【短編集】あなたが本当に知りたいことは何ですか?

ひかり芽衣

文字の大きさ
5 / 14
第一章:果物屋の看板娘とその幼馴染

⑤カトリーヌとローイ

しおりを挟む
カトリーヌは自室のベッドへ横になり、今日魔女から貰った小瓶を眺めている。

「……この液体を1滴飲み物に入れ、相手に飲ませる。その人の目を見ながら、知りたいことを一つだけ、簡潔に質問する。すると、真実を答えてくれる……」

5cmもない小瓶だ。
以前母を治してくれた薬が入っていた瓶と同じで、魔女の家の池と同じ深い緑色をしている。

「私の知りたいこと……」

カトリーヌは頭に浮かんだ人物に、思わず溜め息をつくのだった……———





翌日は朝から雨だった。

(向こうの空は明るいから、この上の黒い雲がどけば止むわね)

カトリーヌが店番をしながら暗い空を見ていると、ぱしゃぱしゃと足音が近づいて来る。

「よっ、おはよう」

「わっ! こんなザーザー降りの中をわざわざ来なくても……」

突然現れたローイの顔を見て、カトリーヌは驚く。
そして昨日貰った小瓶を咄嗟に思い出し、勝手に気まずさを感じて思いっきり顔を逸らしてしまう。

(不自然なタイミングで顔を逸らしてしまったわ……。私は何で……いくらローイでも気を悪くしたかも……)

「雨が止んだら客が来るだろ」

そんなカトリーヌの心配をよそに、今日もローイは全く気にも留めていない様に見えた。

(私が気にしているほど、ローイは私のことを気にしてはいない……か)

勝手に少し寂しい気持ちになりながら、カトリーヌは”チラッ”とローイを見る。
果物屋と野菜屋の屋根から屋根の間は数メートルだが、ザーザー振りの中を走ればかなり濡れる。
ローイのシャツが肌に張り付いているのを見て、カトリーヌは頬を染めた。

(意外と良い身体……細マッチョというやつかしら?)

カトリーヌはその顔を見られない様にローイへ背を向けると、そこにあったタオルを手に取り投げつけた。

「風邪ひくわよ」

「おっ、サンキュー」

いつも通りの明るいローイにほっとしながら、カトリーヌはまたしても可愛くないことを言ってしまう。

「何か用?」

(ああっ、本当に私は……)

背中を向けたままのカトリーヌの肩に、何か触れた。

(えっ?)

左の肩に手を置かれたことに気付いたカトリーヌは、

”トントン”

と二回その肩を叩かれて、素直に左を振り返る。


すると……


”むにっ”


ローイの人差し指がカトリーナの頬に突き刺さったのだ。

「……ローーーイーーー!!!」

(肩と頬にローイの手が……!!!)

ローイのいたずらに、カトリーヌは内心パニックだった。
ローイと触れ合うのは、一年以上前に母が病から目覚めたあの日以来だった。

真っ赤なのを誤魔化すようにローイのタオルを奪い、バシバシとローイを殴りつけるカトリーヌ。

「ははっ! お前が思いっきり顔を逸らすからだろ」

「えっ……?」

ふと冷静になり手を止めローイを見ると、少し頬が赤いように見える。

一瞬静まり返った空気を変えたのは、ローイだった。

「ごほんっ」

わざとらしく咳ばらいをしたかと思えば、急に真面目な顔で言う。

「最近、店の経営はどうだ?」

「えっ? ……まあ、隣町に果物屋が出来たから売り上げは落ちているけれど、別に母娘二人でやっていく分には何とかなっているわ」

「……そうか……」

ローイの珍しく考え込むような姿に、カトリーヌは首を傾ける。

(どうかしたのかしら……?)

そこで再び静まり返ったが、次に口を開いたのはカトリーヌだった。

「……最近私たち、あまりちゃんと話をしていなかったわね……」

ローイの横で、少し弱まった雨を見ながら”ぼそっ”と言ったカトリーヌの言葉に、ローイは”ガバッ”と顔を上げる。

「そうだぞ! 前は毎日のように何でも話していたのに! 何でも報告し合っていたのに! 隠し事なんてなかったのに! おばさんが元気になって嬉しいよ……でも、俺はもう用なしか!?」

その言葉に驚いたカトリーヌが振り返って見たローイの瞳は、眉毛も下がり珍しく悲しそうだった。

「えっ……別にそんな……」

「じゃあ、教えろよ!」

「な……何を?」

「時々どこに行っているんだよ?」

カトリーヌは一瞬目を見開くも、すぐに下を向いた。
母親が治ったのは魔女に貰った薬のおかげだということを、ローイにも言っていないのだ。

(ローイならきっとわかってくれる)

その想いと同時に、

(魔女に頼ったと知られたら、軽蔑されるかもしれない)

その想いが拭いきれなかった。
どうであれ、ローイは言いふらすようなことはしないだろう。
しかしカトリーナは、ローイに嫌われることが怖かった……

「……」

下を向き黙り込んでいるカトリーヌに、ローイは言った。

「……客が来た」

気付くと雨は上がっていて、野菜屋に客が来ている。

「……あっ……」

立ち去ろうとするローイに、何か言おうとするが何を言えば良いかわからないカトリーヌは、唇を嚙みしめる。
ローイはもう、カトリーヌを振り返ることはしなかった。
ただ一言、置き台詞だけ残して言った。

「……もう聞かない」

その言葉を聞いた瞬間、カトリーヌは固まった。

(嫌われた)

そう思ったのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王太子殿下との思い出は、泡雪のように消えていく

木風
恋愛
王太子殿下の生誕を祝う夜会。 侯爵令嬢にとって、それは一生に一度の夢。 震える手で差し出された御手を取り、ほんの数分だけ踊った奇跡。 二度目に誘われたとき、心は淡い期待に揺れる。 けれど、その瞳は一度も自分を映さなかった。 殿下の視線の先にいるのは誰よりも美しい、公爵令嬢。 「ご一緒いただき感謝します。この後も楽しんで」 優しくも残酷なその言葉に、胸の奥で夢が泡雪のように消えていくのを感じた。 ※本作は「小説家になろう」「アルファポリス」「エブリスタ」にて同時掲載しております。 表紙イラストは、雪乃さんに描いていただきました。 ※イラストは描き下ろし作品です。無断転載・無断使用・AI学習等は一切禁止しております。 ©︎泡雪 / 木風 雪乃

「好き」の距離

饕餮
恋愛
ずっと貴方に片思いしていた。ただ単に笑ってほしかっただけなのに……。 伯爵令嬢と公爵子息の、勘違いとすれ違い(微妙にすれ違ってない)の恋のお話。 以前、某サイトに載せていたものを大幅に改稿・加筆したお話です。

さようなら、初恋

芙月みひろ
恋愛
彼が選んだのは姉だった *表紙写真はガーリードロップ様からお借りしています

上手に騙してくださらなかった伯爵様へ

しきど
恋愛
 アイルザート・ルテシオ伯爵は十七歳で家督を継いだ方だ。  文武両道、容姿端麗、人柄も良く領民の誰からも愛される方だった。そんな若き英雄の婚約者に選ばれたメリッサ・オードバーン子爵令嬢は、自身を果報者と信じて疑っていなかった。  彼が屋敷のメイドと関係を持っていると知る事になる、その時までは。  貴族に愛人がいる事など珍しくもない。そんな事は分かっているつもりだった。分かっていてそれでも、許せなかった。  メリッサにとってアイルザートは、本心から愛した人だったから。

ついで姫の本気

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
国の間で二組の婚約が結ばれた。 一方は王太子と王女の婚約。 もう一方は王太子の親友の高位貴族と王女と仲の良い下位貴族の娘のもので……。 綺麗な話を書いていた反動でできたお話なので救いなし。 ハッピーな終わり方ではありません(多分)。 ※4/7 完結しました。 ざまぁのみの暗い話の予定でしたが、読者様に励まされ闇精神が復活。 救いのあるラストになっております。 短いです。全三話くらいの予定です。 ↑3/31 見通しが甘くてすみません。ちょっとだけのびます。 4/6 9話目 わかりにくいと思われる部分に少し文を加えました。

【完結】大好きなあなたのために…?

月樹《つき》
恋愛
私には子供の頃から仲の良い大好きな幼馴染がいた。 2人でよく読んだ冒険のお話の中では、最後に魔物を倒し立派な騎士となった男の子と、それを支えてきた聖女の女の子が結ばれる。 『俺もこの物語の主人公みたいに立派な騎士になるから』と言って、真っ赤な顔で花畑で摘んだ花束をくれた彼。あの時から彼を信じて支えてきたのに… いつの間にか彼の隣には、お姫様のように可憐な女の子がいた…。

あの、初夜の延期はできますか?

木嶋うめ香
恋愛
「申し訳ないが、延期をお願いできないだろうか。その、いつまでとは今はいえないのだが」 私シュテフイーナ・バウワーは今日ギュスターヴ・エリンケスと結婚し、シュテフイーナ・エリンケスになった。 結婚祝の宴を終え、侍女とメイド達に準備された私は、ベッドの端に座り緊張しつつ夫のギュスターヴが来るのを待っていた。 けれど、夜も更け体が冷え切っても夫は寝室には姿を見せず、明け方朝告げ鶏が鳴く頃に漸く現れたと思ったら、私の前に跪き、彼は泣きそうな顔でそう言ったのだ。 「私と夫婦になるつもりが無いから永久に延期するということですか? それとも何か理由があり延期するだけでしょうか?」  なぜこの人私に求婚したのだろう。  困惑と悲しみを隠し尋ねる。  婚約期間は三ヶ月と短かったが、それでも頻繁に会っていたし、会えない時は手紙や花束が送られてきた。  関係は良好だと感じていたのは、私だけだったのだろうか。 ボツネタ供養の短編です。 十話程度で終わります。

愚かな恋

はるきりょう
恋愛
そして、呪文のように繰り返すのだ。「里美。好きなんだ」と。 私の顔を見て、私のではない名前を呼ぶ。

処理中です...