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第一章:果物屋の看板娘とその幼馴染
⑤カトリーヌとローイ
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カトリーヌは自室のベッドへ横になり、今日魔女から貰った小瓶を眺めている。
「……この液体を1滴飲み物に入れ、相手に飲ませる。その人の目を見ながら、知りたいことを一つだけ、簡潔に質問する。すると、真実を答えてくれる……」
5cmもない小瓶だ。
以前母を治してくれた薬が入っていた瓶と同じで、魔女の家の池と同じ深い緑色をしている。
「私の知りたいこと……」
カトリーヌは頭に浮かんだ人物に、思わず溜め息をつくのだった……———
翌日は朝から雨だった。
(向こうの空は明るいから、この上の黒い雲がどけば止むわね)
カトリーヌが店番をしながら暗い空を見ていると、ぱしゃぱしゃと足音が近づいて来る。
「よっ、おはよう」
「わっ! こんなザーザー降りの中をわざわざ来なくても……」
突然現れたローイの顔を見て、カトリーヌは驚く。
そして昨日貰った小瓶を咄嗟に思い出し、勝手に気まずさを感じて思いっきり顔を逸らしてしまう。
(不自然なタイミングで顔を逸らしてしまったわ……。私は何で……いくらローイでも気を悪くしたかも……)
「雨が止んだら客が来るだろ」
そんなカトリーヌの心配をよそに、今日もローイは全く気にも留めていない様に見えた。
(私が気にしているほど、ローイは私のことを気にしてはいない……か)
勝手に少し寂しい気持ちになりながら、カトリーヌは”チラッ”とローイを見る。
果物屋と野菜屋の屋根から屋根の間は数メートルだが、ザーザー振りの中を走ればかなり濡れる。
ローイのシャツが肌に張り付いているのを見て、カトリーヌは頬を染めた。
(意外と良い身体……細マッチョというやつかしら?)
カトリーヌはその顔を見られない様にローイへ背を向けると、そこにあったタオルを手に取り投げつけた。
「風邪ひくわよ」
「おっ、サンキュー」
いつも通りの明るいローイにほっとしながら、カトリーヌはまたしても可愛くないことを言ってしまう。
「何か用?」
(ああっ、本当に私は……)
背中を向けたままのカトリーヌの肩に、何か触れた。
(えっ?)
左の肩に手を置かれたことに気付いたカトリーヌは、
”トントン”
と二回その肩を叩かれて、素直に左を振り返る。
すると……
”むにっ”
ローイの人差し指がカトリーナの頬に突き刺さったのだ。
「……ローーーイーーー!!!」
(肩と頬にローイの手が……!!!)
ローイのいたずらに、カトリーヌは内心パニックだった。
ローイと触れ合うのは、一年以上前に母が病から目覚めたあの日以来だった。
真っ赤なのを誤魔化すようにローイのタオルを奪い、バシバシとローイを殴りつけるカトリーヌ。
「ははっ! お前が思いっきり顔を逸らすからだろ」
「えっ……?」
ふと冷静になり手を止めローイを見ると、少し頬が赤いように見える。
一瞬静まり返った空気を変えたのは、ローイだった。
「ごほんっ」
わざとらしく咳ばらいをしたかと思えば、急に真面目な顔で言う。
「最近、店の経営はどうだ?」
「えっ? ……まあ、隣町に果物屋が出来たから売り上げは落ちているけれど、別に母娘二人でやっていく分には何とかなっているわ」
「……そうか……」
ローイの珍しく考え込むような姿に、カトリーヌは首を傾ける。
(どうかしたのかしら……?)
そこで再び静まり返ったが、次に口を開いたのはカトリーヌだった。
「……最近私たち、あまりちゃんと話をしていなかったわね……」
ローイの横で、少し弱まった雨を見ながら”ぼそっ”と言ったカトリーヌの言葉に、ローイは”ガバッ”と顔を上げる。
「そうだぞ! 前は毎日のように何でも話していたのに! 何でも報告し合っていたのに! 隠し事なんてなかったのに! おばさんが元気になって嬉しいよ……でも、俺はもう用なしか!?」
その言葉に驚いたカトリーヌが振り返って見たローイの瞳は、眉毛も下がり珍しく悲しそうだった。
「えっ……別にそんな……」
「じゃあ、教えろよ!」
「な……何を?」
「時々どこに行っているんだよ?」
カトリーヌは一瞬目を見開くも、すぐに下を向いた。
母親が治ったのは魔女に貰った薬のおかげだということを、ローイにも言っていないのだ。
(ローイならきっとわかってくれる)
その想いと同時に、
(魔女に頼ったと知られたら、軽蔑されるかもしれない)
その想いが拭いきれなかった。
どうであれ、ローイは言いふらすようなことはしないだろう。
しかしカトリーナは、ローイに嫌われることが怖かった……
「……」
下を向き黙り込んでいるカトリーヌに、ローイは言った。
「……客が来た」
気付くと雨は上がっていて、野菜屋に客が来ている。
「……あっ……」
立ち去ろうとするローイに、何か言おうとするが何を言えば良いかわからないカトリーヌは、唇を嚙みしめる。
ローイはもう、カトリーヌを振り返ることはしなかった。
ただ一言、置き台詞だけ残して言った。
「……もう聞かない」
その言葉を聞いた瞬間、カトリーヌは固まった。
(嫌われた)
そう思ったのだ。
「……この液体を1滴飲み物に入れ、相手に飲ませる。その人の目を見ながら、知りたいことを一つだけ、簡潔に質問する。すると、真実を答えてくれる……」
5cmもない小瓶だ。
以前母を治してくれた薬が入っていた瓶と同じで、魔女の家の池と同じ深い緑色をしている。
「私の知りたいこと……」
カトリーヌは頭に浮かんだ人物に、思わず溜め息をつくのだった……———
翌日は朝から雨だった。
(向こうの空は明るいから、この上の黒い雲がどけば止むわね)
カトリーヌが店番をしながら暗い空を見ていると、ぱしゃぱしゃと足音が近づいて来る。
「よっ、おはよう」
「わっ! こんなザーザー降りの中をわざわざ来なくても……」
突然現れたローイの顔を見て、カトリーヌは驚く。
そして昨日貰った小瓶を咄嗟に思い出し、勝手に気まずさを感じて思いっきり顔を逸らしてしまう。
(不自然なタイミングで顔を逸らしてしまったわ……。私は何で……いくらローイでも気を悪くしたかも……)
「雨が止んだら客が来るだろ」
そんなカトリーヌの心配をよそに、今日もローイは全く気にも留めていない様に見えた。
(私が気にしているほど、ローイは私のことを気にしてはいない……か)
勝手に少し寂しい気持ちになりながら、カトリーヌは”チラッ”とローイを見る。
果物屋と野菜屋の屋根から屋根の間は数メートルだが、ザーザー振りの中を走ればかなり濡れる。
ローイのシャツが肌に張り付いているのを見て、カトリーヌは頬を染めた。
(意外と良い身体……細マッチョというやつかしら?)
カトリーヌはその顔を見られない様にローイへ背を向けると、そこにあったタオルを手に取り投げつけた。
「風邪ひくわよ」
「おっ、サンキュー」
いつも通りの明るいローイにほっとしながら、カトリーヌはまたしても可愛くないことを言ってしまう。
「何か用?」
(ああっ、本当に私は……)
背中を向けたままのカトリーヌの肩に、何か触れた。
(えっ?)
左の肩に手を置かれたことに気付いたカトリーヌは、
”トントン”
と二回その肩を叩かれて、素直に左を振り返る。
すると……
”むにっ”
ローイの人差し指がカトリーナの頬に突き刺さったのだ。
「……ローーーイーーー!!!」
(肩と頬にローイの手が……!!!)
ローイのいたずらに、カトリーヌは内心パニックだった。
ローイと触れ合うのは、一年以上前に母が病から目覚めたあの日以来だった。
真っ赤なのを誤魔化すようにローイのタオルを奪い、バシバシとローイを殴りつけるカトリーヌ。
「ははっ! お前が思いっきり顔を逸らすからだろ」
「えっ……?」
ふと冷静になり手を止めローイを見ると、少し頬が赤いように見える。
一瞬静まり返った空気を変えたのは、ローイだった。
「ごほんっ」
わざとらしく咳ばらいをしたかと思えば、急に真面目な顔で言う。
「最近、店の経営はどうだ?」
「えっ? ……まあ、隣町に果物屋が出来たから売り上げは落ちているけれど、別に母娘二人でやっていく分には何とかなっているわ」
「……そうか……」
ローイの珍しく考え込むような姿に、カトリーヌは首を傾ける。
(どうかしたのかしら……?)
そこで再び静まり返ったが、次に口を開いたのはカトリーヌだった。
「……最近私たち、あまりちゃんと話をしていなかったわね……」
ローイの横で、少し弱まった雨を見ながら”ぼそっ”と言ったカトリーヌの言葉に、ローイは”ガバッ”と顔を上げる。
「そうだぞ! 前は毎日のように何でも話していたのに! 何でも報告し合っていたのに! 隠し事なんてなかったのに! おばさんが元気になって嬉しいよ……でも、俺はもう用なしか!?」
その言葉に驚いたカトリーヌが振り返って見たローイの瞳は、眉毛も下がり珍しく悲しそうだった。
「えっ……別にそんな……」
「じゃあ、教えろよ!」
「な……何を?」
「時々どこに行っているんだよ?」
カトリーヌは一瞬目を見開くも、すぐに下を向いた。
母親が治ったのは魔女に貰った薬のおかげだということを、ローイにも言っていないのだ。
(ローイならきっとわかってくれる)
その想いと同時に、
(魔女に頼ったと知られたら、軽蔑されるかもしれない)
その想いが拭いきれなかった。
どうであれ、ローイは言いふらすようなことはしないだろう。
しかしカトリーナは、ローイに嫌われることが怖かった……
「……」
下を向き黙り込んでいるカトリーヌに、ローイは言った。
「……客が来た」
気付くと雨は上がっていて、野菜屋に客が来ている。
「……あっ……」
立ち去ろうとするローイに、何か言おうとするが何を言えば良いかわからないカトリーヌは、唇を嚙みしめる。
ローイはもう、カトリーヌを振り返ることはしなかった。
ただ一言、置き台詞だけ残して言った。
「……もう聞かない」
その言葉を聞いた瞬間、カトリーヌは固まった。
(嫌われた)
そう思ったのだ。
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