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第四章 嘘が誠となる時
8:再会
しおりを挟む「アシュリー!!!」
アシュリーはまどろみの中、遠くで声が聞こえたような気がする。
(……誰かが私を呼んでいるわ。……何だかヴィクター殿下の声に聞こえるわね。ふふっ。幸せな夢ね。夢から覚めたくないわ……)
そう思いながらも、人の温もりを感じてアシュリーはそっと目を開けた。
温もりを感じる右手を見ると、人の後頭部が目に入った。
床に立膝をつき、ベッドへ肘をつき、祈るように両手でアシュリーの右手を握り絞めている。
(温かくて気持ち良いわ……)
アシュリーがボーっとそんなことを考えていると、手を握る人物から切実な呟きが聞こえて来た。
「アシュリー、目を開けてくれ……」
(この声は……)
「……ヴィクター殿下……?」
何とか絞り出した声は耳に届いたようだ。
アシュリーの手を握ったままバッと顔をあげたヴィクターは、切ない、泣きそうな顔をしている。
「アシュリー……よかった……」
それだけを言うと、再び手をギュッと握った。
そしてすぐに、冷静ないつものヴィクターになる。
「水を飲むのだ、アシュリー。起きられるか?」
アシュリーは頷き身体を起こそうとするが全く力が入らず、身体はびくともしない。
その様子を見たヴィクターは、苦虫を喰ったような顔をした。
「やはり、無理か……。布で口にやるから飲むのだ。身体が干からびてしまう」
「ふふっ」
アシュリーは思わず小声で笑うも、ヴィクターは少しムッとして顔をする。
「笑いごとではない! 医者に診てもらったが、栄養失調と脱水の上に高熱が出ているのだ! 水分を少しずつ摂らないと干からびる!!!」
(ああ、熱のせいでこれほど身体が重いのね……)
「あと、ここはサンブルレイド公爵邸だ。公爵の御厚意で療養をさせてもらっている。安心しろ。あと、身体を綺麗にしたのは侍女だ」
アシュリーはヴィクターが布から垂らしてくれる水を飲んだ。
少し水を口にしたことで、アシュリーは朦朧としつつも、意識がはっきりして来た。
(ヴィクター殿下にまた会えたわ……。お元気そうで良かったわ)
「殿下、横になったままで申し訳ありません。私の話を聞いて下さいますか?」
「もちろんだ。だが、無理をするな」
アシュリーはヴィクターに、休み休みあったことを話した。
ヴィクターは話を聞きながら、合間合間で少しずつ、アシュリーの口に水を滴らす。
「私だけ逃げ出し、申し訳ありません」
アシュリーはヴィクターの目をジッと見て、眉間に皺を寄せた厳しい顔で言った。
ヴィクターもアシュリーを真面目な顔でジッと見つめて言う。
「アシュリーは逃げたのでない。戦うために脱出しただけだ。陛下の判断も、アシュリーの判断も、俺は尊重する」
見つめ合うその目から、ヴィクターが心からそう思っていることが伝わって来て、アシュリーはホッとした。
「そもそも、アシュリーも命懸けだったのだから……。誘拐される時のことも、村での話も聞いた。……とにかく、生きていてくれてありがとう」
ヴィクターはアシュリーの頭を優しく撫でながら、優しい笑顔で言う。
アシュリーは"トクントクン"という自分の胸の鼓動を感じながら、(あ、シャインブレイドを探しに行かなきゃ……)そう思いながらも、遠のく意識に抗うことは出来ずにスーッと眠りについたのだった。
アシュリーの寝顔を見ながら、ヴィクターはアシュリーの右頬にそっと唇を寄せる。
「本当に無事で良かった……」
ヴィクターは涙に滲む瞳でそう呟いた。
ヴィクターはアシュリーの話から、夜間の森の捜索を徹底的に行うように指示したのだった。
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