【完結】城入りした伯爵令嬢と王子たちの物語

ひかり芽衣

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第三章 怪しい雲行き

6:誘拐から一日後:セリーナ

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セリーナは光を感じて目を覚ました。

(ここは……)

右を見ると、大きな窓から光が差し込んでいる。

(……あっ!!!)

「陛下!!! アシュリー!!!」

セリーナはガバッと起き上がり、周りを見渡した。

(ここはどこかしら? 状況確認をしないと……)

セリーナは廊下へ出てみた。

「ここは……城だわ!」

そこには、見慣れた廊下が広がっている。

「セリーナ!」

声のした方を見ると、ホッとした顔をしているヴィクターがいた。

「目が覚めたのだな。良かった。医者を呼ぶからベッドへ戻るぞ」

「私はどうもありません! それよりも、陛下とアシュリーは!?」

セリーナは狼狽した様子で、ヴィクターに縋り付く。
いつもの冷静なセリーナなら、王子に触れるなどする筈がなかった。
それほど今のセリーナは必死の形相だった。

「不甲斐ないが、二人は行方不明のままで手掛かりすらない。今、隠密部隊を総動員して国中を探させている」

「そんな……」

セリーナはその場にヘナヘナと座り込んだ。
そして両手で顔を覆い、泣き出した。

「そんな……そんな……私一人だけ戻って
、申し訳ありません。陛下……アシュリー……」

どんどん姿勢は下がり、床に突っ伏して泣き出した。

(そうだ、思い出したわ。アシュリーが酷い暴力を受けるのを見て、私は嘔吐が止まらなくなったのよ。それで男たちが、私ではなくアシュリーを連れて行ったのだわ。それで私はいつの間にか気を失っていて……。ああアシュリー、ごめんなさい……)

セリーナは全てが現実のことだと悟った。


「セリーナ、泣くのは後だ。何があったのか話してくれ。医者に診てもらった後、王子を全員集めるから」

ヴィクターは厳しい顔でそう言ったのだった。






「私だけが戻って来てしまい、本当に申し訳ありませんでした!!!」

医師の診察後、セリーナが休んでいた客間へ集まった王子たちに、ことの経緯をセリーナは全て話した。
そして、椅子に座った状態で深く頭を下げた。

「セリーナ、頭を上げて。無事で良かったよ。……我が騎士が不甲斐ないことが原因だ。君のせいではない」

一番近くに座っているアダムは、セリーナに優しく言う。

申し訳なさは減らないが少しホッとしたセリーナは、そっとイーサンを見た。

(イーサン殿下……何があったのかはわからないけれど、最近様子がずっとおかしいわ……)

椅子に座ってテーブルの上をジッと見つめているイーサンの横顔を見ながら、セリーナの心の中はイーサンに再び会えてホッとする気持ちと、一人で戻った申し訳ない気持ちとが入り乱れている。

「セリーナ、何か犯人たちの目的や、犯人の手掛かりになるようなことはないかな?」

アダムに質問され、セリーナは再び視線をアダムに戻した。

「……」

セリーナは宙を見上げて思考を駆け巡らせる。

「……"予想よりもボケている。在処を聞き出せるのか"……そのようなことを言っていた気がします……」

「在処……やはりそれが目的か。病の陛下なら口を滑らせるかもしれないとでも思ったのかもな。なあ、イーサン」

ずっと椅子に座って微動だにしていなかったイーサンは、アダムに話を振られて初めてセリーナの方を見た。

「ああ……時期国王と時期騎士団統括が正式に決まる前に、シャインブレイドを奪って戦を起こし、国を乗っ取ろうとしているのだろう。騎士団統括が不在で国王が病ときたら、タイミングを見計らっていた輩にはまさに狙い時だろうな」

セリーナは目を見開くが、他の王子たちは誰も驚いていない。
想定の範囲内のことのようだ。

イーサンを見てセリーナはふと、アシュリーが暴行を受けていたリーダー格の男の顔が頭に浮かんだ。
体格が似ているのだ。
思わず"ブルッ"と身震いをしてしまうが、すぐに「あっ!」と声を上げた。

「アシュリーに酷い暴行を働いていた男性の左頬に、大きな傷がありました」

「酷い暴行だって……!?」

「えっ!? アシュリー大丈夫なの!?」

ヴィクターとオーウェンが急に声を張り上げた。
セリーナはアシュリーの受けた暴行の内容までは詳しく話していなかったのだ。
ヴィクターの険しい表情とオーウェンの心配そうな表情に、セリーナは胸が痛む。

「……腹部を殴られ、左頬を蹴られ地面に投げつけられていました……。頭を打って意識を無くして……。本当は私が連れて行かれる筈だったのです。しかし、アシュリーが暴行を受ける様子を見て、私は嘔吐が止まらなくなってしまって……。それで私の代わりにアシュリーが連れて行かれたのです。……本当に申し訳ありません」

セリーナは再び謝罪をした。

ヴィクターはセリーナの話の内容に驚愕し、その後歯を食い縛り下を向いた。
ポケットからアシュリーのリボンを取り出し、強く握った。

「……アシュリーの怪我の具合はわからないということか……」

「はい……」

セリーナはアシュリーに対して申し訳ない気持ちで一杯になる。

様子をみていたアダムは、冷静に話を戻す。

「連れて行ったということは、命に別状はないということだろう。アシュリーのことは無事だと信じるしかない。今は陛下とアシュリーを見つけるのが先決だ」

ヴィクターも顔を上げ、眉間に深い皺を刻んで頷く。

「左頬の傷か……手掛かりになるかもしれない。他にも何か思い出したら教えてくれ。あとは俺たちに任せて、今日はゆっくりこの客間で休むのだよ」

アダムの満面の笑みに、セリーナは申し訳なさが増した。
今も犯人に捕まったままのエリザベスとアシュリーを想い、心が痛くなる。


「ところで、アシュリーに謎の物体を渡したのは、エイダンかな?」

アダムに急に話を振られ、イーサンの隣に静かに座っていたエイダンは、身体をビクッとさせた。

「……うん。あと三個渡しておけば良かった」

「エイダン兄上の発明が役に立ったの初めてじゃない?」

オーウェンの問いには誰も答えず、アダムが口を開く。

「エイダン、今度、今までの研究を全て教えるように。失敗成功問わず全てだ」

「えっ、全部は無理だよ……」

エイダンは面倒くさそうにそう言う。

繰り広げられているそんな会話には関心を示さず、ヴィクターはアシュリーのリボンを握ったまま、ボソッと呟いた。

「左頬の傷……まさか……」

ヴィクターの言葉は誰の耳にも届かず、アダムの声が響いた。

「ところでセリーナ、陛下が何用でサンブルレイド公爵を城へ呼び出したのか聞いているかい?」

「いいえ、伺っておりません」

「そうか……」

エリザベス不在の今、自然に様々な指揮をアダムが取っていた。
他の王子たちも異論はないようだ。


何故呼ばれたのか理由がわからないサンブルレイド公爵は、領地が心配だからと戻って行った。
ヴィクターもまた「サンブルレイド方面の西を探す」と、城を出た。

イーサンはアダムの指示で、東を探しに行ったのだった。









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