮城さんの顔を間近で見た時には躊躇うことなんてなかった。キスをしたいと思ったし、自分の中の本能みたいなものが刺激されて止まる事が難しかった。
この差はなんだろう、、
俺はまた深く溜め息をついた。
音羽には感じない性的な魅力を宮城さんに感じたということなんだろうか。
自分は男にも性的な魅力を、、いや、女の子よりも男の宮城さんに性的な魅力を感じたのだとしたら、それってどういう事なんだろう。

スマホを取り出す。
「あ、ハヤトさん?宮城さんのお見舞い行って来ましたよ」
「イトまだ熱あった?」
「うん、ありました。軽く食事とって薬飲んで寝ました」
「そっか、ありがとーね。」
「、、、ハヤトさん、今週の土曜日モデルやりに行きます?」
「あーー、、んー、、ちょっと行けるかわからないな、、イトと相談しとく。ー?蒼くん、何かやっぱり元気ないよな?」
「えっと、少しだけ。大丈夫です。さっき宮城さんに話聞いてもらったし」
電話の向こうでハヤトさんが笑う。
「イトが悩み聞いたんだ?珍し。」
「宮城さんとハヤトさんて、長年一緒に居るだけにちょっと似たところありますよね」
「はぁ?真逆でしょーよ。俺はあんな拗らせてねーよ。」
彼の言葉に俺も笑ってしまう。ハヤトさんはいつも自分に元気をくれる存在だと実感する。仲の良い兄がいたらこんな感じだろうか?
実の兄はもうとっくに社会人で家を出ているので今では2人で話すなんてことは無いに等しいのだ。
「ハヤトさんも今度相談に乗ってくださいね。」
「おう、まかせとけ。俺恋愛相談されんの大好きだから」
そう言ってハヤトさんはカラカラと笑っていた。

音羽との事を悩んで宮城さんに会いに行ったのに、解消されるどころか悩みは大きくなってしまった。
自分の気持ちがわからなかった。
いや、わからないでいたかったのかもしれない。
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