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最終章:新たな国王の誕生
5:シャインブレイド④:戦闘
しおりを挟むアシュリーは馬の上でヴィクターの背に抱きついた。
この体勢は、サンブルレイドから城までの移動で慣れたもである。
ただ違うのは、ヴィクターとアシュリーの身体の間にシャインブレイドを挟んでいることだ。
「アシュリー、絶対に俺もシャインブレイドも離すなよ!」
「はい! 絶対に離しません!」
馬術の技術は明らかに、輩たちよりもヴィクターの方が上だった。
アシュリーとシャインブレイドを乗せて、森の中を器用に右に左に木を利用しながらうまく逃げる。
それどころか、どんどん輩との距離が空いて行く。
その時、明らかに動きの違う人物が馬に乗って現れた。
(他の輩とレベルが桁違いだ)
ヴィクターはその人物の機敏な動きから、咄嗟にそう思った。
するとその人物は、近付くとヴィクターたちの乗る馬の足を狙う。
『ヒヒーン!!!』
足に短剣の刺さった馬はバランスを崩し転倒した。
ヴィクターは咄嗟に馬から先に倒れるように身体を操作し、必死にしがみついていたアシュリーも地面への激突は免れた。
「お前は誰だ!」
ヴィクターはすぐに敵の目を引くように大きく動いた。
アシュリーはヴィクターのこの行動が『隠れろ!』と言っているように思えて、すぐにそばの大きな木の幹に隠れ、そこから少しずつ遠くへ隠れながら移動していった。
ちょうど良い地面の窪みを見つけ、そこに隠れてヴィクターたちを盗み見る。
その人物は自ら馬から降り、ヴィクターの前に立ちはだかった。
「あなたは……」
「ヴィクター、久しぶりだな」
予想していたとはいえ本人の登場に驚きの顔を浮かべるヴィクターに、その人物は悪い笑顔を浮かべて言った。
「ローイ様……お久しぶりです。このような形で再会したくはありませんでした」
「そうか? 俺はそうは思わない。俺はシャインブレイドを手に入れ、反乱を起こし、この国を手に入れる」
余裕な笑顔を浮かべて言うローイに、ヴィクターはグッと奥歯を噛みしめ睨み付ける。
「陛下は無事か?」
「俺が最後に本のことを聞き出した時は、まだ生きていたな」
「なっ……!?」
「あれがこの国の最高権力者とは、驚くよな」
薄ら笑っているローイに対して、ヴィクターは剣に手を掛け戦闘体勢に入ったまま、険しい顔をしている。
「陛下に何をしたのだ!?」
「精神的に追い詰めてやっただけさ。優しくしてダメなら、今度は逆だろ。過度のストレスを与えることで余計に混乱してポロッと言うんじゃないかと思ってな! 侍女のあの女を、女王の目の前でいたぶってやろうと楽しみにして戻ったら逃げてやがって、心底がっかりしたぜ。おーい、どっかで聞いてるんだろー? 待ってろよー! すぐにこいつを片付けてシャインブレイドを貰いに行くからなー!」
ローイのその余裕は一体どこから来るのだろうか?
アシュリーは胸が騒いでならなかった。
(ヴィクター殿下……!!!)
「何故、父上の名を名乗っているのだ?」
「悪いことをするのに本名を晒すのもなーって思っただけだよ。あいつは死んだしちょうど良いかと思って」
ケロッと言うローイに、ヴィクターは怒りを抑えながら尋ねる。
「……お前が殺したのか?」
「ああ。わざと大きな岩を一行に落として、その隙にアイツを崖から突き落とした。そばまで生存確認に行くと、死んだフリして生きてやがって、不意をついて攻撃して来たんだ。怪我だらけの姿で。笑えたぞー。常に俺よりも優れていると褒められまくっていた奴の最期がこれかと思うと、楽しくて仕方がなかった。剣でとどめをさせなかったのが心残りだったなー。自然に見えるよう、岩で頭を思いっきり叩いて息の根を止めてやった! ははは!」
「……よくもっ!!!」
ヴィクターが走り出したその時、ローイは手裏剣のような小さい刃物を一気に何個もヴィクターの足目掛けて飛ばした。
「くっ!!!」
全てを避けることが出来ず、一つが大腿に深く突き刺さっている。
(……ヴィクター殿下!!! ローイ様はこのつもりで余裕ぶっていたのね……)
アシュリーはハラハラしながらシャインブレイドを抱きしめて祈る。
ヴィクターが少しよろめいたその瞬間、ローイが一気に襲いかかって来る。
素早い動きで剣を捌く。
何とか避けたヴィクターだが、立て続けの攻撃に今度は剣を剣で受ける。
「くっ……」
太腿に力が入りにくく踏ん張りにくい。
そのヴィクターの様子にニヤッと笑ったローイは再びすぐに剣を振る。
その時……
"シュッ!"
ローイの目の前にグリーンのリボンが舞う。
「なっ……!?」
視線がリボンに一瞬いったそのすきに、ヴィクターは剣を振り下ろす。
何とか剣で受け止めたローイだが、今ので一気に頭に血が上った。
「汚い手を……」
「お前に言われたくない! 戦闘は頭脳戦だ!」
ついに全く敬語を使わなくなったヴィクターのローイへの軽蔑を感じる。
目の色を変え、さっきまでとは違う勢いでヴィクターに襲いかかる。
その時、ローイの腕に黒い球が当たる。
(うっ……顔に当たらなかった……)
アシュリーは黒い球を本当は顔目掛けて投げたのだが、10mほど離れた距離からの投球であり、ローイに当たっただけよしとしなければならない状況だった。
そして、投げるとすぐに、アシュリーは再び元の位置に戻り身を潜めた。
「ふざけたことを!!!」
ネバネバの黒い物体が腕につき、剣の操作性を落としている。
明らかに苛立った様子のローイの太腿に、ヴィクターは冷静に剣を深く突き刺す。
「くっ……」
ローイが地面に膝をついたその時、イーサンが到着した。
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