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27:ローラの抗議
しおりを挟む「伯爵様、何故一度も私を訪ねて来ては下さらないのでしょうか?」
「……」
何も言わないマストに、ローラは畳み掛ける。
「私は覚悟を決めてこの屋敷へやって参りました。私には時間がありません。期限内に伯爵様との子どもを身籠らなければ、婚姻は成立せずに私の実家への援助も打ち切られるのです。ローレル様は有言実行される方ですよね?」
マリーは一カ月前に会って以来のローラの顔を、はっきりと覚えていた。
ローラの整った綺麗な顔立ちがこのハッキリとした物言いをしているのかと思うと、マリーは思わずカッコイイと思ってしまう。
(このように言動に移すことが出来て……本当に素敵な女性だわ……)
最近のマリーは、ローラと自分を比べては落ち込む日々を過ごしていた。
(私に問題があったから、旦那様とうまくいかなかったのかもしれない……)
今まではマストを責めるばかりだったマリーは、最近自分のいたらなさを考えるようにもなっていたのだ。
「……忙しい。今から仕事に戻る」
やっと発言をしたマストの大きくはない声も、いけないとわかりつつも聞き耳を立てていたマリーにはしっかりと聞こえる。
「伯爵様!」
声を荒げたローラに、マリーはドキッとした。
切実さが声だけでも伝わって来たのだ。
「……今まで見て見ぬふりをしていてすまなかった。今から来客があり、今日は本当にこれから予定が詰まっているのだ。……明日、必ず時間を作ると約束する」
「……わかりました」
そこで二人の会話は終わり、マストの足音が去って行く。
数分後、もう一つの足音も動き出した。
ローラの足音が次第に遠くなって行くのを、マリーは呆然と扉に耳を付けたまま聞いていた。
「まりー、これ」
一人で遊んでいたフリージアが、おもちゃを持ってマリーの元へ来た。
「わあ、素敵ですね!」
「かあいー」
「ええ、可愛いですね」
ご機嫌のフリージアの相手をしながらマリーは思った。
(……今まで、一度も旦那様はローラ様を訪れていなかった……?)
「リリー、あかい」
「あっ、本当ですね! ふふっ。真っ赤の顔をしてきばっていますね。うんちかなー?」
リリーを覗き込んで不思議そうな顔で見ているフリージアと、真っ赤な顔でんーっときばっているリリーを見て、マリーは思わず笑みが溢れた。
(明日、進展がありそうね……。本当に、私に出来ることは何もないのかしら……? この子達のためにできること、私がこの子達のそばにいるために出来ることは何か……。……ひょっとしたら明日、旦那様とローラ様は関係をもつ……?)
マリーが真面目な顔でジッとリリーを見ながらそんなことを考えていると、ぷーんと香ばしい匂いがする。
「くちゃーい!」
「ふふっ、臭いですね。すぐ変えましょうねー!」
フリージアはケラケラと笑っているし、リリーもスッキリしたようでご機嫌だ。
「まりー? いたい?」
リリーの布おむつをかえていると、ふとフリージアにそう声をかけられた。
「えっ? あれ?」
マリーは気付くと目から涙をこぼしていた。
両手が塞がっていて拭えずにいると、フリージアが新しい布おむつでマリーの顔をゴシゴシと拭いた。
「ふふっ。フリージア様、ありがとうございます」
つられて泣きそうな顔をしているフリージアを見て、マリーは反省する。
(フリージア様を不安にさせてどうするの! しっかりしなさい、マリー!)
何の涙なのか自分でもわからない涙を拭って、マリーは精一杯の笑顔をフリージアに向けた。
「フリージア様、次は何をして遊びましょうか?」
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