39 / 60
第四章 嘘が誠となる時
8:再会
しおりを挟む「アシュリー!!!」
アシュリーはまどろみの中、遠くで声が聞こえたような気がする。
(……誰かが私を呼んでいるわ。……何だかヴィクター殿下の声に聞こえるわね。ふふっ。幸せな夢ね。夢から覚めたくないわ……)
そう思いながらも、人の温もりを感じてアシュリーはそっと目を開けた。
温もりを感じる右手を見ると、人の後頭部が目に入った。
床に立膝をつき、ベッドへ肘をつき、祈るように両手でアシュリーの右手を握り絞めている。
(温かくて気持ち良いわ……)
アシュリーがボーっとそんなことを考えていると、手を握る人物から切実な呟きが聞こえて来た。
「アシュリー、目を開けてくれ……」
(この声は……)
「……ヴィクター殿下……?」
何とか絞り出した声は耳に届いたようだ。
アシュリーの手を握ったままバッと顔をあげたヴィクターは、切ない、泣きそうな顔をしている。
「アシュリー……よかった……」
それだけを言うと、再び手をギュッと握った。
そしてすぐに、冷静ないつものヴィクターになる。
「水を飲むのだ、アシュリー。起きられるか?」
アシュリーは頷き身体を起こそうとするが全く力が入らず、身体はびくともしない。
その様子を見たヴィクターは、苦虫を喰ったような顔をした。
「やはり、無理か……。布で口にやるから飲むのだ。身体が干からびてしまう」
「ふふっ」
アシュリーは思わず小声で笑うも、ヴィクターは少しムッとして顔をする。
「笑いごとではない! 医者に診てもらったが、栄養失調と脱水の上に高熱が出ているのだ! 水分を少しずつ摂らないと干からびる!!!」
(ああ、熱のせいでこれほど身体が重いのね……)
「あと、ここはサンブルレイド公爵邸だ。公爵の御厚意で療養をさせてもらっている。安心しろ。あと、身体を綺麗にしたのは侍女だ」
アシュリーはヴィクターが布から垂らしてくれる水を飲んだ。
少し水を口にしたことで、アシュリーは朦朧としつつも、意識がはっきりして来た。
(ヴィクター殿下にまた会えたわ……。お元気そうで良かったわ)
「殿下、横になったままで申し訳ありません。私の話を聞いて下さいますか?」
「もちろんだ。だが、無理をするな」
アシュリーはヴィクターに、休み休みあったことを話した。
ヴィクターは話を聞きながら、合間合間で少しずつ、アシュリーの口に水を滴らす。
「私だけ逃げ出し、申し訳ありません」
アシュリーはヴィクターの目をジッと見て、眉間に皺を寄せた厳しい顔で言った。
ヴィクターもアシュリーを真面目な顔でジッと見つめて言う。
「アシュリーは逃げたのでない。戦うために脱出しただけだ。陛下の判断も、アシュリーの判断も、俺は尊重する」
見つめ合うその目から、ヴィクターが心からそう思っていることが伝わって来て、アシュリーはホッとした。
「そもそも、アシュリーも命懸けだったのだから……。誘拐される時のことも、村での話も聞いた。……とにかく、生きていてくれてありがとう」
ヴィクターはアシュリーの頭を優しく撫でながら、優しい笑顔で言う。
アシュリーは"トクントクン"という自分の胸の鼓動を感じながら、(あ、シャインブレイドを探しに行かなきゃ……)そう思いながらも、遠のく意識に抗うことは出来ずにスーッと眠りについたのだった。
アシュリーの寝顔を見ながら、ヴィクターはアシュリーの右頬にそっと唇を寄せる。
「本当に無事で良かった……」
ヴィクターは涙に滲む瞳でそう呟いた。
ヴィクターはアシュリーの話から、夜間の森の捜索を徹底的に行うように指示したのだった。
6
あなたにおすすめの小説
王太子妃専属侍女の結婚事情
蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。
未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。
相手は王太子の側近セドリック。
ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。
そんな二人の行く末は......。
☆恋愛色は薄めです。
☆完結、予約投稿済み。
新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。
ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。
そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。
よろしくお願いいたします。
【完結】悪役令嬢の私を溺愛した冷徹公爵様が、私と結ばれるため何度もループしてやり直している!?
たかつじ楓@書籍発売中
恋愛
「レベッカ。俺は何度も何度も、君と結ばれるために人生をやり直していたんだ」
『冷徹公爵』と呼ばれる銀髪美形のクロードから、年に一度の舞踏会のダンスのパートナーに誘われた。
クロード公爵は悪役令嬢のレベッカに恋をし、彼女が追放令を出されることに納得できず、強い後悔のせいで何度もループしているという。
「クロード様はブルベ冬なので、パステルカラーより濃紺やボルドーの方が絶対に似合います!」
アパレル業界の限界社畜兼美容オタク女子は、学園乙女ゲームの悪役令嬢、レベッカ・エイブラムに転生した。
ヒロインのリリアを廊下で突き飛ばし、みんなから嫌われるというイベントを、リリアに似合う靴をプレゼントすることで回避する。
登場人物たちに似合うパーソナルカラーにあった服を作ってプレゼントし、レベッカの周囲からの好感度はどんどん上がっていく。
五度目の人生に転生をしてきたレベッカと共に、ループから抜け出す方法を探し出し、無事2人は結ばれることができるのか?
不憫・ヤンデレ執着愛な銀髪イケメン公爵に溺愛される、異世界ラブコメディ!
俺の天使は盲目でひきこもり
ことりとりとん
恋愛
あらすじ
いきなり婚約破棄された俺に、代わりに与えられた婚約者は盲目の少女。
人形のような彼女に、普通の楽しみを知ってほしいな。
男主人公と、盲目の女の子のふわっとした恋愛小説です。ただひたすらあまーい雰囲気が続きます。婚約破棄スタートですが、ざまぁはたぶんありません。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
小説家になろうからの転載です。
全62話、完結まで投稿済で、序盤以外は1日1話ずつ公開していきます。
よろしくお願いします!
異世界召喚されました。親友は第一王子に惚れられて、ぽっちゃりな私は聖女として精霊王とイケメン達に愛される!?〜聖女の座は親友に譲ります〜
あいみ
恋愛
ーーーグランロッド国に召喚されてしまった|心音《ことね》と|友愛《ゆあ》。
イケメン王子カイザーに見初められた友愛は王宮で贅沢三昧。
一方心音は、一人寂しく部屋に閉じ込められる!?
天と地ほどの差の扱い。無下にされ笑われ蔑まれた心音はなんと精霊王シェイドの加護を受けていると判明。
だがしかし。カイザーは美しく可憐な友愛こそが本物の聖女だと言い張る。
心音は聖女の座に興味はなくシェイドの力をフル活用して、異世界で始まるのはぐうたら生活。
ぽっちゃり女子×イケメン多数
悪女×クズ男
物語が今……始まる
勘違いで嫁ぎましたが、相手が理想の筋肉でした!
エス
恋愛
「男性の魅力は筋肉ですわっ!!」
華奢な男がもてはやされるこの国で、そう豪語する侯爵令嬢テレーゼ。
縁談はことごとく破談し、兄アルベルトも王太子ユリウスも頭を抱えていた。
そんな折、騎士団長ヴォルフがユリウスの元に「若い女性を紹介してほしい」と相談に現れる。
よく見ればこの男──家柄よし、部下からの信頼厚し、そして何より、圧巻の筋肉!!
「この男しかいない!」とユリウスは即断し、テレーゼとの結婚話を進める。
ところがテレーゼが嫁いだ先で、当のヴォルフは、
「俺は……メイドを紹介してほしかったんだが!?」
と何やら焦っていて。
……まあ細かいことはいいでしょう。
なにせ、その腕、その太もも、その背中。
最高の筋肉ですもの! この結婚、全力で続行させていただきますわ!!
女性不慣れな不器用騎士団長 × 筋肉フェチ令嬢。
誤解から始まる、すれ違いだらけの新婚生活、いざスタート!
※他サイトに投稿したものを、改稿しています。
前世で孵した竜の卵~幼竜が竜王になって迎えに来ました~
高遠すばる
恋愛
エリナには前世の記憶がある。
先代竜王の「仮の伴侶」であり、人間貴族であった「エリスティナ」の記憶。
先代竜王に真の番が現れてからは虐げられる日々、その末に追放され、非業の死を遂げたエリスティナ。
普通の平民に生まれ変わったエリスティナ、改めエリナは強く心に決めている。
「もう二度と、竜種とかかわらないで生きていこう!」
たったひとつ、心残りは前世で捨てられていた卵から孵ったはちみつ色の髪をした竜種の雛のこと。クリスと名付け、かわいがっていたその少年のことだけが忘れられない。
そんなある日、エリナのもとへ、今代竜王の遣いがやってくる。
はちみつ色の髪をした竜王曰く。
「あなたが、僕の運命の番だからです。エリナ。愛しいひと」
番なんてもうこりごり、そんなエリナとエリナを一身に愛する竜王のラブロマンス・ファンタジー!
多分悪役令嬢ですが、うっかりヒーローを餌付けして執着されています
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【美味しそう……? こ、これは誰にもあげませんから!】
23歳、ブラック企業で働いている社畜OLの私。この日も帰宅は深夜過ぎ。泥のように眠りに着き、目覚めれば綺羅びやかな部屋にいた。しかも私は意地悪な貴族令嬢のようで使用人たちはビクビクしている。ひょっとして私って……悪役令嬢? テンプレ通りなら、将来破滅してしまうかも!
そこで、細くても長く生きるために、目立たず空気のように生きようと決めた。それなのに、ひょんな出来事からヒーロー? に執着される羽目に……。
お願いですから、私に構わないで下さい!
※ 他サイトでも投稿中
崖っぷち令嬢は冷血皇帝のお世話係〜侍女のはずが皇帝妃になるみたいです〜
束原ミヤコ
恋愛
ティディス・クリスティスは、没落寸前の貧乏な伯爵家の令嬢である。
家のために王宮で働く侍女に仕官したは良いけれど、緊張のせいでまともに話せず、面接で落とされそうになってしまう。
「家族のため、なんでもするからどうか働かせてください」と泣きついて、手に入れた仕事は――冷血皇帝と巷で噂されている、冷酷冷血名前を呼んだだけで子供が泣くと言われているレイシールド・ガルディアス皇帝陛下のお世話係だった。
皇帝レイシールドは気難しく、人を傍に置きたがらない。
今まで何人もの侍女が、レイシールドが恐ろしくて泣きながら辞めていったのだという。
ティディスは決意する。なんとしてでも、お仕事をやりとげて、没落から家を救わなければ……!
心根の優しいお世話係の令嬢と、無口で不器用な皇帝陛下の話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる