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第二章 失恋
6:社交界デビュー
遂に社交界デビューの日がやって来た。
着飾ったリリカとキャサリンは、屋敷の馬車で会場へ向かっている。
「リリカ、決してキャサリンから離れるのではありませんよ。キャサリンに何かあったら許しませんからね」
可愛いキャサリンが心配で、”どうにか一緒に行くことは出来ないか”と考えていたローズは、直前で諦めた。
そして、キャサリンに続いて馬車に乗り込もうとするリリカを睨み付けながら、そう言ったのだった……
「お姉様、緊張するわね……」
会場が近づき、キャサリンから発せられた言葉にリリカは驚いた。
「あなたは、こういうことには緊張しないものだと思っていたわ」
キャサリンは、リリカのことを恨めしそうな目で見る。
「お姉様、私のことを何だと思っているの?」
「お父様とお母様の愛情をたくさん受けて、いつも自信満々で堂々としている子」
リリカは当然のことを今更なぜ訊くのかと、キョトンとした顔で言う。
リリカの、裏のない心からそう思っている顔を見て、キャサリンは眉を顰めて小さい溜め息をついた。
「過干渉で育った分、羽ばたき難さもあるのよ……」
リリカから視線を逸らして窓の外を見ながら、キャサリンは渋い表情で吐き捨てるようにそう言った。
リリカはキャサリンの言葉と態度に、目を見開いた。
普段の、愛嬌たっぷりでいつもニコニコしている、リリカの知っているキャサリンではなかったからだ。
「……そうなのね……」
妹の意外な一面にリリカはそう答えるのがやっとで、驚き過ぎて気の利いたことの一つも言えなかった。
(キャサリンにも悩むことがあるのね……)
リリカがローズに〝駄目な姉〟のレッテルを貼られているのと同様に、キャサリンもまた〝愛くるしい良い妹〟のレッテルを貼られている。
いつもローズやキャサリンから目を背けているリリカは、キャサリンの顔が時折曇ることに気付いていなかったのだ……
するとすぐに、馬車が会場に到着した。
「……凄い人の数ね……」
同世代の若者がひしめく会場の様子に、小さい領地の娘である2人は圧倒される。
「お姉様、胸を張って堂々としていましょう」
「……キャサリンにはスターリン様もいるし、もっと気楽でも良いではない……」
「だからよ。スターリン様にふさわしい妻になるためにも、社交の場にも慣れておかないと……。役に立つためにも、交友関係が広いに越したことはないし」
リリカは驚く。
大きくなってから、母親のいない所でキャサリンと二人で話をしたのは初めてだった。
そんな今夜、キャサリンは真面目な顔で、真面目な思考をリリカに話すのだ。
「……凄いわね……」
思わず零れたリリカの言葉に、キャサリンはバッとリリカを見上げて睨んだ。
「何が凄いのよ! 私もお姉様のように捨てられる可能性もあるのよ! 出来ることをするしかないじゃない!」
リリカは驚きに目を見開いた。
まさかキャサリンが、スターリンに捨てられる可能性を危惧しているなんて、思いもよらなかったのだ。
キャサリンとスターリンは、定期的に会っていて順調である。
それどころか、スターリンがレッドフィールド伯爵邸を訪問してくる頻度はウィリアムよりも高く、密かにリリカは羨ましく感じていたものだった。
スターリンの方が遠いにも関わらずのため、尚更。
しかしそれより何よりも、〝捨てられた〟と言う言葉を初めて突き付けられたリリカは、飛んで来た槍が心臓に突き刺さったような感覚になった。
「捨てられた……か。適切な表現ね」
思わず呟いた言葉は周りの喧騒に飲み込まれ、幸運にもキャサリンの耳へ届くことはなかった。
会場へ入るとすぐに、多くの視線がリリカとキャサリンへ集まった。
しかしすぐに、視線はキャサリンへ集中する。
キャサリンは有言実行で、本当に堂々と胸を張って歩く。
そしてリリカはそんなキャサリンの後ろを、目立たない様にそっと歩いてついて行ったのだった……
着飾ったリリカとキャサリンは、屋敷の馬車で会場へ向かっている。
「リリカ、決してキャサリンから離れるのではありませんよ。キャサリンに何かあったら許しませんからね」
可愛いキャサリンが心配で、”どうにか一緒に行くことは出来ないか”と考えていたローズは、直前で諦めた。
そして、キャサリンに続いて馬車に乗り込もうとするリリカを睨み付けながら、そう言ったのだった……
「お姉様、緊張するわね……」
会場が近づき、キャサリンから発せられた言葉にリリカは驚いた。
「あなたは、こういうことには緊張しないものだと思っていたわ」
キャサリンは、リリカのことを恨めしそうな目で見る。
「お姉様、私のことを何だと思っているの?」
「お父様とお母様の愛情をたくさん受けて、いつも自信満々で堂々としている子」
リリカは当然のことを今更なぜ訊くのかと、キョトンとした顔で言う。
リリカの、裏のない心からそう思っている顔を見て、キャサリンは眉を顰めて小さい溜め息をついた。
「過干渉で育った分、羽ばたき難さもあるのよ……」
リリカから視線を逸らして窓の外を見ながら、キャサリンは渋い表情で吐き捨てるようにそう言った。
リリカはキャサリンの言葉と態度に、目を見開いた。
普段の、愛嬌たっぷりでいつもニコニコしている、リリカの知っているキャサリンではなかったからだ。
「……そうなのね……」
妹の意外な一面にリリカはそう答えるのがやっとで、驚き過ぎて気の利いたことの一つも言えなかった。
(キャサリンにも悩むことがあるのね……)
リリカがローズに〝駄目な姉〟のレッテルを貼られているのと同様に、キャサリンもまた〝愛くるしい良い妹〟のレッテルを貼られている。
いつもローズやキャサリンから目を背けているリリカは、キャサリンの顔が時折曇ることに気付いていなかったのだ……
するとすぐに、馬車が会場に到着した。
「……凄い人の数ね……」
同世代の若者がひしめく会場の様子に、小さい領地の娘である2人は圧倒される。
「お姉様、胸を張って堂々としていましょう」
「……キャサリンにはスターリン様もいるし、もっと気楽でも良いではない……」
「だからよ。スターリン様にふさわしい妻になるためにも、社交の場にも慣れておかないと……。役に立つためにも、交友関係が広いに越したことはないし」
リリカは驚く。
大きくなってから、母親のいない所でキャサリンと二人で話をしたのは初めてだった。
そんな今夜、キャサリンは真面目な顔で、真面目な思考をリリカに話すのだ。
「……凄いわね……」
思わず零れたリリカの言葉に、キャサリンはバッとリリカを見上げて睨んだ。
「何が凄いのよ! 私もお姉様のように捨てられる可能性もあるのよ! 出来ることをするしかないじゃない!」
リリカは驚きに目を見開いた。
まさかキャサリンが、スターリンに捨てられる可能性を危惧しているなんて、思いもよらなかったのだ。
キャサリンとスターリンは、定期的に会っていて順調である。
それどころか、スターリンがレッドフィールド伯爵邸を訪問してくる頻度はウィリアムよりも高く、密かにリリカは羨ましく感じていたものだった。
スターリンの方が遠いにも関わらずのため、尚更。
しかしそれより何よりも、〝捨てられた〟と言う言葉を初めて突き付けられたリリカは、飛んで来た槍が心臓に突き刺さったような感覚になった。
「捨てられた……か。適切な表現ね」
思わず呟いた言葉は周りの喧騒に飲み込まれ、幸運にもキャサリンの耳へ届くことはなかった。
会場へ入るとすぐに、多くの視線がリリカとキャサリンへ集まった。
しかしすぐに、視線はキャサリンへ集中する。
キャサリンは有言実行で、本当に堂々と胸を張って歩く。
そしてリリカはそんなキャサリンの後ろを、目立たない様にそっと歩いてついて行ったのだった……
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