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第四章 嘘が誠となる時
6:ヴィクターの捜索
しおりを挟むアシュリーが村を出てから小さい森に入った朝、ヴィクターはその村を訪れていた。
(今日はこっち方面の小さい集落や森など怪しい所をしらみ潰しに探すぞ)
ヴィクターは険しい顔をしている。
エリザベスとアシュリーが誘拐されてから八日が経過するが、手掛かり一つないのだ。
「村長はいるだろうか?」
ヴィクターは村の入り口で村民に尋ねる。
「サンブルレイドの騎士がいったい何しに来たんだ……?」
村民たちはざわついて集まって来た。
「私が村長だ」
それは、アシュリーが股間を蹴り上げた男だった。
(随分若い村長だが、親が村長だったとかだろう……)
「ここ一週間程の間に、何か変わったことはなかっただろうか?」
"ザワザワ……"
「訪問者はいなかったか?」
「ここ一週間どころか一ヶ月は、村のもの以外誰も見ていねーぞ」
村民たちが小声で話している。
「……特に変わったことも、訪問者もありませんでした」
村長の男もそう答えた。
しかしヴィクターはその男の眉が、一瞬不自然に上がったのを見逃さなかった。
「何か隠していないか?」
「……何も隠しておりません」
村長の男は眉をピクピクさせている。
(村民の前では言いにくいのか?)
「そうか、なら良い。少し村長の家で休ませて貰えるか?」
ヴィクターは一緒に来ていた二人の騎士には村とその周辺を捜索するように告げ、男の家に行った。
「どうぞ」
ドアを開けて中に入ると、床やラグの上が泥だらけだった。
ヴィクターが泥を見ているのに気付いた男は、慌ててそばにいた弟に言う。
「お前、お前が汚したんだかはさっさと掃除しとけって言っただろうが!」
「えっ……」
弟は急に話を振られて驚いた顔をしている。
「俺はゆっくりするつもりはない。村民の前で問いただされなかった優しさに感謝して、さっさと白状しろ」
ヴィクターは男を睨み付けた。
「な、何もありませんって! 私も今から用事があるので……」
ヴィクターは男を更に睨み付け、腰に刺している剣に手を置いた。
「ヒッ! 変な女が来ただけです!」
「変な女……? 詳しく話せ」
ヴィクターは初めて可能性のある話が聞けそうで、前のめりになる。
「夜中に若い泥だらけの女が訪ねて来たんです。馬で王都まで連れて行ってくれないか、無理なら町までと言って」
ヴィクターは目を見開く。
「どんな女だった!?」
「まだ10代だと思います。黒髪で、女にしては背が高くて……」
「瞳の色は?」
「えっ……」
男が答えられずにいると、横から弟が口を挟んだ。
「グリーンでした」
ヴィクターは感情が昂るのを感じた。
「それで、連れて行ったのか!?」
「……いいえ」
男はバツが悪そうに下を向く。
「なぜだ? 馬も二頭いるではないか」
「……今朝は用事があったから無理だったんです。弟はまだ人を乗せて遠くに行けるほど、馬術はうまくないし……」
ヴィクターは決して目を合わせない男を不審に思いながら、尋ねる。
「それで、その女性はどうしたのだ? 」
「出て行きました」
「少しは休ませてやったのか?」
「……いいえ」
「食事は?」
「……いいえ」
ヴィクターは眉間に皺を寄せる。
「なぜだ? この村の村長は、困っている女性にそのような扱いをするのか?」
「知りませんよ! 女が勝手に出て行ったのです!」
「……兄さん! 本当のことを言おう! それで彼女を助けてあげて貰おう! 命が心配だよ!」
弟は兄に話す許しを得ようとするが、男は何も言わずに背を向けた。
弟は否定がなかったのを肯定ととる。
「兄が女性に無礼を働きました。それで女性は逃げるように立ち去ったのです」
ヴィクターは怒りに目を見開く。
(アシュリーかもしれないその女性はきっと、藁にも縋る想いだっただろうに……)
「どちらの方へ立ち去ったのかわかるか?」
ヴィクターは弟に尋ねる。
「そちらに行ったかはわかりませんが、"北東へ行くと小さい森があり、その森を抜けると大きな街がある"とは伝えました」
ヴィクターは驚く。
(サンブルレイドの方角を教えてくれていたのか!)
「でかした!」
ヴィクターは思わず声が漏れる。
ヴィクターはすぐに家を後にしようとし、思いとどまり引き返した。
そして村長の頬を利き手ではない拳で控え目に殴った。
ただの村人を全力で殴るのはフェアではないと思ったからだ。
「彼女に恐怖心と絶望を与えた分だ。もし彼女に何かあれば、また来る」
ヴィクターは男を思いっきり冷たい瞳で睨みつけて家を出た。
「騎士さん! その女性は頬に酷い怪我をしていたし、手足も痛そうでした。身体もとてもしんどそうで……。早く見つけて助けてあげて下さい! 僕が助けてあげられずに、申し訳ありませんでした!!!」
弟はヴィクターの背中へ大声でそう言うと、深く頭を下げた。
ヴィクターは弟の元へ戻り、頭にポンと手を置いた。
「兄上に逆らえなかったのだろう? 今のお前に出来ることはやってくれた。感謝する。ただ不十分だ。強くなって、人を助けられる男になれ!」
ヴィクターはまっすぐに少年を見て言い、頷く少年に見送られながら、走って立ち去ったのだった。
(きっとアシュリーだ!!! どこにいるアシュリー!!! 今助けに行くからな!!!)
ヴィクターは切ない顔で馬に跨った。
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