【短編集】あなたが本当に知りたいことは何ですか?

ひかり芽衣

文字の大きさ
4 / 14
第一章:果物屋の看板娘とその幼馴染

④魔女と小瓶

しおりを挟む
ーーー現在。



「こんにちは、魔女様! 今日は良い林檎が入ったので、届けに来ました」

カトリーヌは、数ヶ月に一度は訪れているその場所へやって来ていた。
母がある程度回復してからというもの、時間を見付けては来ている。今日は3回目の訪問だ。

「また来たのかい」

身長は140cm程度だろうか?背中はすっかり曲がってしまっていて、それが実際よりも更に老婆を小さく見せている。
いつも真っ黒のローブで全身を覆っており、顔も口元しか出ていない。
そしてその口角が上がったところを、カトリーヌは一度も見たことがない。
魔女の表情はわからないが、カトリーヌは不思議と恐怖心を抱くことはなかった。
何故なら、カトリーヌはこの魔女のことを100%信用しているからだ。

「母を助けていただいたのに、お金を受け取って下さらないのですもの。……これくらい受け取って下さい」

「お礼はもう充分だよ」

抑揚のない声で、前回と同じ台詞を魔女は言う。

「いいえ、まだまだ全然足りませんよ! 本当は母も直接お礼に来たいと言っているのですが、ここは遠すぎて……。果物を届けさせて貰うことは、母の希望でもあるのです」

本当は毎月でも果物を届けに来たいのだが、往復で4時間以上かかるこの場所は中々に遠い。

「もっと何か出来ることがあれば良いのですが……。あっ、そうだ! 町の人の誤解を解きましょう!」

『閃いた』っと明るい表情で言うカトリーヌを一瞥して、魔女は大きく溜め息をついた。

「やめておくれ。せっかく人が近づかないように噂を流したのだから」

魔女の言葉に、カトリーヌは目を丸くする。

「えっ、魔女様がご自分で人払いをしたのですか!?」

「そうだよ。好き放題言うくせに自分の都合の良い時にだけ頼って来られて……うんざりだったんだよ」

(一体おいくつなんだろう……?)

魔女の溜め息を聞きながらふと生じた疑問を、カトリーヌはさっと心の中に閉まった。

鍋に入っている謎の液体を混ぜている魔女に、カトリーヌは不思議な顔で訊ねる。

「……では、何故私を……私の母を助けて下さったのですか?」

「こんな場所までわざわざ、こんな胡散臭い魔女を訪ねて来るほどに切迫詰まった人間くらいなら、助けてやっても良いかと思ってね。……性根の腐った奴は助けはしないけれどね」

ぶっきら棒にそう言う魔女に、カトリーヌは温かさを感じて思わず微笑む。

「……で、前回よりもしけたツラが酷くなっているが?」

突然の魔女の発言に、カトリーヌは思わず大声をあげる。

「へっ!? ひょっとして壺で見ましたか!?」

「3ヶ月前に一度だけ」

「……」

顔を赤くして固まるカトリーヌに、魔女は呆れた様子だ。

「見られたくなければ、ここへは来ないことだね。関わり方を決める為に、森に立ち入った者の情報収集をしているだけなのだから」

「……」

魔女は先ほど鍋で混ぜていた液体を、小瓶に移しながら言う。

「その時と同じ悩みかい?」

「……多分、そうです……」

躊躇しながらそう言うカトリーヌの言葉を聞いて、魔女はカトリーヌの方へ近づいて来る。
そして、たった今液体を入れた小瓶をカトリーヌの目の前に置くと、こう言った。


「私を信じるなら、これを飲ませてごらん」






しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王太子殿下との思い出は、泡雪のように消えていく

木風
恋愛
王太子殿下の生誕を祝う夜会。 侯爵令嬢にとって、それは一生に一度の夢。 震える手で差し出された御手を取り、ほんの数分だけ踊った奇跡。 二度目に誘われたとき、心は淡い期待に揺れる。 けれど、その瞳は一度も自分を映さなかった。 殿下の視線の先にいるのは誰よりも美しい、公爵令嬢。 「ご一緒いただき感謝します。この後も楽しんで」 優しくも残酷なその言葉に、胸の奥で夢が泡雪のように消えていくのを感じた。 ※本作は「小説家になろう」「アルファポリス」「エブリスタ」にて同時掲載しております。 表紙イラストは、雪乃さんに描いていただきました。 ※イラストは描き下ろし作品です。無断転載・無断使用・AI学習等は一切禁止しております。 ©︎泡雪 / 木風 雪乃

【完結】大好きなあなたのために…?

月樹《つき》
恋愛
私には子供の頃から仲の良い大好きな幼馴染がいた。 2人でよく読んだ冒険のお話の中では、最後に魔物を倒し立派な騎士となった男の子と、それを支えてきた聖女の女の子が結ばれる。 『俺もこの物語の主人公みたいに立派な騎士になるから』と言って、真っ赤な顔で花畑で摘んだ花束をくれた彼。あの時から彼を信じて支えてきたのに… いつの間にか彼の隣には、お姫様のように可憐な女の子がいた…。

さようなら、初恋

芙月みひろ
恋愛
彼が選んだのは姉だった *表紙写真はガーリードロップ様からお借りしています

「好き」の距離

饕餮
恋愛
ずっと貴方に片思いしていた。ただ単に笑ってほしかっただけなのに……。 伯爵令嬢と公爵子息の、勘違いとすれ違い(微妙にすれ違ってない)の恋のお話。 以前、某サイトに載せていたものを大幅に改稿・加筆したお話です。

ついで姫の本気

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
国の間で二組の婚約が結ばれた。 一方は王太子と王女の婚約。 もう一方は王太子の親友の高位貴族と王女と仲の良い下位貴族の娘のもので……。 綺麗な話を書いていた反動でできたお話なので救いなし。 ハッピーな終わり方ではありません(多分)。 ※4/7 完結しました。 ざまぁのみの暗い話の予定でしたが、読者様に励まされ闇精神が復活。 救いのあるラストになっております。 短いです。全三話くらいの予定です。 ↑3/31 見通しが甘くてすみません。ちょっとだけのびます。 4/6 9話目 わかりにくいと思われる部分に少し文を加えました。

上手に騙してくださらなかった伯爵様へ

しきど
恋愛
 アイルザート・ルテシオ伯爵は十七歳で家督を継いだ方だ。  文武両道、容姿端麗、人柄も良く領民の誰からも愛される方だった。そんな若き英雄の婚約者に選ばれたメリッサ・オードバーン子爵令嬢は、自身を果報者と信じて疑っていなかった。  彼が屋敷のメイドと関係を持っていると知る事になる、その時までは。  貴族に愛人がいる事など珍しくもない。そんな事は分かっているつもりだった。分かっていてそれでも、許せなかった。  メリッサにとってアイルザートは、本心から愛した人だったから。

愚かな恋

はるきりょう
恋愛
そして、呪文のように繰り返すのだ。「里美。好きなんだ」と。 私の顔を見て、私のではない名前を呼ぶ。

欲しいものが手に入らないお話

奏穏朔良
恋愛
いつだって私が欲しいと望むものは手に入らなかった。

処理中です...