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第一章:果物屋の看板娘とその幼馴染
①果物屋の看板娘と幼馴染
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「私を信じるなら、これを飲ませてごらん」
恋の病を罹っているカトリーヌに、魔女はこう言ってひとつの小瓶を差し出した……ーーー
ーーー3か月前。
「カトリーヌ、この間の林檎は蜜がたっぷりで甘くて美味しかった! 今日もあるかい?」
今日も店番をしている果物屋の看板娘カトリーヌにこう話しかけるのは、幼馴染のローイだ。
隣の野菜屋の看板息子ローイは同じ年で、赤ん坊の頃からずっと一緒に成長して来た。
父親を早くに亡くし、二人で苦労しながら頑張っているカトリーヌ母娘の姿を見て来たローイは、いつもカトリーヌに明るく話しかけて元気づけてくれる。
そんな二人もいつしか17歳となった。長身で格好良く成長したローイに、最近カトリーヌは戸惑ってばかりだ。
”友情とは違う感情”を自覚してからというもの、(気持ちに気付かれたらどうしよう)という危惧から、いつも素っ気ない態度になってしまっている。
(自然にしよう)
そう思えば思う程に、ぎこちなくなってしまう。
ローイの、髪色と同じ茶色の瞳を見ながら話すことが、どんどん難しくなって来ている。
どんどん膨らんでいくこの想いが今にも溢れそうで……
でも知られる勇気はまだない。
想いを伝えることよりも、今の関係を維持することの方が大切だ。
失うなんて考えられない。
それほどローイの存在は大きく、カトリーヌの生活の一部だった。
最近カトリーヌは、ローイと目が合うと自分のことを恥ずかしく感じるようにもなっていた。
153㎝と小柄のカトリーヌは、20㎝以上身長の高いローイを見上げると、心がざわつく。
色白ではあるがそばかすだらけの肌、ガリガリの身体、くせ毛の赤毛が目立たない様にいつも肩の長さで両サイドに三つ編みをしている。
カトリーヌは、そんな子供っぽい外見の自分に自信がない。
カトリーヌは物心ついた時から最近まで、身体の弱い母を支えながら生きることに精一杯だった。
ずっとローイに支えてもらいながら、何とか乗り越えて来た。
やっと母の体調が落ち着き気づくと、自分もローイもすっかり大人に片足を突っ込む年になっていたのだ。
約一年前、今にも命が失せそうだった母が持ちこたえ目を開けた時のことが、カトリーヌは忘れられない。
昏睡状態だった数日間、ずっと不安で心細かったカトリーヌを、ローイは決して一人にはしなかった。
ずっと傍にいてくれたのだ。
母親の隣で手を組み拝み続けるカトリーヌに、ローイは声を掛けるではなく、ただ、同じ空間に居続けてくれた。
それがどれだけ心強かったことか……
そして母が目を開けた時、カトリーヌは言葉にならずただただ大粒の涙が流れた。
するとカトリーヌの左手が大きな温もりに包まれ、そのローイの温もりに、更に涙は止まらなくなってしまったのだ。
ひとしきり泣いたカトリーヌがそっと隣を見ると、彼女の手をギュッと握りながら涙ぐみ、カロリーヌを優しく見つめるローイがいた。
(ローイの涙を見るのは子供の頃以来ね……)
カトリーヌは冷静にそう思った。
そしてその翌日、いつもと同じ笑顔を向けるローイを見た瞬間、カトリーヌは”フイッ”と目を逸らしてしまったのだ。
それが、ローイを”男”として初めて意識と自覚をした時だった。
恋の病を罹っているカトリーヌに、魔女はこう言ってひとつの小瓶を差し出した……ーーー
ーーー3か月前。
「カトリーヌ、この間の林檎は蜜がたっぷりで甘くて美味しかった! 今日もあるかい?」
今日も店番をしている果物屋の看板娘カトリーヌにこう話しかけるのは、幼馴染のローイだ。
隣の野菜屋の看板息子ローイは同じ年で、赤ん坊の頃からずっと一緒に成長して来た。
父親を早くに亡くし、二人で苦労しながら頑張っているカトリーヌ母娘の姿を見て来たローイは、いつもカトリーヌに明るく話しかけて元気づけてくれる。
そんな二人もいつしか17歳となった。長身で格好良く成長したローイに、最近カトリーヌは戸惑ってばかりだ。
”友情とは違う感情”を自覚してからというもの、(気持ちに気付かれたらどうしよう)という危惧から、いつも素っ気ない態度になってしまっている。
(自然にしよう)
そう思えば思う程に、ぎこちなくなってしまう。
ローイの、髪色と同じ茶色の瞳を見ながら話すことが、どんどん難しくなって来ている。
どんどん膨らんでいくこの想いが今にも溢れそうで……
でも知られる勇気はまだない。
想いを伝えることよりも、今の関係を維持することの方が大切だ。
失うなんて考えられない。
それほどローイの存在は大きく、カトリーヌの生活の一部だった。
最近カトリーヌは、ローイと目が合うと自分のことを恥ずかしく感じるようにもなっていた。
153㎝と小柄のカトリーヌは、20㎝以上身長の高いローイを見上げると、心がざわつく。
色白ではあるがそばかすだらけの肌、ガリガリの身体、くせ毛の赤毛が目立たない様にいつも肩の長さで両サイドに三つ編みをしている。
カトリーヌは、そんな子供っぽい外見の自分に自信がない。
カトリーヌは物心ついた時から最近まで、身体の弱い母を支えながら生きることに精一杯だった。
ずっとローイに支えてもらいながら、何とか乗り越えて来た。
やっと母の体調が落ち着き気づくと、自分もローイもすっかり大人に片足を突っ込む年になっていたのだ。
約一年前、今にも命が失せそうだった母が持ちこたえ目を開けた時のことが、カトリーヌは忘れられない。
昏睡状態だった数日間、ずっと不安で心細かったカトリーヌを、ローイは決して一人にはしなかった。
ずっと傍にいてくれたのだ。
母親の隣で手を組み拝み続けるカトリーヌに、ローイは声を掛けるではなく、ただ、同じ空間に居続けてくれた。
それがどれだけ心強かったことか……
そして母が目を開けた時、カトリーヌは言葉にならずただただ大粒の涙が流れた。
するとカトリーヌの左手が大きな温もりに包まれ、そのローイの温もりに、更に涙は止まらなくなってしまったのだ。
ひとしきり泣いたカトリーヌがそっと隣を見ると、彼女の手をギュッと握りながら涙ぐみ、カロリーヌを優しく見つめるローイがいた。
(ローイの涙を見るのは子供の頃以来ね……)
カトリーヌは冷静にそう思った。
そしてその翌日、いつもと同じ笑顔を向けるローイを見た瞬間、カトリーヌは”フイッ”と目を逸らしてしまったのだ。
それが、ローイを”男”として初めて意識と自覚をした時だった。
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