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第四章 嘘が誠となる時
1:七日後 :イーサン東の国境ティガレストにて
しおりを挟む七日後。
サンブルレイドとは逆の西の国境であるティガレストへ到着したイーサンは、地元騎士団隊長へ情報を聞きに行った。
(この騒ぎのきっかけを作ったのは私だ。できることを精一杯するしかない)
イーサンは、ただその想いしかなかった。
「イーサン第二王子殿下、ご無沙汰しております。本日はどのようなご用件でしょうか?」
騎士団隊長は急なイーサン一行の訪問に、何事かと驚いた顔をしている。
「最近変わったことはなかったか?」
「変わったこと……特にはありませんが……」
イーサンは真顔で、騎士の表情変化を観察しながら尋ねる。
「珍しい集団が来たり、変な馬車が通ったり、変な輩が来たり、怯えている老人や女性がいたり……何でもいい。ここ一週間以内で何か気がついたことや気になったことはなかったか?」
「……特には……」
「……そうか。何か思い出したり、聞いたりしたらすぐに教えてくれ。今日はこの地に夜営する。我々がうろつくことを許してくれ」
「わかりました」
騎士団隊長の言動に違和感を感じなかったイーサンは、すぐに引き下がった。
(ここまでの道のりを怪しい所は見回りながら来たが、一切情報がない。こちら側へは来ていないのだろうか……取り敢えず今日明日はこの町や周辺を捜索しよう)
指示を出しに休憩を取っている騎士たちのもとへ戻っている途中、イーサンは一人の女性に声を掛けられた。
「あのっ、少し宜しいでしょうか……?」
20代前半のその女性は、腹部が大きく膨らんでいる。
妊娠をしているようで、臨月も近そうな大きさだった。
「なんだ?」
イーサンは真顔で言う。
イーサンに見下ろされ、威圧感に押しつぶされそうになりながらも、その女性はギュッと握り拳を作って口を開いた。
「人を探しています。体格は騎士様にとてもよく似ていて、左の頬に傷のある元騎士をご存知ではありませんか? おそらく、あちらこちらを転々としているのではないかと思うのですが……」
「いや、知らん」
そう言い放ち立ち去ろうとしたその時、イーサンは"ハッ"として足を止めた。
「……その者の名は何と申す?」
「ローレンと名乗っておりました。本当かはわかりません。……とにかく身元の分からない人でした」
イーサンは目を見開く。
「……年は?」
「40代前半でしょうか? 恐らくそれくらいかと……」
「この町で出会ったのか?」
「一年ほど前に怪我をして現れたのです。私が介抱をしていました。傷も完治して、半年ほど前に気付くといなくなっておりました」
女性は腹部をさすりながら、髪はボサボサでやつれている。
「……何故探しているのだ?」
「……このお腹の子の父親なのです。伝える前に去ってしまったので……。せめて伝えたいと……」
「そして、出来たらこの町に戻って来て養って欲しいのだな?」
イーサンは一つも表情を崩さずに言った。
「……はい。私には父がおりますが、数ヶ月前に怪我をしてから仕事が出来なくなり、私も身重で……。……とても貧しい暮らしをしております。このままでは、この子を育てられるか……」
女性は目に涙を溜めている。
(初対面の俺にここまで話すのは、よほど切実なのだろうな……)
イーサンの目は同情の色をうつしていた。
「……その男が、もし悪人だったとしてもか……?」
女性は目を見開き、イーサンを見る。
「……一緒に過ごした半年間は、少なくともそのような人ではありませんでした」
女性は、真っ直ぐな眼差しでイーサンにそう言った。
「そうか……。もしどこかで会ったら、伝えておく」
それだけを言ってイーサンは立ち去ろうとしたが、足を止め、辺りを見渡した。
辺りに誰もいないことを確認すると、懐から巾着袋を取り出し、女性に手渡した。
「……元気な子が産まれることを祈っている」
それは、この町では半年は暮らせるほどの額の金だった。
女性は手の中の重みに目から涙が止まらない。
感激のあまりに感謝の気持ちは言葉に出来ず、渡されたお金をギューッと握って、ひたすら去って行くイーサンの背中を見送ったのだった。
イーサンは歩きながら、眉間に皺を寄せる。
(……父の名前を名乗る、左頬に傷のある、40代前半の元騎士……まさか、あのお方か!? しかし、一年前に怪我をしたとはまさか……父の死はただの事故ではなかったのか……?)
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