【完結】城入りした伯爵令嬢と王子たちの物語

ひかり芽衣

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第四章 嘘が誠となる時

12:記された真実

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"コンコン"

「執事長より伝言です。"約三十人の町人が押しかけて来ていて、更にどんどん増えて来ている。皆、陛下の居場所を知っていると言っており、無碍に追い返す訳にも行かず困っている。取り敢えず広場へ通してもいいか"とのことです」

扉を開けて入って来たセリーナの言葉を聞き、アダムは渋い顔をする。

「……一人残らず広場へ通すように伝えて。私ももう少ししたら行く」

アダムの指示を伝えにセリーナは退室する。

「エイダン、念の為に使えそうな物の準備をこの後でしておいて。まがい者が混ざっているかもしれない。それどころか、全員かも……」

アダムの言葉に緊張した空気が走る。

「取り敢えず、急いでノートの中を見よう」

アダムはそう言ってノートを開いた。
ノートの周りをぐるっと全員が囲み、ノートを覗き込む。



表紙をめくった最初の1ページ目には、手紙のような内容が書かれていた。

『物忘れの病を患っているというのは嘘なの。皆の本性が見たかった。私の知らない皆が知りたかった……。嘘をついてごめんなさい。今日アシュリーにこのノートを貰ったわ。せっかくだから、たまに記録をしていくことにするわ。』


「えっ、母上、物忘れの病にかかっている訳じゃないの!? 良かったー!!!」

オーウェンは心から安堵した顔で、大きな声で言った。

「アシュリー、これは本当かな?」

「……はい、本当です。嘘をついていて申し訳ありませんでした」

表情を変えないアダムの問いに、アシュリーは一歩下がって頭を下げて謝罪する。

「……そうか。……時間がない、シャインブレイドの文字を探そう。アシュリー、頭を上げて」

「はい……」

アシュリーはおずおずと頭を上げたが、ヴィクターの方を見ることは出来なかった。
エリザベスの指示にアシュリーは従っただけで、悪いことをした訳ではない。
でもやはり、信頼してくれていた人を騙すことに罪悪感はある。

(嫌われたかしら……)

アシュリーの気が沈みそうになっていると、オーウェンの声が響いた。

「あった!」

オーウェンが指差すところにシャインブレイドの文字がある。
皆、無心でノートを覗き込む。




"月と共に眠る場所"




そこにはそう記されていた。


「この場所は……」

ヴィクターが口を開いた瞬間……


"ドカーン!!!"


大きな音と共に、少し床が揺れた。

「何!? エイダン兄上、何か仕掛けてたの!?」

「なっ……僕じゃない!」

オーウェンとエイダンのやり取りを聞きながら、全員が廊下へ出る。
人がバタバタと階下へ集まっていっている。
そんな中で、人の流れを逆走して来た執事長は、アダムを見つけると報告姿勢を取る。

「殿下! 一階の民を集めていた部屋で爆発騒ぎがあり、民達が暴れております。沈静化が見込めず、やむおえず片っ端から捕らえているところです」

「何故そのような事態に……。すぐに行こう」

「まだ危険かもしれません!」

「影から様子を覗くだけだよ」

アダムはノートを懐にしまい、落とさないように上着をしっかりと着込んだ。
そしてアダムとヴィクター、オーウェンは現場へ向かい、エイダンは反対方向へ走って行った。
アシュリーも後を追おうとしたが、足が痛み、思いとどまった。

(私が行っても邪魔になるだけで何の役にも立たないわ。騒ぎが収まるまでここで待たせて貰いましょう……)




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