【完結】旦那様、離縁後は侍女として雇って下さい!

ひかり芽衣

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26:婚約者が来て1ヶ月

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婚約者ローラが屋敷へ住み始めてから一ヶ月が経ち、すっかり冬を感じる季節になっていた。

「マリー、みてー!」

「はい、見ておりますよ」

マリーは愛しい我が子を、目を細くして見つめる。
目の前でフリージアがおままごとをし、それをマストが座って相手をしているのだ。
お座りが出来るようになったリリーも一緒に座って、おもちゃをなめて遊んでいる。


マリーとフリージア、リリーの三人の関係性は何も変わることなく、穏やかな日々が続いている。
マストも子ども部屋へやって来ては子ども達と遊んで行き、以前と全く変わった様子は見られなかった。

「パパー! どーぞ!」

「くれるのか? ありがとう」

(フリージア様が成長してどんどん意思疎通を図る事が出来る様になって来ているからか、旦那様の表情も心なしかどんどん穏やかになって行っている様に感じるわ……)

マリーはその様な事を考えながら、今日もマリー以外の親子三人の微笑ましい様子を側で眺めていた。




"トントン"

親子の穏やかな時間は、ノックの音で掻き消される。

マリーが扉を開けると、そこにはローラが立っていた。

「伯爵様に会いに参りました」

「少々お待ち下さいませ」

そう言ってマリーは、部屋に一旦戻った。

「旦那様、ローラ様がいらっしゃっております」

マリーは、無表情を心掛けて言う。

「……そうか。わかった、今行く」

マストは明らかに嫌そうな顔をし、大きな溜め息をついた。
そして、フリージアとリリーに挨拶してから部屋を出て行こうとし、足を止めた。

「今日はもう来る事は出来ない。子ども達を頼んだ」

いつもとは違い、退室時にマリーを"チラッ"と見てから、そう言った。

「はい、わかりました」

マリーはマストの背中を見送る。
マストが扉を開けるとすぐに、ローラの毅然とした声がマリーの耳に飛び込んで来た。

「このような所まで押し掛けて来て申し訳ありません。しかし、こうでもしないと会っていただけないので……。伯爵様、このままでは困ります」

マストが扉を閉め切る前にローラが発言したため、マリーにはしっかりと聞こえた。

そして閉じられた扉に、マリーは思わず耳を充ててしまったのだった……
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