【短編集】あなたが本当に知りたいことは何ですか?

ひかり芽衣

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第一章:果物屋の看板娘とその幼馴染

②カトリーヌとローイ

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「おーい、カトリーヌ? 聞いているか?」

ローイの声にカトリーヌは我に返る。

(いけない、ちょっと回想してしまっていたわ)

「はいはい、林檎ならあるわよ! ひとつおまけしてあげる」

「やった!」

顔を上げれば、眩しい笑顔がそこにあることは間違いない。
しかし、気恥ずかしさからカトリーヌは顔を逸らしたまま、林檎を三つ入れた紙袋をローイの方へ何も言わずに差し出す。
思いの外ぶっきら棒な渡し方になってしまう。
カトリーヌがそんな自分に密かに落ち込んでいると、ローイは全く気にした様子なく話しかけて来る。

「おばさんの調子はどうだい?」

「落ち着いているわ、心配は不要よ」

(ああ、また私はこんな素っ気ない言い方……)

ポーカーフェイスを保ちながら、最近のカトリーヌはしょっちゅう心の中で泣いている。

「あまりおばさんの姿を見ないから……」

「裏で、仕入れのこととか頭を使うことをしてくれているのよ。体力仕事は私の担当。それにたまには店番を変わってもくれているし」

「そう、それだよ! 数ヶ月に一回くらい、最近カトリーヌは姿を消すよな。一体どこへ行っているんだ?」

ローイの声色に”心配”を感じ取ったカトリーヌは、チラッとローイを見た。
真っ直ぐカトリーヌを見つめる瞳には、心配や不安の色を滲んでいる。
あまり見ないローイの表情に、カトリーヌの胸は”ドキッ”と高鳴る。

(心配してくれているのにときめくなんて、私はなんて勝手なの……)

カトリーヌはそんなことを考え、再び下を向いてしまう。

「……別に、少し気分転換に出掛けているだけよ」

「だから、どこに……」

「ローイだって、最近時々何処かへ行っているじゃない?」

「それは……」

カトリーヌの聞き返しに、ローイは口籠ってしまう。

「……俺も気分転換だよ。……今日は美味しい大根が入っているから、後から持って来るよ。じゃあな」

ローイは隣の自分の野菜屋の店番へ、逃げるようにさっさと戻って行ってしまった。

(私もだけど、ローイも最近何か隠しているのよね……。昔は私たちの間に隠し事なんて何もなかったのに……)

カトリーヌは少し寂しく感じる。
そんなもやもやした気持ちを吹き飛ばしたくて、カトリーヌは大きな声を上げた。

「いらっしゃいませ! 今日のおすすめは林檎ですよー! 蜜のたっぷりのった美味しい林檎はいかがですかー?」

満面の笑みで接客をしているカトリーヌを、野菜屋からローイが”じっ”とみていることに、カトリーヌは気付いてはいなかった……

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