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28:ローラの訪問
しおりを挟む翌日のマストは、朝と寝る前に子ども達の顔を見に来ただけだった。
マリーとは目を合わせず、いつもと同じセリフを入室後の開口第一番に言う。
「子ども達はどうだ?」
「おかわりありません」
目も合わせずに行われるこのやり取りが、まるで二人の挨拶のようになっていた。
そしてその翌日、子供部屋にローラが訪ねて来たのだ。
「こんにちは、今良いかしら? 急に来てしまったので、もし都合が悪ければ出直すわ」
ただの侍女であるマリーに対しても配慮をしてくれるローラに、マリーは胸が苦しくなる。
(素敵な人……)
今日は黒髪を後ろで一つに束ねていて、小さい顔が更に小さく見える。
「もう少ししたらフリージア様は眠くなられふるかもしれませんが、今は大丈夫そうです」
「そう、ならよかったわ!」
マリーがそう精一杯の笑顔で答えると、ローラも笑顔で返してくれる。
ローラは、マリーが抱っこをしているリリーに挨拶をした後、一人遊びをしているフリージアのそばに行って声をかけた。
「こんにちは。前に会ったことがあるのだけれど、覚えていないわよね。私はローラよ。一緒に遊んでも良いかしら?」
キョトンとした顔をしているフリージアは、チラッとローラの後ろにいるマリーを見る。
マリーはフリージアを安心させるように笑顔で頷いた。
「いーよ」
マリーの笑顔を見たフリージアは、安心したような表情でそう答えたのだった。
(……ローラ様はどのようなおつもりかしら?)
二人のやり取りを、マリーはリリーの相手をしながら見守っていた。
自分のテリトリーに急に侵入して来たローラに、マリーは胸騒ぎがして落ち着かない。
30分ほど経つと、フリージアはローラの膝の上で寝付いてしまった。
「申し訳ありません。すぐにベッドへ移動しますね」
マリーがフリージアを抱き抱えようとすると、ローラが制する。
「私が移すわ」
ローラはそっとフリージアを抱き抱え、ベッドへ横たえた。
その様子をなす術なくただ見ていたマリーは、なぜだか泣きたい気持ちになる。
(フリージアがとられる……)
咄嗟にそう思ったのだ。
いつの間にか、リリーもマリーの腕の中で寝付いている。
ローラはフリージアの寝顔を見ながら口を開く。
「とても可愛いわね……。アリスが、この子達の母親は使用人たちにも優しく、旦那様にも負けずにとても強い人だったと言っていたわ。あなたも前の奥様を知っているのでしょう?」
(やはり、私がこの子達の母親で旦那様の前妻だということをご存知ないのね……!?)
ローラの言葉にマリーが言葉を失っていると、ローラは返事を待たずに続ける。
「……ふふっ。ごめんなさいね。少し気弱になってしまって」
確かに今日のローラは、以前のような毅然とした様子ではなかった。
少し自信を喪失しているかのようにも見える。
「……どうかされたのですか?」
マリーは思わず尋ねてしまった。
元気のないローラが心配になったからではない。
"マストとの出来事が原因ではないか? 何があったのか?"
そんな、計算高い気持ちからだった。
(私、嫌な人間になってしまう……)
尋ねると同時に、マリーは心の中でそんなことを考えていた……
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