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30:マストの提案②
しおりを挟む「……大変申し訳ありません。聞き間違えたかと思いますので、もう一度言ってはいただけないでしょうか?」
驚きにマリーは頭の中が真っ白なまま、頭を下げてそう言う。
「マリー、私と友達になってはくれないだろうか?」
マリーが咄嗟に頭を上げてマストを見ると、無表情でマリーをジッと見るマストと目が合った。
(……これは、夢でも嘘でもなさそうね……)
マリーは姿勢を正して起立姿勢を取り、冷静を装い尋ねる。
「理由を教えていただけますか?」
「……私は2度、離縁をしている。2度目は決定的な離縁理由は他にあるとしても、夫婦関係がうまくいっていたとは言い難いということは、私にもわかっている」
マストはマリーから視線を外すことなく、続ける。
「このままでは、私は誰ともうまくやって行ける気がしないのだ。しかし、子ども達のためにも良好な夫婦関係を築きたい。そのため、女性に慣れたい」
マリーは驚きに目を見開いた。
(旦那様がそのような思考を持っていたなんて……!?)
真剣なマストの眼差しに、マリーは切なくなる。
「……ローラ様にその申し出をされてはいかがですか? 友人から親しくなって行きたいと……」
「……マリーの方が知っていることも多く、早く打ち解けやすいかと思う」
マストは睨むような眼力でマリーを見て言った。
マリーは咄嗟に目を逸らしてしまう。
(私と結婚していた時に、そう思って貰いたかったわ……。ローラ様とのことに前向きでいらっしゃるのね……。よしっ! 私が子ども達のために出来ることを見つけたわ!)
マリーは両手をギュッと力強く握り、キッとマストを見た。
「私は旦那様のためではなくフリージア様とリリー様のために、その申し出を受け入れたいと思います」
「……ああ、わかった」
マストも両手をギュッと握る。
「あの、旦那様、一つだけよろしいでしょうか?」
「何だ?」
マリーは少し緊張しながら口を開いた。
「今後もし再婚した方との間に子どもができたとしても、フリージア様とリリー様のこともその子と同じくらいに愛情を注いて下さいますか?」
真面目な顔でジッとマストを見つめているマリーに、マストは一瞬驚いた顔をしたがすぐに真面目な顔になる。
「今後どのように状況が変化しようとも、フリージアとリリーのことを蔑ろにすることは決してないと、君に誓おう」
マリーとマストは、暫く見つめ合っていた。
(この言葉は信じることが出来る)
マリーはそう思った。
結婚していた頃、不器用なマストはわかりやすい優しさをマリーにくれることはほぼなかった。
しかしだからこそ、マリーはマストの言葉の重みをよくわかっているのだ。
口数の少ないマストは、いい加減なことは決して言わない。
「……はい、信じます。よろしくお願いいたします」
マリーはこれ以上身体を折れないというほど、深くお辞儀をした。
そして頭を上げると、マリーは心からの笑顔で言った。
「それでは、今後は友達ですね? よろしくお願い致します、旦那様」
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