53 / 60
最終章:新たな国王の誕生
8:新国王の誕生
しおりを挟む(陛下はサンブルレイド公爵へ、俺ではなくイーサン兄上を養子としてあとを継がせることを提案しようと、誘拐されたあの日に公爵を呼び出していたのか……)
就任式の準備も整い、人々の入場が終わるのを別室で待ちながらヴィクターは考えていた。
"コンコン"
「入れ」
「失礼いたします」
入って来たのはアシュリーだった。
いつもの侍女の格好ではなく、ドレスを着ている。
アシュリーの瞳と同じ緑色のドレス姿に、ヴィクターは思わず見惚れた。
「……ドレス姿を見るのは初めてだな。綺麗だ」
「おやめ下さい! 顔の大きなガーゼが更に目立つので、ドレスなんて着たくなかったのです」
「俺は、見ることが出来て嬉しい。少し心が軽くなった気がするよ。今度は顔の傷が治った時に、また着て見せてくれ」
恥ずかしくてヴィクターの目を見られないアシュリーに、ヴィクターはいつもの悪戯っぽい笑みをした。
(傷が残るかもしれませんが……)
アシュリーはそう思いながらもいつものヴィクターの様子にホッとして、訪室の目的を口にする。
「ヴィクター殿下、実は、アダム殿下より女王陛下の代わりに国王就任の王冠を授ける役割を任せられました」
「ああ、それでドレスを着ているのか」
困った顔のアシュリーは、笑顔でアシュリーを見ているヴィクターを見上げて言う。
「……私なんかが、よろしいのでしょうか?」
「こらっ!」
ヴィクターは軽く咎める。
「あっ……"なんか"などともうして、申し訳ありません。しかし、私はただの伯爵令嬢であり陛下の侍女です」
「アシュリーがいなければシャインブレイドは手に入らなかった。それに何より、陛下がアシュリーをこの事態に巻き込んだのだ。君はとても勇敢で素敵な女性だ。君に王冠を授けて貰えるなんて、俺は幸運だ」
ヴィクターは一歳の迷いなく、そう言い切った。
ヴィクターのその言葉で、今まで躊躇っていたアシュリーは心を決めた。
「分かりました。新国王陛下がそう仰られるのなら、私は"その任務を遂行するのにふさわしい"そう自己暗示をかけて臨みます! 式直前にお邪魔して、申し訳ありませんでした!」
(迷ったけれどヴィクター殿下と話にきて良かったわ)
アシュリーは覚悟の決まった顔をしている。
「アシュリー、まだ身体が本調子ではないだろう? 手足も痛むだろうし、式が終わったらゆっくり休むのだぞ」
「ありがとうございます」
笑顔で退室しようとしたアシュリーを、ヴィクターが呼び止める。
「アシュリー」
「はい?」
振り返ったアシュリーの目に、初めて目にする自信なさげなヴィクターの顔がうつった。
「俺が国王で良いのだろうか?」
そして、初めての弱音を聞く。
(ヴィクター殿下……私に心を開いて下さっているということかしら……?)
アシュリーは不謹慎ながら、ヴィクターの弱さを垣間見て嬉しい気持ちが芽生えてしまった。
「ヴィクター殿下が良いのです」
アシュリーは真剣な顔でまっすぐにヴィクターの目を見て言う。
そして、次にとびっきりの笑顔を見せて続けた。
「ヴィクター国王陛下の治める国の民でいられることを、心から幸せに思います」
ヴィクターは驚いた顔を一瞬したあと、すぐに破顔した。
「ははっ、そうか。わかった。俺も覚悟を決めよう。ありがとう」
和やかな空気が流れ、アシュリーは再び退室をしようとすると、これまた再び呼び止められた。
「アシュリーは"民"でありたいのか?」
「えっ? はい、勿論……」
ヴィクターは考える顔をしたあと、笑顔で言った。
「今ではないな。まずは陛下を取り戻し、反乱を終息させないとな」
「……はい?」
(何なのかしら?)
アシュリーが訳がわからずポカンとした顔をしていると、アダムに呼ばれて今度こそ退室したのだった。
就任式は滞りなく執り行われた。
アシュリーがヴィクターに王冠を被せた後、ヴィクターと一瞬熱い視線が絡まったような気がしたが、すぐに集まっている騎士や城関係者をヴィクターは見渡した。
(とても堂々とされているわ。本当に素敵……)
アシュリーはこの瞬間をこのような間近でら迎えられたことに、心から感謝の気持ちを抱く。
続いて、ヴィクターから騎士団統括に任命されたアダムに、シャインブレイドが手渡される。
そしてちょうどその時、オーウェンの使者が城へ到着した。
その知らせを受けたヴィクターとアダムは頷き合う。
「皆の者、これを見よ!!!」
アダムはシャインブレイドを壇上で高く掲げた。
「我々にはシャインブレイドがついている。勝利は我々の手に!」
「「「おー!!!!!」」」
全員の雄叫びが会場中にこだまする。
その中央に輝くシャインブレイドは、まさしく勝利の象徴だった。
(凄い……皆の士気が一気に上がった……)
アシュリーは圧倒され、ただただ呆然と立ち尽くしてその光景を眺めていた。
「我が陛下を取り戻し、反逆者たちを捕らえよ!」
そのヴィクターの命令を受け、アダムが声高に宣言する。
「皆の者、出陣だ!!!」
「「「おーっっっ!!!」」」
6
あなたにおすすめの小説
契約結婚の相手が優しすぎて困ります
みみぢあん
恋愛
ペルサル伯爵の婚外子リアンナは、学園に通い淑女の教育を受けているが、帰宅すれば使用人のような生活をおくっていた。 学園の卒業が近くなったある日、リアンナは父親と変わらない年齢の男爵との婚約が決まる。 そんなリアンナにフラッドリー公爵家の後継者アルベールと契約結婚をしないかと持ちかけられた。
【完結】新皇帝の後宮に献上された姫は、皇帝の寵愛を望まない
ユユ
恋愛
周辺諸国19国を統べるエテルネル帝国の皇帝が崩御し、若い皇子が即位した2年前から従属国が次々と姫や公女、もしくは美女を献上している。
既に帝国の令嬢数人と従属国から18人が後宮で住んでいる。
未だ献上していなかったプロプル王国では、王女である私が仕方なく献上されることになった。
後宮の余った人気のない部屋に押し込まれ、選択を迫られた。
欲の無い王女と、女達の醜い争いに辟易した新皇帝の噛み合わない新生活が始まった。
* 作り話です
* そんなに長くしない予定です
王太子妃専属侍女の結婚事情
蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。
未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。
相手は王太子の側近セドリック。
ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。
そんな二人の行く末は......。
☆恋愛色は薄めです。
☆完結、予約投稿済み。
新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。
ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。
そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。
よろしくお願いいたします。
【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない
くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、
軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。
言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。
――そして初めて、夫は気づく。
自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。
一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、
「必要とされる存在」として歩き始めていた。
去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。
これは、失ってから愛に気づいた男と、
二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。
――今さら、遅いのです。
最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました
斉藤めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。
白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。
その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。
それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。
やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり――
白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。
身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
忘れ去られた婚約者
かべうち右近
恋愛
『僕はレベッカしか選ばない』
甘い声音でそう話したはずの王太子サイラスは、レベッカを忘れてしまった。
レベッカは、王太子サイラスと付き合っていることを、ある事情により隠していた。舞踏会で関係を公表し、婚約者に指名される予定だったのに、舞踊会の夜にサイラスは薬を盛られて倒れ、記憶喪失になってしまう。
恋人が誰なのかわからないのをいいことに、偽の恋人が次々と名乗りをあげ王太子の婚約者の座を狙ってくる。おかげで不信に陥ったサイラスに、レベッカは自分が恋人だと名乗り出せなくなってしまった。
サイラスの記憶喪失を解消するため、薬師兼魔女であるレベッカは恋人であることを隠しながら、事件調査を協力することになった。そうして記憶が戻らないまま二人の距離は再び近づいていく。だが、そんなおりにサイラスの偽の恋人を名乗りでた令嬢たちが、次々と襲われる事件も起き始めて……!?
※他のサイトにも掲載しています。
毎日更新です。
【番外編も完結】で、お前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか?
Debby
恋愛
ヴェルトが友人からの手紙を手に辺境伯令嬢であるレィディアンスの元を訪れたのは、その手紙に「詳細は彼女に聞け」と書いてあったからだ。
簡単にいうと、手紙の内容は「学園で問題を起こした平民──エボニーを妻として引き取ってくれ」というものだった。
一方その話を聞いてしまった伯爵令嬢のオリーブは動揺していた。
ヴェルトとは静かに愛を育んできた。そんな自分を差し置いて、言われるがまま平民を妻に迎えてしまうのだろうか。
そんなオリーブの気持ちを知るはずもないエボニーは、辺境伯邸で行儀見習いをすることになる。
オリーブは何とかしてヴェルトを取り戻そうと画策し、そのことを咎められてしまう。もう後は無い。
オリーブが最後の望みをかけてヴェルトに自分を選んで欲しいと懇願する中、レィディアンスが静かに口を開いた。
「で、そろそろお前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか」
「はい?」
ヴェルトは自分が何を言われたのか全く理解が出来なかった。
*--*--*
覗いてくださりありがとうございます。(* ᴗ ᴗ)⁾⁾
★2/17 番外編を投稿することになりました。→完結しました!
★★「このお話だけ読んでいただいてもOKです!」という前提のもと↓↓↓
このお話は独立した一つのお話ですが、「で。」シリーズのサイドストーリーでもあり、第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」の「エボニーその後」でもあります(あるいは「最終話」のその後)。
第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」
第二弾「で、あなたが私に嫌がらせをする理由を伺っても?」
第三弾「で、あなたが彼に嫌がらせをする理由をお話しいただいても?」
どれも女性向けHOTランキングに入り、特に第二弾はHOT一位になることが出来ました!(*´▽`人)アリガトウ
もしよかったら宜しくお願いしますね!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる