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31:友達
しおりを挟む「旦那様は、私とどの様な友達関係になりたいと考えていらっしゃいますか?」
マリーの問いにマストは宙を見上げ、少し考える。
「……普通に、自然なやりとりをしたい……」
「他愛のない話もですか?」
「ああ」
マストはまっすぐにマリーを見て即答した。
「表面上でですか?」
「……一般的な友人のように……」
「親しくなればなるほど、深い話もするようになると思います」
「……では、それで頼む」
マストは少し困っているような恥ずかしいような、今までマリーが見たことのない複雑な表情をしている。
(表面上だけではないのね……。親しくなることが出来れば、色々と深い話も出来るということ……?)
マリーは気持ちが上向きになるが、すぐに自嘲気味に笑った。
(……私たち結婚していたのに、全然お互いのことについて話していなかったのよね……)
離婚後に、元夫との間でこのようなやり取りをしている自分に、マリーは苦笑いがこぼれる。
「それなら、私の思う友達像と大差はなさそうです」
マリーが微笑んでそう言うと、マストもマリーを見ていつもの真顔で言う。
「私に失礼なことを言っても良いぞ。友達だからな。個人的な感情で君を解雇することはしないと約束する」
「ふふっ。わかりました」
マリーは少しわくわくする気持ちがした。
(私がこの屋敷へ嫁いで来た時は、いきなり結婚だったものね……。結婚前に、婚約期間を設けて交流をして親睦を深められていたら、少しは違った夫婦関係を築くことが出来ていたかもしれないわね……)
マリーはそう思ったが、すぐにそんな考えても仕方のない思考は追い払った。
「旦那様、女性に慣れて、ローラ様と良い関係性を築くことが出来ると良いですね。ローラ様はフリージア様やリリー様にも関心を示して下さっていますし」
マリーが無理矢理に貼り付けた笑顔から目を逸らし、マストは言った。
「今日は提案をしに来ただけなのだ。仕事に戻る。では、子供たちを頼んだ」
「はい」
ドアを開けようとしているマストの背中に、マリーは思わず声を掛けた。
「旦那様!」
立ち止まり振り返ったマストに、マリーは笑顔を向ける。
「また、ゆっくりお話をしましょうね」
マリーがこのような笑顔をマストに向けることもまた、いつ振りか分からないほど、久しぶりのことだった。
マストは驚いた顔をした後、少し口角を上げて穏やかな表情で返した。
「……ああ」
マリーは”ドキッ”と胸が少し踊ったのを感じる。
(この笑顔が子供達ではなく、私に向けられたことが今までにあったかしら……?)
マリーはそう思いながら、マストの背中を見送った。
「フリージア様とリリー様の幸せのために、旦那様とローラ様には幸せになってもらわないとね……」
マリーは、フリージアとリリーの掛け物を直しながらそう呟いたのあった。
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